いま、「職場クラスター」に関する不安と怒りの声がSNSに続々と投稿されている。

「職場がクラスターになりそうで戦慄です……」

「あぁー職場、完全にクラスターなのにまだ通常営業しようとしてるからわけわかめ。」

「希望休も取れない、クラスター発生してる職場に行かなきゃ行けないのか…」

「クラスターおきてることを隠蔽しようとしてる 私の職場はなにもただしくないです」

 「職場 クラスター」でTwitterを検索すると、以上のようなコメントが毎時間ごとにTweetされているのだ。さらには、「職場クラスター」の隠蔽や通常営業の強行に抗議して、労働者が集団でストライキを行う“異例”の動きも出てきている。

 そこで、本稿では、なぜ「職場クラスター」の隠蔽が大規模に起きているのか(保健所は何をしているのか)、「職場クラスター」の隠蔽は法律違反に当たらないのか、労働者はどのようにして「職場クラスター」の隠蔽に対処・対抗できるのか(ストライキという手段は有効なのか)、をみていきたい。

なぜ、いま「職場クラスター」の隠蔽が起きているのか?

 「職場クラスター」の隠蔽というと、「え? 保健所が調査をしてクラスター(集団感染)と認定されれば、企業(雇用主)に対応策の指導があるはずでは?」と思われる方もいるに違いない。

 実際、それが国の感染対策の「原則」である。だが、今は「例外」とされる対応が広がっているのだ。

 東京都新宿区によれば、「急速な感染拡大によって保健所の業務が逼迫しており、個人の患者対応を企業対応より優先するため、東京23区では昨年末から職場における感染経路を追ってない」という。

 このことはまだあまり知られていないが、一部では報道もされ始めている。少し長くなるが、岐阜新聞「濃厚接触者の調査を絞る、職場感染は一任 岐阜県方針転換」(2022/1/25)から引用しよう。

「岐阜県は24日、新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大に伴い保健所の業務が逼迫(ひっぱく)しているとして、感染経路や濃厚接触者を調べる「積極的疫学調査」を絞り込む対応に切り替えたと明らかにした。これまでは全ての感染者を対象とし、感染者の周辺で新たな感染者がいないかなどを調査してきたが、今後は高齢者施設や医療機関などを優先し、一般の職場内感染などは当事者に任せる。他の都道府県ではみられるが、岐阜県としては初の方針変更となる。(中略)

職場については、これまで保健所側からアプローチして調査してきたが、必要に応じて当事者で濃厚接触者を自主的に特定し、保健所に連絡してもらう方式にする。職場でのクラスター(感染者集団)確認が十分にできなくなる可能性がある。」

 この記事からは、現在では保健所がクラスターを認定しなかったことは、「集団感染が起きていない」ことを意味しないという状態にあることがわかる。

 それにもかかわらず、職場で集団感染が発生した際に、雇用主が従業員に向けて「保健所がクラスターと認定していないから営業を続けても感染対策上、問題ない」とアナウンスすることがある。

 これは誤解、あるいは隠蔽を意図した虚偽の説明なのである。言いかえれば、保健所が職場感染の調査を中断したのをいいことに、大規模な集団感染が職場で起きても、クラスターを隠蔽し、業務を継続させる雇用主が存在するということだ。

 とはいえ、保健所を責めても仕方ないだろう。もちろん、保健所の人員削減をしてきた行政の責任の問題はあるにせよ、現場の保健師が急増する個人の患者対応に追われた結果であることを踏まえれば、職場の当事者に感染経路の調査や感染対策を委ねるという対応は、やむを得ない面もある。

 むしろ、委ねられた職場の当事者、第一義的には企業=雇用主が誠実に職場の感染対策・感染拡大防止に努め、保健所に協力することが求められている。それにもかかわらず、「職場クラスター」を隠して通常営業・出勤要請を続ける企業が後を絶たないのだ。

「職場クラスター」の隠蔽は法律違反に当たらないのか

 そもそも、雇用主が「職場クラスター」を否定・隠蔽して、従業員を危険に晒すことは法律違反には当たらないのだろうか?

 まず、国はクラスターの定義を明確に定めていない。厚生労働省は5人程度の感染者発生を一つの目安としているものの、やはり明確な基準は示していない。また、職場で集団感染が起きた際に、雇用主がどのような対応をすべきかについても明確に義務づけていない。このことが、雇用主にとって判断を難しくする一因となっており、国は早急に明確な指針を設けるべきあろう。

 とはいえ、職場でクラスターを疑われるような規模の集団感染(5名以上の感染者発生が目安となるであろう)が発生しているにもかかわらず、通常通りの出勤要請を行うことは、雇用主が負う労働者に対して負っている「安全配慮義務」に違反している可能性がある。

 安全配慮義務とは、従業員が安全かつ健康に働けるようにするため、雇用主が負う義務のことである(労働契約法第5条で定められている)。これは、雇用主がこの安全配慮義務を怠ったことで、労働者が怪我をしたり病気に罹ったりして損害が発生した場合には、雇用主は損害賠償を支払う義務があるということだ。

 また、「職場クラスター」が発生した際にコロナに罹患した場合には、私生活での行動等から一般生活での感染リスクが低いと判断されれば、労働災害として認定される可能性が高いとされている(なお、医療従事者等がコロナに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかな場合を除き、原則として労災認定される)。労災認定されれば、医療費は無料となり、休業補償(給与の8割)が受けられる。

 そして、雇用主が合理的な感染対策を採っていなかったり、集団感染の事実を把握してからも通常出勤を指示したりするなど、雇用主の過失が認められれば、上述の通り、雇用主には損害賠償を支払う義務(労働者にとっては損害賠償を請求する権利)があると考えられる。

参考:意外に知らない⁈ 労災保険の給付について解説 仕事でコロナに感染した方も申請できます

「職場クラスター」の隠蔽への対処法

 とはいえ、損害賠償請求は、コロナに罹患してしまったことを前提とするものであり、未然に感染リスクを低減させるものではない。そこで、もう一つ検討してみたいのが、労働組合によるストライキという方法だ。

 実はすでに、「職場クラスター」の下での出勤要請に抗議し、感染対策を要求するとして、ストライキを行う動きが起きている。

 個人加盟の労働組合である総合サポートユニオンのnoteによれば、KDDIエボルバのコールセンターにおいて「1月19日から26日までの一週間で12人もの感染者」が出たことをうけ、ユニオン側は「従業員へのPCR検査を行い、陰性が確認された者から出勤再開」として「その間の賃金については10割補償」することを要求して、1月26日から組合員1名がストライキを始めたという。

 さらに、ユニオンがSNSでストライキへの参加を呼びかけたところ、「KDDIエボルバに勤める9名のオペレーターがユニオンに新規加入し」たため、2月3日現在で「10名のオペレーターがストライキ通告をして」いる。

 共同通信の記事によれば、「KDDIエボルバ側は「対策を講じているが、不安を抱える従業員がいることは重く受け止めている。何ができるか社内で協議したい」と答えた」という。

 このように、「職場クラスター」が発生するなどコロナ感染リスクの高い職場で身を守るための方法として、ストライキが選択され始めている。そして、会社側は労働者側の行動を受けて、感染対策を積極化している。これは労働社会の在り方として、極めて「健全」なやり取りだといえる。

ストライキの有効性と法的根拠

 上のように、ストライキは労働問題を解決する有効な方法だが、日本ではあまりこの制度が知られていない。そこで、ストライキの効果や法的根拠について説明していこう。

 まずストライキとは、労働者が労働条件・労働環境の改善などの要求を雇用主等に認めさせるために、集団的に労働の提供を拒否することである。職場の一定数の労働者が労働の提供を拒否すれば、雇用主は通常の営業を続けることが困難になるため、雇用主に要求を認めさせる有効な手段となりうるのだ。

 こうしたストライキの権利は憲法第28条によって認められており、ストライキは適法な行為である。また、労働組合法第1条2項と第8条において、正当な争議行為(ストライキ)について民事免責・刑事免責が定められており、逮捕されたり損害賠償を請求されたりする心配もない。

 また、正当な争議行為(ストライキ)を理由に、雇用主が組合員に対して不利益な扱いを行うことも法律で禁じられている(労働組合法第7条)。具体的には、雇用主は、ストライキに参加したことを理由に、解雇・雇い止め、シフトカット、降格・降給、いじめ・嫌がらせ・無視、などをおこなってはならないとされている。ストライキで仕事を休む場合は、通常の欠勤とは異なり、「勤怠評価」でマイナス評価とすることも禁じられている。

 さらに、ストライキを行っている職場の求人を止められることが職業安定法第20条で定められている。ストライキが発生している職場に、新しく労働者を採用して代わりに仕事をさせる「スト破り」を抑制するために、公共職業安定所(ハローワーク)の求人を止められるのだ。

 その上、民間求人サイトの求人についても掲載を停止するよう求めることもできる。求人情報適正化推進協議会が策定した求人情報提供ガイドラインで定められているからだ。実際に、過去にはストライキ発生を理由にリクナビが求人を停止した例もある。

参考:リクナビ求人が停止の可能性! ストライキの法的効果とは 

 このように、ストライキ権は憲法や法律で強く保障されており、労働者にとって雇用主と労働条件の交渉を進める上で、強力な「カード」となりうる。社会全体から見ても、労働法は労働者の声を経営に健全に反映させることを保障しており、安定した労働社会を構築することができる。

エッセンシャルワーカーのストライキ

 コロナ禍において、人々の生活に必要不可欠な労働を行う「エッセンシャルワーカー」の存在が注目された。彼らに「感謝」し、「ヒーロー」として讃えるような言説も世に溢れた。しかし、彼らの多くが置かれていた、劣悪で過酷な労働条件はそのまま維持され、抜本的な改善がなされることはなかった。

 上述のKDDIエボルバは、そのホームページで「SDGs」を掲げ、「コミュニケーションインフラを支える持続可能な産業を推進し、豊かな社会を創造します」と提唱している。社長のインタビューのページには、「社会基盤を支えるKDDIエボルバ」の文字も見える。コールセンターのオペレーターは、社会の下支えをするエッセンシャルな労働者であると言えるだろう。

 海外では、医療従事者や学校労働者をはじめとして多くのエッセンシャルワーカーたちがストライキを行い、自分たちの労働条件の改善を求めている。そこでは、自分たちが果たすべき社会的な役割を十分に行うためにも、劣悪な労働環境からの転換が必要であると主張してきた。

 他方で、エッセンシャルワーカーのストライキは、企業のみならず、社会に対しても「不便」をもたらすことになる。同時にそれは、彼ら・彼女らが過酷な環境で提供していた製品やサービスを享受していた消費者・利用者が、その事実に気づくきっかけともなりうる。

 その際に、消費者・利用者が自分たちの「豊かさ」を一方的に維持したいと反発するのではなく、同じ労働者として彼ら・彼女らに共感・連帯を示すことで、共に、この社会を支えるエッセンシャルワーカーの労働条件の改善を求めることもできる。実際、KDDIエボルバのストライキに対しては、SNS等で支持・共感の声が広がっている。

 コロナ感染のリスクに晒されながら劣悪な待遇で働いているエッセンシャルワーカーたちには、ストライキという手段を選択肢の一つとして考えてみてもらいたい。ストライキに対して共感が得られるか不安に思われるかもしれない。だが、社会にとって必要不可欠な仕事を行うエッセンシャルワーカーの命と健康を守ることも、また重要であることは、日本でも理解されつつある。職場の感染対策に不安があれば、まずはぜひ、社外の労働相談窓口に連絡してみてほしい。

無料労働相談窓口

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03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

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