船橋労働基準監督署が東海大学付属浦安高等学校・中等部(以下「東海大浦安」とする)で発生していた賃金不払いについて、是正勧告(行政指導)を出したと先日、共同通信が報じた。是正勧告が出たのは2022年1月6日付けということであった。

参考:「非正規教員に賃金未払い 東海大浦安高に労基署勧告」(2022年3月22日) 

 今回の勧告は、私立学校教員が組織する労働組合・私学教員ユニオンの非常勤講師による労働基準監督署への通報がきっかけで出されたもので、授業時間以外の授業準備等の「付随業務」に十分な賃金が支払われない「コマ給」が是正の対象とされた。

 一般的にはあまり知られていないが、私立高校では近年、非正規教員が増加し続け、4割に及んでおり、私立高校の2人に1人が非正規教員といっても過言ではない状態にまで至っている。

 今回の是正勧告は、非正規雇用教員に依存し、コスト優先の教育に傾注している私学業界全体に一石を投じるものだ。

賃金未払いが前提の「コマ給」

 私立学校では一般的に、非正規雇用で働く学校教員は、正規雇用の「専任教諭」とほぼ同様の仕事をし、フルタイム勤務する「常勤講師」(契約社員)と、授業単位で業務を引き受ける「非常勤講師」(パート労働者)の2形態に分けられる。

 直近の文部科学省『学校基本調査』(2021年度)によれば、私立高校(全日制及び定時制)の非常勤講師の比率は約30%、人数は3万人に達しようとしており、非正規教員全体の4分の3ほどを占めている。非常勤講師は担任につかず、授業だけを行うことになっており、賃金は「コマ給」であることが通常である。

 「コマ」とは授業のことだ。「コマ給」は、週に担当する授業数により賃金額を決める賃金形態である。私学教員ユニオンの教員らによると「コマ給」の相場は一回の授業当たり2000〜3000円程度である。

 このコマ給は、以前から「賃金未払いが前提となっている」と問題視されてきた。教員は、授業時間だけ働いていればよいわけではなく、授業準備、試験作成、採点、生徒からの質問対応、生徒指導などの膨大な「付随業務」を行う必要があり、こうした業務のほとんどに対しては賃金が支払われないからだ。

 例えば、1コマ2000円で働く非常勤講師が、ある授業をするために1時間の授業準備をしたら、事実上給料は半額になってしまう。中には、さらに時間がかかることもあり、時給あたり最低賃金を割った状態で働く非常勤講師も珍しくはない。

採点、生徒指導、試験問題作成、成績処理等は20分以内?

 東海大浦安のコマ給も未払いが生じていたが、授業以外にも「少しだけ」賃金が付くことになっていたが、その記述がさらなる問題を含んでいる。

「授業は準備等を含めて1回(コマ)あたり60分(授業50分、準備・片付け各5分)とし、授業に付随する業務(採点、生徒指導、試験問題作成、成績処理等)時間については、1回(コマ)あたり20分に換算する。また、教科会議等については出席するものとする」「非常勤講師雇用契約書」、私学教員ユニオンに加盟する当該労働者提供

 この契約では、「授業に付随業務」が特定されておらず「成績処理等」とされており、20分の賃金であらゆる関連業務をこなすことが前提になっている。そして、実際にいくら働いてもこれ以上の賃金が支払われることがなかった。まるで「定額働かせ放題」の契約だ。

非常勤だけにタイムカードは使わせないという異常な労務管理

 さらに、東海大浦安では専任教諭や常勤講師(東海大浦安では特任教諭という名称)は「タイムカード」を渡され労働時間の打刻を義務付けていたが、非常勤講師にだけ使わせないようにしていた。

 非常勤講師は「出勤簿」というカレンダーのような表にハンコを押すだけであった。それでは、実際の労働時間は分からず、出勤したかどうかだけしか分からない。非常勤講師に対してなぜタイムカードを使わせないのか、ユニオンが団体交渉で学校へ問うと、「そういう契約だから」ということを学校は繰り返したという。

 確かに、大学なども含め、非常勤講師の管理がを「出勤簿」で行うことは一般的ではある。しかし、非常勤講師に対し、授業時間外の命令をすることは一般的ではない。

 つまり、今回の問題は、非常勤講師はコマ給を建前にして、実際には違法な「定額給」にしていた可能性があるのである。

学校の時計の写真が 労働時間の証拠に

 未払賃金の請求には労働時間の記録が必要だ。しかし、学校側がタイムカードを使わせてくれないため、非常勤講師として働くAさんは、なんとか工夫して労働時間の記録を作った。

 下記が私学教員ユニオンから提供を受けた実際の写真である。

労基署に申告した教員が残していた証拠写真。
労基署に申告した教員が残していた証拠写真。

 Aさんは、出退勤の際に、学校の用務員室にある時計をスマートフォンで撮影して残したのである。この日は、残業をして20:11に用務員室の時計を撮影している。この写真ならいつどこにいたかを証明する証拠になる。

船橋労働基準監督署の是正勧告

 ところが、東海大浦安は、上記のような証拠資料を提示しても、「実際の勤務時間とは言えない」、「授業がない時間帯に行っていた授業準備は自己研鑽の時間であった」などと主張し、Aさんが授業外に行っていた付随業務のごく一部しか労働時間と認めようとはしなかった。また、非常勤講師へのタイムカードの導入を求めても、一向に話は進まなかったという。

 そこでAさんは、労働基準監督署へ問題を通報した。その結果、冒頭にご紹介した通り、労働基準監督署が違法行為を認定し是正勧告を出すに至ったのだ。

 具体的な是正勧告の内容はつぎの2つだ。

・「教科会」(担当科目の教員同士の打ち合わせ)は日時が特定でき、それに対する未払い賃金を支払うこと(労働基準法24条違反)

・出勤簿ではなくタイムカードなど客観的な方法により教員の労働時間を把握すること(労働安全衛生法第66条の8の3違反)

 そのほか、そもそも労働時間が把握されていないため法違反があると明確に認定はしづらいが、部活動や授業準備等についても、労働実態を過去2年間にわたって調査し、未払い賃金があれば支払うように指導もしたという。

 なお、今回の指導は証拠写真が直接的に採用されて実現したものではないが、指導の背景として説得力をもっていたことが推察できる。また、同校に対し今回の事件について取材を申し入れたが、回答は得られなかった。

是正指導の画期性

 最後に、以上の労基署からの是正勧告や指導の意義について考えたい。今回の指導は、今後の教員の長時間労働問題の是正に対し、非常に大きな意味を持っている。

 まず、授業以外の業務に対して労働時間と認定し、賃金を支払うように勧告した点である。さらに、教科会については日時の特定が明確であったため、勧告が出たが、部活や授業準備などの他の授業以外の業務についても踏み込んで指導が出たことは大きな一歩である。

 今回の判断が出されたことは、「コマ給」の下、どんなに付随業務をしても「定額働かせ放題」の状況で苦しむ非常勤講師の待遇改善を促すものだ。

 二点目は、労働時間の把握について労働基準監督署が指導したことである。

 これはやや専門的なことになるが、実は最近まで労働時間の適正把握は厚労省の通達があるだけで、法律の規制が何もなかった。それがやっと変わったのが2019年の労働安全衛生法の改正で義務付けられた。過労死をなくすための遺族を中心とした運動の成果と言われている。

 今回の是正勧告は、労働時間の客観的な把握を怠っている学校に対して、この法律を使って是正勧告を出しタイムカードなどを職場に導入させることができるという実例を示すことになった。過重労働や残業代不払いが蔓延する教育業界では、客観的な労働時間の把握は改善を目指す上での大前提である。

 特に公立学校ではこの間「教員の働き方改革」が叫ばれる中で、タイムカードの導入が進んでいるが、私立学校では、未だに出勤簿だけしかなく、タイムカードが導入されていないことが少なくない。私立教員のみなさんには今回の実例を使ってどんどん権利行使をしてもらいたい。

※労働時間の適正な把握はこちらをご覧ください

東京労働局『改正労働安全衛生法のポイント』

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