Yahoo!ニュース

緊急宣言で懸念される「外国人切り」 4月からの教訓とは?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
画像のイメージは、飲食店の労働です。(写真:アフロ)

緊急事態宣言で多発する外国人のシフトカットや解雇

 本日1月8日から首都圏の一都三県に緊急事態宣言が発令されることとなった。今回の緊急事態宣言は4月の際と異なり、主に飲食店が対象となっており、午後8時までの時短営業が求められている。外出が自粛されることもあり、飲食店利用者は大幅に減ることが予想される。

 この状況で最も影響を受けるのは、飲食店で働く労働者であるが、居酒屋やファミリーレストランなどでは多くの留学生が働いており、彼らに対するシフトカットや解雇が行われることが懸念される。

 というのも、緊急事態宣言が発令された昨年4月にシフトカットや解雇された外国人労働者からの相談が、私が代表を務めるNPO法人POSSEに殺到したからだ。

 そこで今回は、昨年4月に寄せられた相談ケースをみながら、今後予想される自体について考えてみたい。

シフトカットや解雇される外国人労働者

 私が代表を務めるNPO法人POSSEの「外国人労働サポートセンター」に寄せられた労働相談数は、コロナ感染が拡大した昨年3月以降、急増した。3月は98件、4月は159件、そして5月には115件もの相談が寄せられている。

 これらはすべてコロナウイルス感染拡大に起因した労働相談だ。そのほとんどが、飲食店や小売などのサービス業で働く外国人から寄せられており、「コロナで休みになって給料がなくなった」という相談や、「お店が閉まったので解雇された」というシフトカットや離職に関するものだった。具体的なケースを見ていこう。

スリランカ人留学生(20歳代男性)

大手ファミリーレストランでアルバイトとして働いていたAさんは、通常時は週25時間ほど働き、毎月10万円以上の収入があった。将来は自動車整備士になることを目指して、専門学校に通いながら、家賃や学費、その他の生活費のためにアルバイトをしていた。しかし、昨年4月に緊急事態宣言が発令され、その期間、Aさんのアルバイト先は店舗を休業することを決めた。4月と5月のシフトがなくなり生活に困窮したAさんは店長に休業補償について問い合わせたが、店長からは「本部に問い合わせる」という返信以降、音沙汰がないためAさんは解雇されたと考えている。

 Aさんのように、今回も飲食店そのものが休業となったことでシフトを失い、そして解雇されるというケースが今後多発すること考えられる。さらに、飲食店で働く外国人だけでなく、コンビニやスーパーなどでアルバイトをする留学生も影響を受けることが予想される。

 次に、4月には、店が休業しない場合にも影響が多く見られた。

ベトナム人留学生(20歳代女性)

都内のコンビニで働いていたBさんも、学費や生活費のために週20時間ほどシフトに入っていた。緊急事態宣言が発令されてもコンビニ自体は24時間営業を続けていたが、都心のオフィス街にあった店舗のため利用者が激減し、シフトに入る人数が減らされた。日本人よりも外国人のシフトが先に削られ、Bさんはほとんどシフトに入れてもらえなくなってしまった。

 このように、店舗自体がオープンを続けたとしても、利用者が減少したことでシフトに入る労働者数が減らされる可能性がある。例えば、これまで5人で回していたところを、2人で営業するといった具合だ。そうなった場合、これまでの相談ケースからいえばやはり外国人のシフトからカットされている。こういったケースは、コンビニやスーパーに限らずその他の小売店でも確認されている。

雇用調整助成金を使わない解雇は違法の可能性が高い

 では、AさんやBさんのようにシフトを削られるといったケースや、「コロナで店舗が閉鎖したので解雇」といった事態は、仕方がないことなのだろうか。確かに、飲食店や小売店のなかにはコロナで売上が減少し、数日で倒産の危機に直面する企業も存在するだろう。

 とはいえ、まず大前提として、会社の都合で労働者を休ませる際には、会社は労働者に対して最低でも平均賃金の6割の給料を休業手当として支払う義務がある(労働基準法第26条)。緊急事態宣言下であっても時短営業が「要請」にとどまるのであれば、休業するかどうかはその会社の判断に委ねられることになるため、会社都合にあたると考えることができる。つまり、企業は休業手当を支払う義務があるといえるだろう。

 さらに、そもそも労働者と会社は労働契約を締結して働いているため、労働者が働くことができる状態であったにもかかわらず、会社が一方的に就労を拒否した場合、労働者にはその期間に支払われるべき給料の100%を請求する権利があると民事的には考えられる。

 そのうえ、いま政府はコロナによる解雇や中途解約を避けるための支援策を企業に提示している。例えば、雇用調整助成金という、労働者を解雇する代わりに休業させて給料を支払えば、その一定分を政府が企業に補助金として支給するという制度がある。コロナ禍において拡充されており、中小企業であれば、休業中の労働者に支払う賃金の最大で100%が国から支給される(厚生労働省ホームページ)。

 雇用保険に入っていないアルバイト(留学生のほとんどが該当すると考えられる)に対しては、「緊急雇用安定助成金」という名目で、雇用調整助成金と同じ内容が支給される。この制度が活用できる環境にあるいま、企業がコロナを理由に解雇や中途解約を行う合理性は乏しいと言えるだろう。

 このように考えると、AさんやBさんは自宅待機させられた際に、そもそもキャンセルになったシフト分の給料を請求する権利があった。さらに、会社側も雇用調整助成金などの制度を活用すれば、ほとんど負担なく雇用を維持することができたのである。

 しかし、国の助成金を利用するには、会社が一旦労働者に給料を支払ったうえで、後日国に対して助成金を申請するという流れになっているため、最初から支払おうとしない企業が多い。それは違法となる可能性が高いが、外国人を差別的に扱う事業主は少なくなく、外国人労働者が日本の制度について詳しくないという事情もそれを助長してしまう。

 そのため、特に今回の緊急事態宣言で影響を受けるであろう飲食店で働く外国人労働者に対して、そもそもシフトを削られたとしても会社は給料を支払う義務があること、そしてコロナを理由に即座に解雇されることが違法の可能性が高いことを周知するとともに、生活に困窮している外国人労働者が権利を主張できるようなサポートをしていくことが必要だ。

 こうした「制度利用のサポート」が外国人労働者には、強く求められているのだ。

 POSSEのようなNPOや労働組合の中には、日本語だけでなく英語や中国語など多言語で外国人労働者から無料相談に対応している団体も存在する。周囲の外国人労働者で困っている人に遭遇した際には、ぜひ支援団体に相談するよう促してほしい。

NPO法人POSSE 外国人労働サポートセンター

メール:supportcenter@npoposse.jp

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

今野晴貴の最近の記事