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テレワークを継続してほしい! コロナ「第二波」で広がる切実な訴え

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです。(写真:アフロ)

 7月に入り、東京を中心に新型コロナウイルスの感染拡大を受け、テレワークに対する関心が高まっている。昨日も、西村康稔経済再生担当相が記者会見で、各企業が社員のテレワーク率70%を目指すよう近く経済界に要請する考えを明らかにし、大きな話題となっている。

 朝日新聞が全国の主要100社を対象にしたアンケートでは、76社が「テレワークの導入・拡大」を行うと回答している。

参考:「事業体制見直し、9割弱 コロナ、大半テレワーク 朝日新聞社100社調査」(朝日新聞)

 

 私が代表を務めるNPO法人POSSEに寄せられる労働相談でも、「緊急事態宣言後も、テレワークを継続したい」という声は根強い(ただし、他方で、「緊急事態宣言中も、テレワークを希望したが、会社に拒否された」や、「正社員はテレワークになったが、派遣の自分には許可が下りなかった」という相談もかなりの数、寄せられている)。

 一方で、テレワークの実施によって発生する長時間労働の問題や、上司が遠隔から労働時間を管理しづらい、といった労働時間管理にたいする懸念もあるようだ。

 この記事では、厚生労働省の発表しているテレワークに関するガイドラインを参考にしながら、テレワークを実施するためにはどのようなルール作りが必要になるのかを示していきたい。

参考:「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」厚生労働省

テレワークでも、労働時間の適正な把握は必要

 まず、前提として、テレワークを行う場合も、当然ながら、労働者には労働基準法などの通常の法律が適用される。

 そのため、通常の労働時間管理のもとに置かれる労働者であれば、使用者は適正に労働時間を把握する責任がある。仮に労働者が自宅で仕事をしている場合にも、パソコンの使用時間の記録など、客観的な記録から、その労働時間を把握するよう努めなければならない。

 また、休憩についても同様に、1日の勤務が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合には60分以上の休憩を与えなければならない。

 関連して、自宅で仕事をする場合、出勤している場合には行くことの難しい、銀行や役所での用事を済ませたいという人も多いだろう。いわゆる「中抜け」によって、休憩時間を1時間延長したい、という場合には終業時間を1時間繰り下げるといった対応も可能だ。

 このような「労働者の都合」であっても、あらかじめ就業規則に規定しておけば、所定労働時間を変更することができる。ただし、会社側が所定労働時間を一方的に変更することはできないため、注意してほしい(コロナを理由に、会社が所定労働時間を変えてしまった、という相談も、この間増加している)。

 そのほか、就業「場所」についても、就業規則で定めておく必要がある。つまり、テレワークを行う場所を、あらかじめ明示しておく必要があるということだ。労働者の自宅やサテライトオフィスなど、具体的に明示するか、あるいは「使用者が許可する場所」といったかたちで定めることも認められている。

長時間労働対策

 テレワークを実施する場合でも、使用者が労働者の労働時間を適正に管理しなければならないことを示したが、会社はこの点に課題を抱えているようだ。

 ある調査では、テレワークを実施している企業の約4割が、「労働時間の管理が難しい」と回答している(JILPT「情報通信機器を利用した多様な働き方の実態に関する調査」、2015年)。

 また、同調査では、労働者の側も、テレワークのデメリットとして、「仕事と仕事以外の切り分けが難しい」や「長時間労働になりやすい」と答えている。6月に連合が行った調査でも、コロナの影響でテレワークをした人の約52%が、出勤時より長時間労働になったと回答しているという。

 このように、テレワークによる長時間労働の発生は、労使双方から懸念されている。こうした事態に、どのように対応しうるだろうか。

 厚労省のガイドラインでは、次の4点が示されている。

(1)メール送付の抑制

(2)システムへのアクセス制限

(3)テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止等

(4)長時間労働等を行う労働者への注意喚起

 まず、(1)メール送付の抑制については、労働相談でも、「時間外や休日に、上司から仕事のメール(それも、急を要しないもの)が送られてきて休まらない」といった声が聞かれる。そのため、上司などの役職者から、時間外や深夜、休日にメールを送付することは禁止するなどのルールを、あらかじめ定めておくことが有効だろう。

 また、(2)システムへのアクセス制限については、会社から支給・貸与されたパソコンを使用し、社内システムにアクセスしてテレワークを行うケースが多いだろうから、その際、深夜や休日にはアクセスできないように事前に設定しておくことが効果的だ。仮に上司から仕事の依頼が来たとしても、社内システムにアクセスできない・パソコンを使用することができない、となれば、それを理由に長時間労働を拒否することができるというわけである。

 さらに、(3)テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止等については、テレワークを実施するにあたって、そもそも休日等に勤務することを認めないといった規定を設けておく、というものである。これは、ワーク・ライフ・バランスの観点から非常に重要だろう。

テレワークを実現するルール作りを求めよう

 新型コロナウイルスの感染は日本社会で一気にテレワークを促進する結果をもたらしたが、そもそも日ごろから、朝のラッシュ時など、通勤時間帯の混み具合は異様であり、通勤にともなう労働者の精神的・身体的負担は大きい。

 加えて、通勤時間が長く、片道1時間以上かける人も都心部では少なくない。こういった負担を軽減するためにも、希望者にたいしてはテレワークを認める対応が、今後、ますます求められる。新型コロナで広がった「気運」を一過性に終わらせるべきではない。

 私たちのもとに寄せられた相談でも、「緊急事態宣言を受け、全社的にテレワークが実施され、問題なく仕事ができていたが、緊急事態宣言が解除されると、通常勤務に戻されてしまった。会社は『就業規則にテレワークに関する記載がないから』と主張している」(IT企業)といった声が寄せられている。

 とはいえ、テレワークを実施する場合には、「導入の目的」やテレワークを実施する「労働者の範囲」、また「対象となる業務」や「テレワークの方法」などを決めておかなければならない。多くの企業では、これらが就業規則に明示されていないだろうから、テレワークを実施するには、就業規則にあらかじめ変更を加えておく必要がある。

 さらに、テレワークを実施した際に、どのように労働者を評価するのか、といった評価制度も明確化しておくことも必須だ。これまで見てきたように、テレワークの場合、自宅など上司の目が直接届かない場所で仕事を行うため、勤務状況が見えづらい。だが、このことを理由に、上司が正当な評価を与えないということになれば、テレワークを希望・実施することが、労働者にとっては不利益になってしまうからだ。

 テレワークの促進のためには、どのように労働者を評価するのか、その基準を明確化・可視化したり、あるいは業務範囲やその到達目標を明確に定めておくなどすることが企業側に求められているのである。

会社との交渉を通じて、テレワークを実現できる

 このように、テレワークを実施するにあたっては、その前提となるルールを定めておくことが必要となる。一見、ハードルが高いようにも見えるが、これは、労働者自身が「どんな働き方をしたいか」ということと直結している。

 日本の労働法では、労使は対等な立場であり、労働者側は自分たちの意見を労働組合に加入することで会社と交渉することができる。当然、テレワークの導入やそのルール作りについても対等な立場での交渉が可能だ。

 社内に労組がなかったり、あってもテレワークに前向きではない場合、社外の労組に加入して交渉することもできる。実際にコロナ禍の中で、三密状態を避けたり、自身の健康・安全のために、自宅で仕事をしようと会社と交渉している事例も存在する。

参考:英会話NOVAで「3密」の訴え ―業界の7割が非正規、休業手当なく「貧困」も蔓延

 会社にテレワークのためのルール作りを求め、交渉することによって、働き方を自身で「デザイン」することが可能なのである。

 また、冒頭でも触れたように、「正社員にはテレワークが認められているが、非正規は出勤を強制されている」といった相談も多い。感染リスクという観点からすれば、正規・非正規といった雇用形態は関係ないはずだ。

 このように、「不当」にテレワークを拒否されている場合にも、会社と交渉することで、どの場所で働くかを自分で決めることができる。労働組合(ユニオン)は、こうした「働き方」の中身を問うことができるのだ。ぜひ活用してほしい。

 なお、私が代表を務めるNPO法人POSSEでは、下記の通りテレワークについての労働相談ホットラインを実施する。適切に賃金が支払われないなど、導入後のトラブルについても対応している。

テレワーク労働相談ホットライン

8月1日(土)13時~17時

電話番号:0120-987-215(通話料・相談料無料、秘密厳守)

NPO法人POSSE主催

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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