新入社員は労組に入るべき? 木下武男『労働組合とは何か』(岩波新書)から考える

(提供:ideyuu1244/イメージマート)

 4月となり新入社員は社内の労働組合に加入するか悩んでいる場合も多いと思います。また、日本では企業別組合が主流ですが、日本の労働組合はあまり「役に立たない」ともよく言われています。

 そこで今回は、ちょうど4月に出た新刊、『労働組合とは何か』(木下武男著、岩波新書)を素材にして、そもそも労働組合とは何か、日本の労組はじっさいにあまり役に立たないのかといった疑問に答えていきたいと思います。

岩波書店HPより。
岩波書店HPより。

労働組合の機能とは

 日本の労働組合法は、労働組合の目的を「労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的」と規定しています。また、労働組合法は、その目的を達するための手段として団体交渉権、争議権などを定めています。

 なるほど、労働組合とは労働条件の維持改善その他の経済的地位の向上を目的とする団体だといわればその通りでしょう。労働組合は賃金など労働条件をめぐって企業と団体交渉を行うことを知っている読者も多いと思います。

 ところが、『労働組合とは何か』によれば、「労働組合の目的から、労働組合とは何かを考えようとすると、答えがわからなくなる」といいます。また、この目的という点だけから考えると、日本の労働組合がどう本来の労働組合と異なるのかも、わからなくなってしまうということです。 

 では、本当の労働組合を理解するカギは何でしょう。それは、労働組合の「機能」と、それを実現するための「手段=方法」です。

 まず、機能について著者は次のように説明します。

「労働組合の根源的機能とは「競争規制」である。労働者がバラバラにされ、相互に競争をさせられている。この状態に対して労働組合が労働者を結合させ、労働者同士の競争を規制する、これがユニオニズムに他ならない」(70頁)。

 今日の日本社会でも、仕事を求める人はたくさんおり、相互に競争しています。応募者が多ければ、賃金は需要と供給の関係から低い方向に移動していきます。そこに歯止めをかけているのが最低賃金法ですが、日本でも、最低賃金周辺の雇用が非常に多いのです。

 最低賃金以上の仕事を増やしていくには、労働者同士の競争の抑制が必須です。19世紀、労働組合を研究したことで有名なウェッブ夫妻は、競争を抑制する労働組合の機能は「共通規則」の設定によって実現すると説明しました。

 「(労働者が個別に使用者と交渉する) 個人取引」のもとでは 、労働者の生活はとめどなく悲化する 。その悪化をくい止めるにはどのようにすれがよいのか 。そこでウェッブが、当時の労働組合をつぶさに観察して探り当てた概念が「 共通規則」(コモンルール )である」(72頁)。

 賃金についての「共通の規則」が設定されれば、それ以下の仕事は許されなくなりますから、労働者間の低賃金へ向かう競争は抑制されます。その方法には、先ほども述べた最低賃金法のような「法律」という手段もあります。

 これに対し、労働組合は「集合取引」の方法によって、競争を抑制します。そして、「これこそが労働者間競争を規制する方法の中心的な位置を占めている」のです。

 例えば介護や保育といった特定の業種で、職種別の最低賃金を労働組合が業界団体と交渉して決めたとします。新任の介護士は時給1200円といった具合です。こうすれば、介護をしたい人がたくさん労働市場にいても、1000円、900円と最低賃金までさがっていくことはありません。

 これを実現するためには、もちろん前提があります。その業界の労働者のほとんどが組合に入っており、業界団体と交渉しなければ、「抜け駆け」が発生してしまうからです。だから、労働組合は同じ業種やおなじ職種でまとまって交渉する必要があるのです。

 いずれにせよ、労働組合の目的は労働条件の維持改善であり、その「機能」は「共通規則」にもとづく労働者間競争の規制であり、そのもっとも重要な「方法」は集合取引です。

 これが本書が示す「労働組合とは何か」ということの答えです。

日本の労組は役立たない?

 日本の労働組合の圧倒的多数は企業別組合です。おそらく、新入社員が加入を悩んでいるケースの多くも、企業別組合だと思います。では、日本の労働組合は、先ほどの労働組合の「目的」や「機能」、その「方法」の視点からは、どう評価できるのでしょうか。

 まず、「目的」に関しては、とうぜん企業別組合も労働条件の維持・改善を目指しています。「方法」に関しても、会社内の労働者が経営者に対して会社ごとの「集合取引」を行っています。社員の給与がどのように上がるのかなど、企業別組合は会社と労働協約によって取り決めをしています。

 このようにみると、確かに日本の企業別組合も、労働組合としての役割を果たしているようです。組合に入って集合取引に参加することで、労働条件の維持・改善ができそうに思えます。

 しかし、「機能」に着目すると、日本の労働組合は、労働者間競争を抑制するというその本質的な役割を果たしていないことがわかります。企業別組合は労働者間の競争を抑制していないからです。まず、一見して企業別組合は職種別や産業別の賃金を設定しませんから、労働者は企業間の競争に巻き込まれることがわかります。

 ある企業の賃金が1000円だとして、別の企業が900円だとします。すると、900円の企業はより安く製品をサービスを提供することができ、市場で有利に立ちます。すると、1000円の企業の労働者も、会社に「協力」して900円に引き下げることに同意せざるを得なくなってしまいます。つまり、「共通規則」が企業の中にとどまっていることで、ほとんど無効になってしまうのです。

 そうすると、労働組合もどんどん企業の利害と癒着していき、その交渉能力がなくなっていきます。実際に、私が日々経験する労働相談では、「社内の労組にパワハラを相談したが、上司に報告され、よりひどくいじめられるようになった」という相談が後を絶ちません。非常に残念なことです。結局、企業に閉ざされた交渉の「方法」が、労働組合の「機能」を発揮させないのです。

 また、『労働組合とは何か』では、特に年功賃金の問題を指摘しています。企業内の「共通規則」に思える年功賃金も、実はその競争抑制の機能を果たしていないといいます。

(年功賃金という)「この「 安定」のシステムは同時に「 競争」のシステムでもある 。「競争」のシステムは二つの仕組みからなっている 。まず 、職級は線のように描かれているが、それは幅をもった帯状の線だ。その線は上下各5%幅がある。その範囲で人事考課制度の査定がはたらく。この幅のなかで 、査定でよい評価を得ようと競争することになる」(191頁)。

 本書より引用した下の図をご覧ください。これは典型的な年功制を採用している東京電力の賃金体系ですが、年齢とともに右に行くほど、号数が上がり賃金が上がります。しかし、そのあの線の中にも上下5%の差があって、上がるか下がるかは企業が決められるということです。もちろん、その「査定」はどれだけ会社に貢献したのか、という「競争」を引き起こすことになります。

『労働組合とは何か』190頁より。
『労働組合とは何か』190頁より。

 著者は続けて次のように指摘します。

あと一つの「競争」は号俸のラインの進み方にある。号俸のラインを横に進んで、最後まで達して上位の職級に上がるのではない。それでは大幅な昇給はできない。実際には、いくらか進むと途中で上位の職級に上がることができるようになっている。この上位の職級へ上げるかどうかが、会社の裁量に完全にゆだねられている 。このことが決定的だ上位の職級に行けなければ昇給は遅々として進まない。この号棒における上下幅の査定と、早期の昇級を競い、他の従業員よりも早く昇進しようとして競争がなされる。このようにして企業内の労働者同士の「競争」システムができあがっている(同上)。

 このように、結局年功賃金は、労働者間競争を抑制する「共通規則」とは似ても似つかないものなのです。実際に、戦後日本社会では激しい出世競争が繰り広げられ、「過労死」を蔓延させました。日本発祥の「過労死(Karoshi)」は世界語にもなっています。

 日本で過労死が蔓延し、今日も収まらない重要な要因は、賃金に「共通規則」がないからです。そして、日本の労働組合が本来の「機能」を発揮していないことが、その理由なのです。

 さらに、共通規則の不在は労働を過酷かさせるだけにとどまりません。社内のパワーハラスメントやセクシャルハラスメント、いじめなども、上のように人事の裁量が大きいために、社員は批判できない構造ができあがっています。上の東京電力の例では、危険な原発に対し、従業員が声を上げることができなかった理由にもなったと指摘されています。労働組合の在り方は、企業の不祥事や産業の在り方とも密接に絡んでいます。

結局、労組には入るべきか?

 実は、日本の労働法は企業別組合に入ることを義務付けたり、奨励したりは一切していません。海外のように社外の労組に直接加入することは自由ですし、労働法はそうした労働組合も全面的に保護しています。

 そのため、社内労組に力ない場合には、外部労組に入ることも一つの選択肢になるでしょう。社外労組(コミュニティーユニオンや業種別・職種別ユニオン)では、賃金の未払いや解雇・雇止めに加え、パワーハラスメントなどの労働問題にも対応しています。

 とはいえ、『労働組合とは何か』が示したような「本来の労働組合」の機能は、社外労組であっても発揮できません。日本社会に広がる非正規雇用差別や「ブラック企業」の問題を解決していくためには、労働時間や賃金に対する「共通規則」を実現することが不可欠です。

 『労働組合とは何か』では、現在の労働組合を改革していく「方法」についても詳しく書かれています。労働組合を作ることや、現在の組合を改革することは、組合員の自由です。法律は労働組合の「機能」については、何も決めていません。だから、ほんとうの労働組合を作る担い手は、私たち自身だということになります。

それではユニオニズムの創造というミッションをいったい誰が担うのだろうか。これまでみてきた歴史から、おのずと明らかだろう。担い手は一人ひとりの自覚した個人である。組織や他人から命じられたわけではない。自発的な意思にもとづく個人が、しかも、バラバラにではなく、相互に結びついた集団として自覚的に行動する。彼らこそ活動家集団(ユニオン・アクティビスト)である(274頁)。

 このような道を進むためには、現在は個人の問題や小さな企業の労使交渉を地域単位で担っている社外労組が職種別の「集合取引」を実現できるように発展することや、現在の企業別組合が職種別の交渉単位に組み込まれていく必要があります。本書では、一人一人の組合活動家の努力で、そうしたことを実現できる可能性があるといいます。

 少し長いですが、最後にその道筋を引用します。日本の労働組合に加入するということは、日本の労働組合を機能させていくために取り組むことともかかわっていることがわかると思います。

(社外の一般労組から発展する)業種別職種別ュニオンは、未来のゼネラル・ユニオンの「トレード・グループ(職種別の交渉単位)」として位置づけられる…それらが結合することで、やがてゼネラル・ユニオンの全国組織が生まれる。小さな営みはやがて大きな流れとなるだろう。

今ある産業別の全国組織や合同労組、 コミュニティ・ユニオンなどもこの方向に向けて改革をめざすことが期待される。企業別組合もユニオニズムを創造する流れに合流することだ。例えば企業別組合の中心メンバーが外部の個人加盟ユニオンに二重加盟するなどして、労働者の連帯のエネルギーを企業内に環流させることをつうじて「内部改革」は進むだろう。合同労組やコミュニティ・ユニオンも、そのなかにある業種別部会を地域的な交流や企業別組合の集合体にとどめることなく、だんだんと業種別の結集軸に発展させていくことが求められる。このことをなし得たら、業種別職種別ユニオンと、既存の労働組合の「業種別グループ」とが連携し、集団交渉も可能になるだろう。それをへて、業種・職種を結集軸にした労働組合の合同運動を展開する段階に入ることができる(272頁、()内は引用者)。

 日本の労働問題に取り組み、研究してきた筆者もこのような労働組合の改革は、日本社会を変えるために必須だと思います。ぜひ、実現できるとよいと思います。

おわりに

 今回は『労働組合とは何か』を手掛かりとして、労働組合とは何か、そして日本の労働組合の実情についてお話してきました。問題はなかなか根深いという印象を持たれた方も多いと思います。

 社内で問題があるとき、迷ったらまずは社外の労組を選択肢にいれることをお勧めします。個人の問題を解決するためには、それが一番近道です。そして、企業内に労組も積極的に活用し、問題があれば内部改革を目指していくことも長期的には重要です。私たち一人一人に、日本の労働社会の未来がかかっているのです。

社外労組の無料労働相談窓口

総合サポートユニオン

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

ブラック企業ユニオン 

03-6804-7650

soudan@bku.jp

介護・保育ユニオン

03-6804-7650

contact@kaigohoiku-u.com

*関東、仙台圏の保育士、介護職員たちが作っている労働組合です。

仙台けやきユニオン

022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

労災ユニオン

03-6804-7650

soudan@rousai-u.jp

*長時間労働・パワハラ・労災事故を専門にした労働組合の相談窓口です。