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アルバイトも申請可 勤め先から休業を命じられた時に使える「休業支援金・給付金」解説

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:SunnySide/イメージマート)

 「緊急事態宣言を受けて、アルバイト先の飲食店が時短営業になった。シフトに入れる時間が減り、生活に困っている」

 私たちのもとには、こんな労働相談が相次いでいる。

 こうした時に利用できるのが、休業支援金・給付金という制度だ(正式には「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」)。勤め先が中小企業である場合、この制度を利用できる可能性が高い(大企業に雇用されている方は残念ながらこの制度の対象外だが、大企業向けの制度も拡充される見込みだ。この記事の最後の節をご参照いただきたい)。

 ところが、制度の利用は思うように進んでいない。1月14日時点の累計支給決定額は約605億円であり、予算5442億円のうち、わずか11%に過ぎない。せっかく作られた支援策の効果が必要な人々に行き届いていないのだ。

 制度に関する情報が必要な人に届いていないことや、支給対象の範囲などが誤って理解されていることが原因として考えられる。勤め先とのトラブルが原因で制度が利用できていないケースもある。

 この記事では、多くの方に制度の内容を正しく理解していただくために、よくある誤解や申請する上でのポイントをあげながら解説していきたい。新型コロナの影響で休業を余儀なくされたにもかかわらず補償を受けられていないという方は、自分が当てはまるかどうかを改めて確認していただきたい。

制度の概要

 次の2つの条件に当てはまる方が休業支援金・給付金の支給対象となる。

(1)2020年4月1日から2021年2月28日までの間に、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業主の指示により休業した中小企業主の労働者

(2)その休業に対する賃金(休業手当)を受けることができない方

 これらの条件に当てはまる方には、休業の実績に応じて、休業前賃金の8割(日額上限11,000円)が支給される。労働者本人が申請することもできるし、事業主が従業員の分をまとめて申請することもできる。

対象となる「中小企業」の範囲、申請できる期間

 この制度が適用される「中小企業の範囲」については、以下の表を参照してほしい。「資本金の額・出資の総額」か「常時雇用する労働者の数」のいずれかを満たす企業が「中小事業主」に該当することになる。

「中小企業」の範囲
「中小企業」の範囲

 また、申請できる期限は下表のとおりで、休業した期間によって異なる。

申請期限
申請期限

 ご覧のとおり、2020年4月から9月までの休業についての申請期間は昨年末に終了しているが、後ほど紹介する「10月30日に公表されたリーフレット」を踏まえて申請準備に時間を要した方は、2021年1月31日(日)までに申請すれば、受け付けてもらえる。

 特に非正規雇用の方にとって、この「10月30日に公表されたリーフレット」の内容は重要なので、リンクを開いて内容をよくご確認いただきたい。

 ここから先は、制度を利用する上での6つのポイントを解説していく。

ポイント1 雇用保険に加入していなくても対象になる

 この制度は、正社員だけでなく、非正規雇用の方も対象にしている。雇用保険に加入していないパートやアルバイトの方も申請できる(ちなみに、雇用保険被保険者の場合は「支援金」、雇用保険に入っていない方の場合は「給付金」という名称になっているが、申請の仕方や支給内容は同じだ)。

ポイント2 シフト制や登録型派遣の場合でも利用できる

 シフト制の場合、シフトが未確定の期間について「休業」といえるのか曖昧になりがちだが、新型コロナの影響がなければ休業前と同様の勤務を続けていたと考えられる場合には支給対象として認められる。事業主との間で、事業主の指示で休業したことについての認識が一致している場合には、問題なく申請できる。

 また、登録型派遣で働いていた方が、派遣先の都合で派遣契約を解除されてしまった場合も、派遣元との労働契約が継続していれば対象となる。

 さらに、契約上は「日々雇用」であったとしても、実態として更新が常態化しているような場合には、事業主の指示で休業したことを事業主が認めていれば支給対象になる。

 なお、事業主が「休業」であると認めずに協力してもらえない場合の対応については、ポイント4をご参照いただきたい。

ポイント3 時短営業の場合(全面的な休業でない場合)でも利用できる

 時短営業の場合でも休業支援金・給付金の支給対象になる。また、「週5日勤務が週3日勤務になった」など、勤め先の都合により労働日数が減少した場合にも支給対象になる。

 このように、申請する期間中に一定の就労をした場合、就労した日数分を減じて支給額が算出される(4時間以上の就労であれば1日として、4時間未満の就労であれば0.5日としてカウント)。

 ただし、4時間未満の就労であっても、所定労働時間が4時間未満の場合に、所定労働時間どおりに就労している場合は1日としてカウントされる(例えば、所定労働時間が3時間の場合で、3時間就労した場合は1日としてカウント。2時間就労した場合は0.5日としてカウント)

 具体的な申請書の記入方法については下記の動画が分かりやすい。

 動画:厚生労働省「(労働者用)新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金 休業期間中の就労等の記入方法」

ポイント4 事業主の協力が得られない場合でも申請できる

 休業支援金・給付金の支給に当たっては、原則として、労働者と事業主が共同して作成した「支給要件確認書」という書類で、支給の対象となる「休業」があったことを確認している。

 だが、労働者が「休業」だと認識しているのに、事業主がそれを認めないケースもある。特にシフト制や登録型派遣の場合にこのようなトラブルが生じやすい。

 事業主の協力が得られない場合でも諦める必要はない。というのも、実際にこのようなトラブルが相次いだため、制度の運用が改善されているのだ。「10月30日に公表されたリーフレット」には、支給要件確認書において休業の事実が確認できない場合でも、以下のいずれかのケースであれば、支給の対象となる「休業」として取り扱われる旨が記載されている。

(1)労働条件通知書に「週○日勤務」などの具体的な勤務日の記載がある、申請対象月のシフト表が出ているといった場合であって、事業主に対して、その内容に誤りがないことが確認できるケース

(2)休業開始月前の給与明細等により、6か月以上の間、原則として月4日以上の勤務がある事実が確認可能で、かつ、事業主に対して、新型コロナウイルス感染症の影響がなければ申請対象月において同様の勤務を続けさせていた意向が確認できるケース(新型コロナの影響以外に休業に至った事情がある場合を除く)

 つまり、事業主が休業させたことを認めない場合であっても、労働条件通知書、シフト表、給与明細といった客観的資料を用いて支給手続を進めることができるというわけだ。

 事業主に申し出たにもかかわらず、支給要件確認書への記載を拒まれた場合には、支給要件確認書の「事業主記入欄」の「事業主名」の部分に、「事業主の協力を得られない」旨とその背景となる事情(事業主から拒否された、倒産により事業主と連絡がとれない等)を記載する。そして、申請書類に、リーフレットに記載されたケースに該当することを示す資料(労働条件通知書、シフト表、給与明細等)を同封する。

 この場合、労働局が事業主に対して報告を求め、その回答を踏まえて審査が行われる。

 上記リーフレットに関するQ&Aには「新型コロナウイルス感染症の影響がなければ申請対象月において同様の勤務を続けさせていた意向」について、「仮に、事業主から明確な回答が得られない場合や協力が得られない場合であっても、・・・(中略)・・・新型コロナウイルス感染症の影響以外に休業に至った事情が確認されない場合は、休業支援金の対象となる休業として取り扱います」と明記されている。

ポイント5 不支給決定を受けても、もう一度申請できる場合がある

 本来、休業支援金・給付金の不支給決定を受けた申請対象月について、一度行われた決定が変更されることはない。

 ただし、「休業の事実」や「雇用の事実」が確認されないとして不支給決定を受けた方のうち、「10月30日に公表されたリーフレット」に記載されているケース(つまり、ポイント4の(1)や(2)のケース)に該当する場合には、改めて申請することが認められている。

 この場合には、申請に必要な書類を再度用意するとともに、「6か月以上の間、原則として月4日以上の勤務がある事実」を確認できる資料(労働条件通知書や給与明細、賃金台帳等)と不支給決定通知書の写しを同封の上、提出すればよい。

ポイント6 事業主の負担は生じない

 休業支援金・給付金は国から労働者に支給されるため、事業主に金銭的負担は発生しない。

 また、支給要件確認書の記載によって休業させたことや休業手当を払っていないことを認めてしまうと、労基法違反である休業手当の不払いが問題になることを恐れて休業支援金・給付金の申請に協力しない事業主がいるが、これは誤解である。

 厚生労働省は、「10月30日に公表されたリーフレット」において、支給要件確認書の記載が労基法上の休業手当の支払義務の該当性について判断するものではないことを明らかにしている。

 このような点を理解しておらず、自らに不利益が生じると勘違いし、協力を拒む事業主もいる。そのような場合には、上記リーフレットを示すなどし、申請しても事業主に不利益がないことを説明するとよい。「勤め先に迷惑がかかるから」という理由で制度の利用を諦める必要はない。

申請の方法は?

 以上を踏まえて、労働者が自ら申請をする場合の流れについて説明しよう。

 必要な書類は、以下の5点だ。申請書等の様式は厚生労働省ホームページ内の特設サイトに掲載されている。郵送又はオンラインで申請する。

必要書類

  • 支給申請書(特設サイトからダウンロード)
  • 支給要件確認書(特設サイトからダウンロード)
  • 本人確認書類(運転免許証、パスポート等の写し)
  • 振込先口座を確認できるキャッシュカードや通帳の写し
  • 休業前の賃金額と休業中の賃金の支払い状況を確認できる書類(給与明細や賃金台帳の写しなど)

 原則としては、支給要件確認書の「事業主記入欄」を会社に記載してもらい、休業の事実を証明してもらう必要がある。事業主に申し出たにもかかわらず、支給要件確認書への記載を拒まれた場合の対応はポイント4で説明したとおりだ。

 なお、すでに申請期間が終了している2020年4月から9月までの休業について「10月30日に公表されたリーフレット」を踏まえて申請する場合には、「10月30日公表のリーフレットを踏まえた申請」である旨を記載した疎明書と過去の就業実態が確認できる資料(労働条件通知書、シフト表、給与明細等)を同封する必要がある(申請期限が2021年1月31日(日)と迫っているため要注意)。

参考:疎明書の参考様式

 申請方法については以下の動画が分かりやすい。

 動画:動画厚生労働省「(労働者用)新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金 申請書の記入方法」

大企業の方は勤め先に休業手当を求めよう

 冒頭に述べたとおり、この制度は中小企業の労働者を対象にしているため、大企業に雇用されている方は対象外とされている。その理由は、大企業の場合には事業主が休業手当を支払うべきだと国が考えているからだと思われる。

 本来、会社に責任のある理由で労働者を休業させた場合、会社は平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければならない。休業支援金の制度が作られたのは、休業手当を支払うことができない中小企業が多いことが理由で、労働者の生活を守るためのあくまで例外的な対応に過ぎない。本来は、事業主がきちんと休業手当を支払うべきだと国は考えているのだ。

 そこで、休業手当が支払われていない場合、雇用調整助成金を活用して高率の休業手当を支払うよう会社と交渉するべきだ。

 今回の緊急事態宣言の期間については、一定の場合において、雇用調整助成金の特例措置に係る大企業の助成率が100%に引き上げられるため、助成金の活用によって休業手当を支払うことについての社会的要請は以前にも増して高まっている。

参考:厚生労働省リーフレット「雇用調整助成金の特例措置に係る大企業の助成率の引き上げのお知らせ」

参考:厚生労働省リーフレット「雇用調整助成金は短時間休業にもご活用いただけます!!」

 会社と交渉する際には、労働組合による団体交渉が有効だ。団体交渉においては、休業手当の支払いを求めることもでき、拒否する場合には、その理由を説明するよう要求することができる。法律上、会社は誠実交渉義務を負うため、説明を拒むことは原則としてできない。

 シフトの削減が長期間に渡って続いているような場合は、シフトを休業前の状態に戻すように求めることできる。会社が経営状況を理由に拒否する場合には、経営資料を開示し、できない理由を説明するよう求めることもできる。

 社内に労働組合がない場合でも、一人あるいは数名で個人加盟の労働組合に加入し、勤め先に団体交渉を申し入れることができる。

 休業が長期に及んだ場合には、こうした交渉や制度の活用により、失ってしまった高額の収入を取り戻せる可能性がある。コロナ休業によって収入が減ってしまったという方は、諦めずに行動していただきたい。

※1月28日追記:報道によれば、この申請期限は2021年3月末まで延長される見込みだ。厚生労働省のホームページで最新情報をチェックしていただきたい。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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