棋士は将棋ソフトに勝てるのか コンピュータ将棋大会で見た「世界最先端」の将棋

優勝の「Hefeweizen」チームとソフトの指し手を見守る関係者(筆者撮影)

 5月3日から5日にかけ神奈川県川崎市「川崎市産業振興会館」で第28回世界コンピュータ将棋選手権(主催・コンピュータ将棋協会)が行われた。56ソフトが参加し2次にわたる予選を勝ち抜いた上位8ソフトによる決勝リーグの結果、優勝は6勝1敗の「Hefeweizen」(ヘーフェヴァイツェン)、2位は5勝2敗の「PAL」、3位は4勝3敗の「Apery」となった。

開発者はソフトの着手と評価値を見ながら一喜一憂する(筆者撮影)
開発者はソフトの着手と評価値を見ながら一喜一憂する(筆者撮影)

四半世紀前はアマ級位者レベル

 筆者がこの大会を観戦するようになったのは専門紙の記者を務めていた25年以上前。最初の頃は上位ソフトでもアマ級位者レベル、ほかのソフトはルール通りに指すのがやっとという感じだった。当然、定跡も不完全で玉の囲いをきちんとできたり、簡単な手筋を使うことができたりするだけで「強豪ソフト」と呼ばれる水準が数年続いた。その後定跡書やプロ棋士の棋譜を基に大量のデータを学習させ、21世紀を迎えるころにはアマ有段レベルのソフトが増えてきた。

 ブレークスルーが起きたのは2006年、保木邦仁氏(現・電気通信大学准教授)が開発した「Bonanza」(ボナンザ)の選手権登場だった。Bonanzaが取り入れた最も大きな革新はコンピュータの長所を生かした「全幅探索」(可能な限りすべての手を読む)の技術だった。

 これ以降レベルが急上昇し、現在の上位ソフトはトップ棋士をはるかに超えていてタイトルホルダーが同条件で今大会に参加しても決勝リーグに進むことが不可能な実力差になっている。

<過去3年の人間対コンピュータソフト公式対局成績>(段位はいずれも当時)

2015年 将棋電王戦FINAL(団体戦)

斎藤慎太郎五段○-●Apery

永瀬拓矢六段○-●Selene

稲葉陽七段●-○やねうら王

村山慈明七段●-○ponanza

阿久津主税八段○-●AWAKE

2016年 第1期電王戦2番勝負

山崎隆之八段0-2ponanza

2017年 第2期電王戦2番勝負

佐藤天彦名人0-2ponanza

 3年前の団体戦では棋士側が3-2と勝ち越したが、勝った将棋の多くは事前の精密な研究によるソフトの欠陥をついてのものだった。これ以降ソフトがバグに近い欠陥を補正したことによって人間の完敗が続いている。

進化を続けるソフトから人間が学ぶ時代に

 コンピュータソフトと人間の違いはいくつかあるが、一番大きいのは1秒間に数千万~数億局面を読めるため見落としが少ないこと。ソフトは状況に応じて20数手~40手ほど先の局面を比較し、評価値の高い局面に至る手順を「感情抜き」に選ぶだけである。したがって読みの効率や評価の正確性が強弱を決める。

 人間はほぼ一本道の変化ならこれ以上深く手を読む場合もあるが、分岐が多いと数千局面を読むことすら不可能だ。よってそうした場面で人間は読みを省略し、経験を生かした直観で善悪を判断する。

 もうひとつの違いは何局連続で戦ってもコンピュータは人間のように疲れて集中力が落ち、読みが浅くならないこと。

 さらに強豪ソフトの多くはコンピュータ同士の対局サイト「floodgate」で対戦し日々進化、改良を続けている。強くなることはあってもプログラミングのミスがなければ弱くなることはまずない。

 以前、決勝リーグを解説したトップ棋士の菅井竜也王位、千田翔太六段らは「見えないところからパンチが飛んでくる」とソフトの将棋を評し「近い将来振り飛車が減っていく」とも話していた。

 この予想どおり、近年振り飛車党の棋士がソフトの影響を受けて居飛車主体に戦法を変える傾向が見られる。多くのソフトが振り飛車を持った時の勝率が悪いためだ。

 今年の大会は昨年準優勝で、第2期電王戦でも佐藤天彦名人に2連勝した「ponanza」(ポナンザ)は不参加だったが、上位ソフトは軒並み前年優勝ソフトに7割の勝率というから進化は止まっていない。

 今回ソフト同士の対局で多く出現した戦型は近いうちにプロの公式戦でも見られることだろう。20年前と立場を変え現在は「ソフトから人間が学ぶ」時代になっているのだ。