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「家あってあたりまえでしょ!」 Z世代の若者がホームレス支援 「凍死」や「親子共倒れ」も

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:ロイター/アフロ)

 クリスマス以降、日本に過去最強クラスの寒波が襲っている。相当な冷え込みとなり、地域によっては大雪となっている。実は、このような厳冬の時期には、路上で「凍死」する人が後を絶たない。

 少し古いが、2000年に大阪市で凍死者が19人いたという調査がある。そのほとんどが路上や公園で発見されており、大半が死亡時に所持金を500円以下しかもっていなかったという。そして、凍死した者のうち生活保護を受給していた者はいなかった(逢坂(2003)「大阪市におけるホームレス者の死亡調査」)。

 近年、日本では低賃金が改善されず、批正雇用も増加し続けている。そこにコロナの影響もあり、住居を失うリスクは高まっている。「普通の人」がどのようにして住居を失ってしまうのか。そして、社会はこの問題にどう向き合ったらよいのだろうか。

 今回は、ホームレス問題の現状を概観しつつ、これから必要な住居支援の在り方について考えていきたい。

ホームレス問題の現状

 まず、ホームレス問題の現状を確認していこう。2002年にいわゆる「ホームレス自立支援法」が制定されて以来、国は毎年ホームレスの人数を集計している。初回2003年の2万5296人から減少の一途をたどり、2021年には3824人となっている。

 リーマンショックや今回のコロナ禍といった経済への大きな影響を受けても減り続けているため、減少の理由を特定することは難しいが、おそらく、法律に基づき行政がホームレスの人たちを施設に収容していることが一つの要因ではないかと思われる。

 しかし、これだけをもってホームレス問題が改善しているとは言い切れない。というのも、国が法律で定めるホームレスの定義は非常に狭く、広い意味での住居喪失者を見落としている可能性があるからだ。

 ホームレスの法的な定義は「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」とされており、ホームレス=路上生活者に限定されていると言ってもいい。そうすると、例えばいわゆる「ネットカフェ難民」もこの定義から抜け落ちてしまう。

 24時間営業のインターネットカフェやファミリーレストランの増加は、「目に見える」ホームレスを減少させ、彼らの存在を「不可視化」させてきた。特に、若者や女性ではこの傾向が強く、「住居喪失者」の実態をより見えにくくしている。

 実際に、2018年に東京都が公表した調査によれば、「ネットカフェ難民」(「インターネットカフェ等をオールナイト利用する住居喪失者」)は1日あたり約4000人いるという。この数字だけで国の統計上のホームレス数に匹敵している。

 都調査によれば、「ネットカフェ難民」の多くは就労しているが、敷金などの初期費用を支払えないために住居を確保できず、ネットカフェや路上を日によって行き来していることがわかる(「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査」)。

 国のホームレス調査は、特定の1日に巡回による目視でカウントしているため、その日に路上にいれば数に含まれるが、ネットカフェにいれば含まれない。

海外のホームレスの定義

 さらに、海外に目を向けてみれば、日本と大きく異なるホームレスの定義を用いている。例えば、イギリスの公的なホームレスの定義は以下の通りである。

・占有する権利のある宿泊施設を持たない者

・家はあるが、そこに住む者から暴力の恐怖にさらされている者

・緊急事態のために施設に住んでいる者

・いっしょに住むところがないために別々に暮らさざるをえない者

 この定義からすれば、路上生活者のみならず、「ネットカフェ難民」はもちろん、虐待・DVの被害者やシェルターに逃げ込んでいる人なども含まれてくる。

 こちらの定義の方が、貧困問題の現場で支援する立場としてはしっくりくるところがある。住居を失っているのは路上生活者だけではないからだ。ホームレス=路上生活者と狭く限定せずに考えれば、日本のホームレス問題は統計に現れない広がりがあるはずなのだ。

相談から見えるホームレス・住居不安定の実態

 それでは、私が代表を務めるNPO法人POSSEに寄せられている相談からホームレスの実態を見ていこう。

大阪府の20代男性

飲食店のアルバイトに従事していたが、パワハラを受けうつ病になり、昨年8月に退職。それ以降複数のアルバイトで働いたが、体調がすぐれないために継続して働けない。今のアルバイトはコロナ禍でシフトが週一に削られ、会社からは、休業補償も払われていない。働いていないという理由で実家を追い出され、現在はネットカフェや友人宅を転々としている。預貯金も所持金もほとんどない。

沖縄県の30代男性

沖縄のリゾートバイトで働いていたが、コロナで派遣切りに遭った。会社の寮に住んでいるが、すぐに出るように言われている。

東京都の40代男性

派遣社員として医療器具の工場で働いていたが、今年5月にコロナのような症状が出て(結果は陰性)、休職したが、復職するタイミングで派遣切り。住居を失い、友人宅に居候している。

 これらの実例からわかるように、コロナ禍においては、特に非正規雇用の労働者がシフトの削減、解雇・雇止めなどの労働問題に遭い、住居を失うケースが少なくない。また、20代の若い世代の場合には、労働問題とともに家族との関係がきっかけとなり、住居が不安定化している。

茨城県の20代女性

両親の介護をしながら、親からの仕送りを受けて実家の近くで一人暮らしをしている。しかし、母親の束縛が強く、遠方に逃げて生活保護を受けて生活したい。学校でいじめにあった時に「あなたが悪い」と言われるなど、母親からの精神的虐待があり、うつ病になり働けない。

長野県の20代女性

新卒で入った会社をうつ病で休職して辞めた。高齢者施設で栄養士の仕事をしており、ミスすると人が亡くなる現場であるうえ、先輩が高圧的な態度で、指示を受けてやったことでも怒られた。休憩室を教えてもらえず、ずっと一緒に行動しなければならなかった。休職前には微熱がずっとあったが、休ませてもらえなかった。また、父親との関係も精神疾患の要因だと医師から言われている。幼少期から気に入らないことがあると怒鳴られるため、びくびくしながら言うことを聞いてきた。休職中に親を説得して実家を出ることはできたが、うつ病が悪化して働けず、所持金も尽きてきた。

 これらの事例のように、コロナ禍で困窮して住居を失うリスクのある人たちに対しては、コロナ特例貸付の実施や住居確保給付金の要件緩和がなされているなど、救済の制度がないわけではない。

 しかし、それらの制度は給付期間が定められており、最近では給付期間を終えて困っているという方からの相談が多く寄せられている。継続して家賃の支援をしてくれるのは生活保護しかないという状況だ。

住居不安定を生み出す日本社会の構造

 それにしても、なぜ日本ではこれほど「住居」が貧弱なのだろうか? まともな住居に住む権利は、日本国憲法が定める「生存権」の中心部分をなすはずだ。実は、日本の住居政策の貧弱さには、歴史的な背景があり、海外に比べても根深いものとなっている。

 戦後日本の住宅政策の中心は、住宅ローン供給による持ち家取得の促進だった。高度成長を通じて、終身雇用・年功賃金の日本型雇用が成立し、雇用と所得の安定が長期のローン支払いを保障した。仕事と収入を安定させ、結婚して家族を持ち、賃貸住宅から持ち家に移り住んでいくのがかつての標準的なライフコースであった。

 しかし、バブル崩壊以降、経済成長が停滞し、日本型雇用が縮小して非正規雇用が増大した。低賃金で不安定な雇用が広がる中で、未婚率が高まり家族形成が困難な若者が増えていった。こうして、持ち家取得は困難となり、賃貸住宅に長くとどまり続ける「賃貸世代」が形成された。

 実際、持ち家率は平均値としては6割前後でほとんど変化していないが、世帯主が30~34歳では、1983年から2018年にかけて45.7%から26.3%へ、世帯主35~39歳では、60.1%から44.0%に低下している。

 その上、賃貸住宅市場では、より低所得の借り手が増えているにもかかわらず、低家賃住宅が減少している。そのため、家賃負担は重くなった。住居費負担率は1989年の12.2%から2009年には17.2%、2014年も17.1%となっている。

 さらに、低所得層の若者に限定すると状況はかなり厳しくなる。ビッグイシュー基金が行った、首都圏・関西圏に住む20~39歳、未婚の年収200万円未満の個人を対象とした調査によれば、住居費負担率が30%を超える者が57.4%、50%を超える者が30.1%と、異様に重い住居費負担を強いられている。

変わらない住居政策が、社会の破綻を招く

 ところが、賃貸住宅を維持し続ける困難が広がっているにもかかわらず、住居保障はいまだに脆弱なままである。前述した住居確保給付金は恒久的な家賃補助ではない。また、安価な公的住宅の整備は非常に限定的であり、2018年のデータによれば、公的住宅の割合はオランダで37.7%、デンマークで21.2%、イギリスで16.9%に対し、日本はわずか3.6%に過ぎない。

 結局、日本の若者は重い住居費負担を避けるため、「親同居」をするしかない。国勢調査(2015年)によれば、未婚の若者一般の親同居率は63.3%だが、ビッグイシュー調査では77.4%にも上っている。そして、親子関係が悪い場合には、逃げられない状況で「虐待」の温床にもなってしまっているのだ。

 つまり、劣悪な労働環境に耐えながら賃貸住宅の家賃を払い続けるのか、家賃負担を軽減するために家族と同居するか、というほぼ二択しか日本社会には残されていない。しかし、労働と家族に依拠しようとすればするほど、矛盾が深まっていく。前述の事例で見たように、劣悪な労働環境や虐待・DVを行う家族に耐えるなかで、心身を壊してしまうのだ。もちろん、いつまでも子供を養う必要に迫られる親世代にとっても、「老後」の資金を不足させる事態ともなりかねない。

 労働と家族による人間破壊を食い止めるためには、持ち家促進一辺倒の政策から、賃貸住宅に向けた普遍的な住居保障を構築していかなければならないはずだ。

Z世代が行うアウトリーチ活動

 普遍的な住居保障を構築するためには、下からの社会運動による要求がなければならない。そのための一歩として、POSSEはNPO法人ほっとプラスと共同して、年末に住居を失った方々に対するアウトリーチ活動「家あってあたりまえでしょプロジェクト」を実施する。

 具体的には、年末年始の一時宿泊場所を設置するさいたま市の大宮駅前などにおいて、12月28日から31日にかけて、街頭宣伝、公園やネットカフェなどでのチラシ配布、屋内での相談会などを行い、住居を失った人たちが行政の施策を利用できるよう、広報と働きかけをしていく。

 運営の主体はPOSSEとほっとプラスに参加するZ世代の若者たちだ。上にみたように、若者世代にとっても住居費の問題から「ホームレス化」の危機は他人事ではない。「高すぎる家賃」と「困ったときの支援のなさ」は身に染みている世代なのだ。

 プロジェクトのメンバーは、これまでもコロナで急増する労働・生活相談に対応し、解雇撤回を求めて企業と団体交渉を行ったり、生活保護の適用を求めて行政の窓口に同行するなどの権利擁護活動を行ってきた。こうした経験から、年末年始に住居を失う人たちに行政の支援が届かないだろうという危機感から、プロジェクトが立ち上がった。

プロジェクトの会議の様子。
プロジェクトの会議の様子。

 住居は本当に「命」に直結する問題だ。厳冬期であれば、なおさらである。若いホームレスでも「凍死」の危険が実在する。いまや、だれにとっても「当たり前」になってしまった貧困問題に対し、多くの方が「自分事」として考え、行動していく社会であってほしい。

参考:「家あってあたりまえでしょプロジェクト」ボランティア説明会

12月27日(月)15~17時 zoom開催

ボランティア説明会参加連絡&ボランティア希望者連絡先:volunteer@npoposse.jp

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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