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羽生竜王のタイトル獲得通算100期なるか 佐藤名人との頂上決戦をデータから予測する

古作登大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員
前人未到の大記録を名人戦の舞台で目指す羽生竜王(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 佐藤天彦名人(30)への挑戦者を決める第76期順位戦(朝日新聞社、毎日新聞社主催)A級プレーオフ最終戦は3月21日東京都の将棋会館で行われ、羽生善治竜王(47)が稲葉陽八段(29)を降して2年ぶりの名人戦出場を決めた。棋界の頂点を争う七番勝負、データを基に予想してみた。

2017年5月第2期電王戦でコンピュータと対局する佐藤名人(筆者撮影)
2017年5月第2期電王戦でコンピュータと対局する佐藤名人(筆者撮影)

<第76期将棋名人戦七番勝負日程>

第1局 4月11、12日 東京都「ホテル椿山荘東京」

第2局 4月19日、20日 石川県「北陸あわづ温泉 辻のや花乃庄」

第3局 5月8、9日 奈良県「法相宗大本山 興福寺」

第4局 5月19、20日 福岡県「アゴーラ福岡山の上ホテル&スパ」

第5局 5月29、30日 愛知県「亀岳林 万松寺」

第6局 6月19、20日 山形県「天童ホテル」

第7局 6月26、27日 山梨県「常磐ホテル」

対照的な両者の調子

 昨年12月、第30期竜王戦七番勝負(読売新聞社主催)で渡辺明竜王(当時)を4勝1敗で破りタイトル奪取とともに通算7期の永世資格を得て、史上初の「永世七冠」を達成した羽生竜王が一昨年に失った名人復位に名乗りを上げた。

 2017年度は夏から秋にかけて王位、王座と二冠を立て続けに失い衰えすら心配されたが現在は上り調子、年度成績も32勝22敗(最大連勝6)と勝ち越している。

 一方の佐藤名人は昨年6月に稲葉八段の挑戦を4勝2敗で退け名人防衛に成功はしたものの他棋戦での成績は振るわず、2017年度成績は16勝19敗(最大連勝2)と棋士になって初めての年度負け越し。羽生竜王と調子の差は明らかで防衛戦を前に不安が残る。

<佐藤名人の最近10局>(段位は対局当時)

12月1日 棋王戦

対黒沢怜生五段●

12月4日 王位戦

対増田康宏四段○

12月20日 王位戦

対所司和晴七段○

12月24日 叡王戦

対金井恒太六段●

1月14日 朝日杯

対永瀬拓矢六段●

1月14日 朝日杯

対藤井聡太四段●

1月28日 王位戦

対松尾歩八段●

1月31日竜王戦2組

対畠山鎮七段○

3月2日 竜王戦2組

対橋本崇載八段●

3月27日 棋聖戦

対阿部光瑠六段●

<羽生竜王の最近10局>(段位は対局当時)

12月21日 順位戦A級

対稲葉陽八段●

1月11日 順位戦A級

対佐藤康光九段○

1月13日 朝日杯

対高見泰地五段○

1月13日 朝日杯

対八代弥六段○

2月1日 順位戦A級

対屋敷伸之九段○

2月17日 朝日杯準決勝

対藤井聡太五段●

2月20日 王位戦リーグ

対近藤誠也五段○

3月18日順位戦A級プレーオフ

対豊島将之八段○

3月21日 順位戦A級プレーオフ

対稲葉陽八段○

3月27日 王位戦リーグ

対谷川浩司九段○

輿論は「羽生推し」か

 「名人は選ばれたものがなる」という言葉は20年ほど前、筆者が専門紙の編集長を務めていたころ棋界でよく聞いた。強さは誰もが評価していても、棋士ばかりでなく輿論の支持の薄かった挑戦者が無言のプレッシャーに押しつぶされたり、名人に就いた棋士に対してすら、週刊誌に批判的な記事が載ったりしたこともあった。江戸時代の一世名人大橋宗桂から400年続いてきた称号はそれほど重いのかもしれない。

 おだやかな人柄で仲間からの信頼も厚い佐藤が名人にふさわしい棋士であることはいうまでもないが、それ以上に今回の七番勝負、輿論はタイトル獲得通算100期の大記録がかかる羽生竜王の名人奪取を期待していることだろう。

 だが、佐藤名人にとっても今期防衛することで通算3期となり歴史に名を刻む「二十世名人」の永世資格獲得(通算5期)が視野に入る。今後の棋士人生がかかっているといっていい岐路の七番勝負なのだ。

直接対決は佐藤名人5連勝中

 両者の調子に関しては前述の通り挑戦者有利は明らかであるが、直接対決に関しては以下のようなデータがある。

<佐藤名人vs羽生竜王全対戦成績>

2012年6月25日

棋王戦 羽生勝ち

2013年5月17日

竜王戦1組出場者決定戦 羽生勝ち

2015年5月15日

銀河戦 佐藤勝ち

2015年9月2日

王座戦五番勝負第1局 羽生勝ち

2015年9月17日

王座戦五番勝負第2局 佐藤勝ち

2015年9月24日

王座戦五番勝負第3局 佐藤勝ち

2015年10月6日

王座戦五番勝負第4局 羽生勝ち

2015年10月26日

王座戦五番勝負第5局 羽生勝ち

2016年4月5、6日

名人戦七番勝負第1局 羽生勝ち

2016年4月22、23日

名人戦七番勝負第2局 佐藤勝ち

2016年5月12、13日

名人戦七番勝負第3局 佐藤勝ち

2016年5月25、26日

名人戦七番勝負第4局 佐藤勝ち

2016年5月30、31日

名人戦七番勝負第5局 佐藤勝ち

2016年11月14日

叡王戦 佐藤勝ち

 この1年半直接対決はないものの通算では佐藤名人が8勝6敗と勝ち越し、しかも直近は5連勝と圧倒している。どの棋士にも得意戦法があり、攻めが得意や受けを好むといった「棋風」が存在するので、それが結果として「相性」につながることは少なくない。

 佐藤名人の得意形や指しまわしがそのまま羽生竜王の苦手となれば、今回の七番勝負は挑戦者にとって思いのほか厳しいものになるかもしれない。

大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員

1963年生まれ。東京都出身。早稲田大学教育学部教育学科教育心理学専修卒業。1982年大学生の時に日本将棋連盟新進棋士奨励会に1級で入会、同期に羽生善治、森内俊之ら。三段まで進み、退会後毎日コミュニケーションズ(現・マイナビ)に入社、1996年~2002年「週刊将棋」編集長。のち囲碁書籍編集長、ネット事業課長を経て退職。NHK・BS2「囲碁・将棋ウィークリー」司会(1996年~1998年)。2008年から大阪商業大学アミューズメント産業研究所で囲碁・将棋を中心とした頭脳スポーツ、遊戯史研究に従事。大阪商業大学公共学部助教(2018年~)。趣味は将棋、囲碁、テニス、ゴルフ、スキューバダイビング。

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