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「この会社、おかしくない?」 5月は「ブラック企業」に気付くタイミング

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです(写真:アフロ)

 新年度がはじまって1か月が経った。連休が明けの体調不良を「五月病」と昔から言うが、いまの日本の労働環境は人を使いつぶすことを辞さない「ブラック企業」が跋扈しており、「五月病」で体調を崩すどころか、精神疾患による長期休業に追い込まれたり、退職を余儀なくされる人も多く出ているのが現状だ。

 また逆に、GW明けは、新卒で会社に入ったばかりの若者たちが「ブラック企業」に悩み始めるタイミングともなる。休み中に家族や友人から「それってブラックじゃない?」と言われてしまったり、GW後に出るはじめての給与明細で違法な残業代不払いが発覚することが多いからだ。

 そこで今回は、今年の新卒で入社した若者やその家族が、どうやって「ブラック企業」を見分けたり、違法な労働環境に対処できるのかについて解説していこう。

違法がまかり通る労働現場

 まず皆さんにお伝えしたいことは、「企業は法律を当たり前に守るだろう」という先入見を捨てるべきだことだ。

 下記に示すのは、厚生労働省が発表している労働基準監督署(労働基準法などを取り締まる厚生労働省の機関)が指導して支払われた未払い賃金の額の一覧だ。

労働基準監督署の指導で支払われた未払い賃金額(万円)

2016年度 127億2327万円

2017年度 446億4195万円

2018年度 124億4883万円

2019年度 98億4068万円

2020年度 69億8614万円

さらにこちらはコロナ前の2020年度の指導実績の詳細だ。

(1)是正企業数1,062企業(前年度比549企業の減)

うち、1,000万円以上の割増賃金を支払ったのは、112企業(前年度比49企業の減)

(2)対象労働者数6万5,395人(同1万3,322人の減)

(3)支払われた割増賃金合計額69億8,614万円(同28億5,454万円の減)

(4)支払われた割増賃金の平均額は、1企業当たり658万円、労働者1人当たり11万円

参考:厚労省HP

 これらの数値を見ればわかるように、毎年、数万人に対し、数十億~百数十億円もの未払賃金が行政指導によって支払われている。高額の賃金未払いに驚く読者も多いだろうが、労働基準監督署が取り締まっているのは氷山の一角に過ぎない。

 労働基準法違反を取り締まる労働基準監督官は、東京23区に200人強、全国に2000人強しか配置されていない。単純計算で、一つの区に10人程度しか配置されていないことになり、とても違法企業すべてを監督できるはずがない。監督官は定期監督や労働者の申告に基づき、重大な事件に的を絞って対応しているのが現実だ。

 本来、残業代不払いには刑罰も規定されており、本来は許されることではない。まさに日本の労働環境は無法地帯なのだ。

 なお、本記事では詳しく解説できないが、諸外国では職場委員会制度や労働組合の職場組織が残業代不払いを許さないことが一般的であり、日本の違法残業の多さには驚かれることがしばしばである。

GW明けに「おかしさ」に気づくパターン

【事例1】洗脳研修後におかしいといわれた事例

 最初に紹介するのは、関西圏の新興不動産会社に新卒入社したAさんのケースだ。

 Aさんは、就活の時から厳しいといわれる不動産業界に就職して自分を試したいと考え、同社に入社した。

 この会社では、4月1日の入社式の翌日から7泊8日の「ブラック研修」があった。1週間の間、早朝から深夜まで「研修」が続けられ、1日の睡眠時間は1時間程度だったという。異様だったのは夜8時から行われた「己を知る」というプログラムで、1人1人が自分の長所や短所を明かし、同期が上司に誘導されながら、お互いに批判するよう強要されるものだった。

 9人の同期に対して、1人あたり約1時間が費やされ、この異常な光景は初日の夜の午後8時から翌朝5時前まで続けられた。また、研修では毎日さまざまなテストが課され、満点でないと上司から激しく叱責された。心身ともに限界を超えた状態でまともな思考力が失われた中で、企業への隷属意識が植え込まれたのだ。まさに洗脳だ。

 合宿が明けてからも、異常な働き方が始まった。終電帰りは当たり前、休日なしに皆が働き続けた。

 こうした異常な様子に気が付いたのは、Aさんの母親や恋人などだった。恋人は、ご飯を食べる間もないAさんのために食事を持っていき、いざというときの証拠のために日報をコピーしておくようにアドバイスしてくれた。母親は同社に退職者が多いことを知り、Aさんからメールや電話の返事が来ないことで異変を感じており、「辞めなさい」と背中を押したのだった。

異常な働き方と思ったらすぐに専門機関に相談

 洗脳研修は入社して早い時期に行われる場合が多い。GW明けの時期には研修を終え、異常な働き方が始まっている頃だろう。家族や友人の様子がおかしいと感じたり、連日の長時間労働など過重労働が見受けられた場合でも、新卒だから少しは頑張ってみるべきなどと考えてしまうことが多いが、早めに専門の相談機関に相談することをお勧めする。

 また、洗脳研修の最中にある人にとって大切なことは、会社や同僚や上司からの従属の圧力に負けず、「おかしい」という気持ちを持ち続けることだ。「おかしい」と思うことに対して上司や同僚から激しく批判されると、「おかしい」と思っている自分がおかしいのではないかと思ってしまいがちだが、あなたの「おかしい」は正しいので、まずは、その気持ちを大切に、専門機関に連絡してほしい。

【事例2】給与明細をみて残業代が支払われないことを知った事例

 次に紹介する事例は、賃金明細をみて初めて残業代が出ないことに気が付く例だ。

 Bさんが新卒で入社したのは、トラックで街頭やビル内の自動販売機の商品補充や代金回収を行う「ルートセールス」の仕事についた。この会社の賃金は「基本給+20時間分の固定残業代」というものだった。

 入社後3か月間は先輩と二人の研修で基本的に残業はなかったのだが、7月にはひとりで業務をこなすようになり、残業が増えていった。夏は商品の切り替えの時期で仕事を始めたばかりのBさんでも40時間以上の残業をするようになった。

 固定残業代が20時間分ついているのだから、40時間残業なら20時間分の残業代が固定残業代とは別途支払われるはずだった。ところが給与明細には固定残業代以外には残業代が付いていなかった。疑問に感じたBさんは営業所長にどういうことか聞いたが、「そういうものだ」という答えだった。

雇用契約書や賃金明細をしっかり見ること、仕事の記録をつけることが大切

 新卒者に限らず、雇用契約書や賃金明細の内容を細かくチェックしないことが多いが、しっかりチェックすることが重要だ。特にBさんの例のように固定残業代が入っている場合や裁量労働制を取っている場合など、残業代が定額で支払われる給与体系のときには、労働時間と実際の賃金額の関係が見えにくくなっているので、注意が必要だ。

 固定残業代の額はあっているだろうか、実労働時間と支給された賃金額は正しく一致しているだろうか。こうした点は最低限チェックすべきだろう。

 支給額をチェックするためには、毎日の就業時間を記録しておくことが必要だ。毎日手書きの手帳に就労時間を記録したり、メールで始業・終業時刻を記録するようにするとよい。

おわりに

 以上のように、5月は新入社員が自分の職場の問題に気づくタイミングとなる。このタイミングを逃すと、ずるずると問題のある職場に巻き込まれてしまい、体調を崩したり、キャリアのチャンスを損ねたりしてしまうこともある。

 改めて入社後の状況を振り返り、家族や友人など第三者とも状況を吟味することで、自分の会社の「合否判定」をする機会にしてみてはいかがだろうか。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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