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現代将棋の先手有利をどう覆す 佐藤名人vs羽生竜王の名人戦七番勝負

古作登大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員
2度目の防衛戦に臨む佐藤天彦名人(筆者撮影)

 佐藤天彦名人(30)に羽生善治竜王(47)が挑戦する第76期名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催)は第4局を終え2勝2敗のタイスコアで佳境を迎えている。

<第4局までの結果と戦型>

※▲=先手、△=後手

第1局 4月11、12日東京都「ホテル椿山荘東京」

羽生竜王(先)〇-●佐藤名人

横歩取り▲5八玉急戦

第2局 4月19日、20日石川県「北陸あわづ温泉 辻のや花乃庄」

佐藤名人(先)○-●羽生竜王

角換わり△早繰り銀

第3局 5月8、9日奈良県「法相宗大本山 興福寺」

羽生竜王(先)○-●佐藤名人

角換わり▲4八金△6二金

第4局 5月19、20日福岡県「アゴーラ福岡山の上ホテル&スパ」

佐藤名人(先)○-●羽生竜王

横歩取り▲青野流

4局連続先手勝ちが意味するもの

 上記のように今シリーズでは第1局から第4局まですべて先手が勝っている。戦型はさまざまだが後手が誘導した先手横歩取りが2局、それ以外は角換わりで後手早繰り銀と流行の▲4八金△6二金の対抗形が1局ずつで、いずれも後手側が趣向を凝らした印象だ。

 現代将棋においては先手勝率が52~3%前後で推移していて、トップ棋士同士や持ち時間が長くなるほど先手の優位性が増すと考えられている。名人戦の持ち時間は9時間と最長だから、先手のときはわずかなリードを確実にキープし勝ちに結び付ける技術が重要になる。両者は十分にこの条件をクリアしている。

後手側は先手期待値を最小限にする戦略が必須

ソフトによる第4局棋譜解析。先手が堅実な足取りで勝利
ソフトによる第4局棋譜解析。先手が堅実な足取りで勝利

 上に挙げた画像は第4局の形勢の推移をコンピュータソフト「Apery」で解析したもの。

 これ以外の対局でも今シリーズでは後手にはっきりした疑問手がないのに先手が微差のリードを拡大し押し切ったケースが多い。

 よって後手側は、先手の優位が出にくい戦型に誘導するのが戦略として求められる。

 今年5月3日~5日に行われた第28回世界コンピュータ将棋選手権においてトップレベルのソフト同士では昨年多かった横歩取りが激減し、角換わりに分類される早繰り銀や、腰掛け銀の将棋が多く見られた。何人かの開発者からは「後手でも横歩取りさえ避ければ、そこそこ戦える」との意見も聞くことができた。

 ミスのほとんど出ないコンピュータ将棋の世界では横歩を取られるマイナスは勝率に直結し、現時点でゲーム理論を基にした「後手の最適解」は先手の得を最小化する「角換わり誘導」なのかもしれない。

 「人間界」でも驚異的成績を挙げている藤井聡太七段(15)は、後手のとき2手目はすべて△8四歩とし横歩を取らせる将棋を選んでいない。

 後手の選択肢には角換わり以外に角道を止めての「雁木」も有力だ。こちらもコンピュータソフトの影響によりプロアマ問わず大流行しており、明確な先手有利の結論は出ていない。

<今後の日程>

第5局 5月29、30日愛知県「亀岳林 万松寺」

(羽生竜王先手)

第6局 6月19、20日山形県「天童ホテル」

(佐藤名人先手)

第7局 6月26、27日山梨県「常磐ホテル」

(振り駒で先後決定)

 以上の理由から1局の重みがこれまで以上に増す第5局以降、後手の棋士が角換わりないし雁木に誘導する可能性は高いと予測しておく。

 戦略がうまくいって後手で白星を挙げることができたほうが名人位に大きく近づくことだろう。

大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員

1963年生まれ。東京都出身。早稲田大学教育学部教育学科教育心理学専修卒業。1982年大学生の時に日本将棋連盟新進棋士奨励会に1級で入会、同期に羽生善治、森内俊之ら。三段まで進み、退会後毎日コミュニケーションズ(現・マイナビ)に入社、1996年~2002年「週刊将棋」編集長。のち囲碁書籍編集長、ネット事業課長を経て退職。NHK・BS2「囲碁・将棋ウィークリー」司会(1996年~1998年)。2008年から大阪商業大学アミューズメント産業研究所で囲碁・将棋を中心とした頭脳スポーツ、遊戯史研究に従事。大阪商業大学公共学部助教(2018年~)。趣味は将棋、囲碁、テニス、ゴルフ、スキューバダイビング。

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