学生アルバイトが「権利」を主張 団体交渉やドキュメンタリー映像も

写真はイメージです。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 今年4月、緊急事態宣言が出され、飲食や小売、塾業界の多くは休業するに至った。そうした中で、多くのアルバイトは「学生だから」とまともに休業補償がされず、生活や学業の継続に行き詰まっている。

 高等教育の無償化に取り組む学生団体の「高等教育無償化プロジェクトFREE」が4月29日に発表した行ったネット調査「新型コロナ感染拡大の学生生活への影響調査」によると、119の大学、短大、専門学校等の514人のアンケートに回答した学生のうち、「退学を検討」している学生は20.3%、およそ5人に1人に上った

 そして、「自分のアルバイト収入がなくなった。父親の店は経営難、契約社員の母は減収。大学をやめることにした」など、すでに2人は「やめることにした」と回答している。

 緊急事態宣言が解除されたことで休業状態にあった店舗も再開を始めているが、学生アルバイトが置かれている状況はあまり改善されてない。

休業補償が出ないことで苦境に立たされる学生アルバイト

 緊急事態宣言後、筆者が代表を務めるNPO法人POSSEには、100件以上の学生アルバイトからの相談が寄せられたが、相談の8割が休業補償に関するものであった。

 学生が会社に「休業補償を支払ってほしい」と求めても、「うちは学生には出していない」、「休業補償をする義務はない」などと相手にされず、実質的に収入が途絶えてしまった学生アルバイトが多かった。

 いまや学生アルバイトの多くは、大学に通い続けるための生活費、人によっては学費を賄うために働いている。「趣味や娯楽のためにアルバイトしている」というかつてのイメージとは異なっており、休業補償が支払われないことによって、退学を検討せざるをえなくなるほど困窮してしまうという実態がある。

参考:「20万円の給付でも「足りない」? 学生の「労働者化」は何を引きおこしているのか」

休業補償は請求できる

 実は学生のアルバイトの場合であっても、休業補償は100%請求することが可能だ。

 法律上の権利を改めて確認しておこう。民法536条2項により、使用者の「責めに帰すべき事由」(故意・過失またはこれと同視すべき事由)がある休業の場合、労働者は休業中の賃金を全額請求できる。労働者に何の落ち度もないのに雇用主側の都合で働くことができなかったということであれば、労働者は賃金を請求する権利を失わないということだ。

 新型コロナに関連する休業の場合、雇用主にそこまで責任が認められないということもあるだろう。このようなときは賃金全額を請求することが難しいケースもあるが、そのような場合でも、労働基準法26条に基づき、休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いを求めることができる。

 雇用主が休業手当の支払義務を免れるのは、かなり限定的なケースだけだ(天変事変など不可抗力による場合のみ)。さらに、仮に企業が休業補償を免れるケースでも、休業手当を支払えば、国が雇用調整助成金で補助してくれる(もちろん、支払い義務がある場合でも助成される)。

 また、特措法に基づく休業要請を受けていて、解雇等をしていない場合、中小企業であれば補助率は100%に上る(上限額はあるものの学生の場合、多くは全額が補助されるだろう)。

 つまり、多くの場合、学生に休業手当を支払ったとしても、企業側に負担はないのである。政府の新型コロナ対策は、この「雇用調整助成金」が中心になっているため、この制度を企業が使わないことは、働く人たちの権利侵害に当たるといっても過言ではない。

学生の行動が、ドキュメンタリー映像に

 アルバイト先が休業手当を支払ってくれない場合、ユニオン(労働組合)に加入して交渉するという方法がある。学生たちがつくる労働組合である「ブラックバイトユニオン」や「首都圏学生ユニオン」などでは、多くの学生たちが、アルバイト先との交渉に臨み、解決を勝ち取っている。

 そんな「学生アルバイトの団体交渉」の風景を紹介したドキュメンタリー映像も登場した。

 「ドキュミーム」というプロの制作者のチームが、ボランティアで動画にしているのだ。

 ドキュミームは、コロナ危機をきっかけに立ち上げられた。制作者たちは、既存のメディア内部で現場の実情を直接映像化できないことにジレンマを感じ、「社会とドキュメンタリーを面白く繋ぎなおしたい」と、コロナ危機下の現状を精力的に配信している。

 このドキュメンタリー内では、ひとりの塾講師アルバイトがユニオンに加入し、会社に対して声をあげるようになった「背景」や交渉の場面がリアルに描き出されており、コロナ危機のもとでも権利のために声をあげて闘う若者がいることを改めて教えてくれる。

 動画内に登場する山田さん(仮名)は勤務する個別指導塾に休業補償を求めたが、会社側は「雇用調整助成金を使って休業補償を支払うことが最善だと考えているが、補償する義務はない」として、いっさい休業補償を支払わなかった。

 そのため山田さんは「アルバイトが声をあげることでこの状況を変えていきたい」と考え、ブラックバイトユニオンに加入し、会社と交渉することに決めた。「アルバイトの生存権」を主張する彼の言葉は、前述した通り、決して誇張ではないだろう。

 企業から休業手当が支払われない労働者に対して、国は新たな休業支援金・給付金制度を創設したが、給与の8割しか保障されない。そもそも雇用調整助成金を使用すれば10割の休業補償ができるし、国もまずはそれを使用することを促している。山田さんも会社に対して引き続き10割の休業補償を求めている。

すでに10割の休業補償が支払われた事例も

 ユニオンに加入し、交渉をしたことによってすでに解決したケースもある。母子家庭の家計と、自らの生活費のためにアルバイトをしていた大学2年生のAさんは、コロナの影響で仕事が次々にキャンセルになっていった。働く予定だった会社からは電話一本でキャンセルが告げられるだけで、休業手当などについての説明は全くなかった。

 「このままでは大学に通えなくなる」。そんな危機感から、Aさんはネット検索でみつけた「ブラックバイトユニオン」に相談した。ユニオンのスタッフから「会社に100%の休業手当を請求することができる」と説明を受け、「生活のためには、ここで声をあげるしかない」と決意した。

 Aさんはユニオンに加入し、4月末に休業補償の全額支払い等を求めて会社に団体交渉の申し入れを行ない、早期に休業補償全額の支払いをするよう会社と交渉したのである。すると、交渉から1週間ほどして、アルバイト先の企業3社それぞれから休業補償の支払われるようになった。しかも、3社中2社は「休業補償100%」が支払われたのだ。

 

緊急事態宣言解除後も続く学生アルバイトの苦境

 8月に入った現在でも、いまだに休業補償に関する相談は多い。特に、全面的な休業から、シフトを減らされるなどの「労働条件の悪化」へと問題がシフトしている。

 一例を挙げると、イベントでの販売スタッフのアルバイトをしている大学4年生は「緊急事態宣言が出されてから、イベントを実施する店舗自体が少なくなり、仕事がもらえない日が増えました。5月は結局一度も入れず、7月もいつもより半分以下しか入れませんでした。もちろん、会社からの休業手当はありませんでした」と訴えている。

 生活費が足りないため、ほかのアルバイトで補填しようとしたが、大学4年生ということもあり、雇ってくれるところも少ない。そのため生活に困窮してしまっているという。

 このように、緊急事態宣言が解除されてからも、シフトが減らされた、仕事が入らないなどの理由で、実質的な休業状態に置かれて、何ら収入が保障されていない学生からの相談が相次いでいる。なかには、「業績が悪化したから」という理由で、一方的に賃金が10%カットされたという事例もある。

 また、業績悪化から店舗を閉鎖したり、人員削減を行う企業も増えている。そのなかで企業は法的な規制の強い解雇を避けるために、学生アルバイトに対して「地方の店舗に転勤するか自己都合退職か」の選択を迫ったり、理由をうやむやにして、とにかく「自己都合でやめてくれ」と退職届を強要したりするという事例も増えている。

 学生アルバイトは、コロナ危機のなか、企業にとって「都合の良い雇用の調整弁」として扱われており、緊急事態宣言後も苦境が続いているのだ。

おわりに 「権利」の主張は社会正義

 学生アルバイトに対して、給料を一方的に引き下げたり、休業補償を支払わないといった企業の対応には問題があることはすでに指摘した通りだ。こうした不当な扱いを受けた場合には諦めずに専門家に相談するとよいだろう。

 休業手当の不当な不払いは、国の政策をも無効にする明らかな「不正義」である。権利を行使することで、はじめて国の政策も機能するのが現実なのだ。

 こうしたことは労働や福祉のあらゆる場面で言える。例えば残業代の不払いを我慢していれば、それが当たり前になってしまう。コロナ危機で生活が脅かされている今こそ、「権利の行使」をするときだ。

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*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

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*仙台圏の学生たちが作っている労働組合です。

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