履歴書の「性別欄」はパワハラ? 「強制アウティング」を恐れる当事者たち

(写真:アフロ)

 6月30日、私が代表を務めるNPO法人POSSEは、就職活動の際に利用する履歴書の性別記入欄廃止を求め、経済産業省と厚生労働省へ要請を行った。

 また、今年2月末からオンライン署名サイト「Change.org」にて行っている「履歴書から性別欄をなくそう #なんであるの」で集まった10,418筆の署名も提出した。

 その後、POSSEは厚生労働省でセクシャル・マイノリティーの当事者とともに記者会見を行い、NHKをはじめとした多くのメディアで報道され大きな反響を呼んでいる。

「履歴書の性別欄廃止を」経産省に1万人分の署名提出(NHK)

 

 本記事では、履歴書へ性別欄があることのどこに問題があるのかを考えていきたい。

性別欄が助長する「採用差別」

 そもそも、「男だから採用する、女は採用しない」などと性別を採用の判断に用いることは男女雇用機会均等法で禁じられている。しかし、不要なはずの「性別欄」が使われることは今も一般的だ。

 特に性別記入欄があることによって困難を抱えるのは、法律上の性別と現在暮らしている性別が異なる「トランスジェンダー」の人たちである。トランスジェンダーの人たちの場合、「戸籍上の性別」と「外見」が異なってしまい、性別の記入がそのままセクシャル・マイノリティーであることを暴露してしまうのである。

 あるいは、履歴書には現在暮らしている性別を書いた場合にも、後に戸籍上の性別が判明し、内定切りされてしまった事例もある。性別を理由に内定切りすることは不当だが、「差別」は横行しているのである。

 実際に、トランスジェンダーの約9割が就職活動の際に困難を感じたという調査もある(2019年にNPO法人「ReBit(リビット)」)

 会見に同席した当事者は、性別欄を空欄にして応募したが、面接中に性別欄への記入を要求され、その場で書くしかなかったという(後で説明する「強制アウティング」)。その後は、なぜ外見と性別が異なるのかについて質問され続け、就職のためのアピールを満足にすることもできなかったという。

 このような状態はそれ自体が人権侵害であることはいうまでもないが、採用する企業にとっても、不毛なことではないだろうか?

性別を記入させ「強制アウティング」するのは違法なパワハラ行為

 性的マイノリティーの人たちを特に苦しめているのが、第三者に勝手に知らせる「アウティング」である。「アウティング」は、被害者を自殺にさえ追い込む深刻な人権侵害行為である。一橋大学のロー・スクールの学生がアウティング加害による自殺事件を引き起こし、大きな社会問題となっている。

【参考】「一人ぐらいいいでしょ」 性的マイノリティーへの「アウティング」と闘う

 先ほどの証言でも登場したように、履歴書の「性別欄」の存在は、この「アウティング」を制度的に引き起こしている点で、非常に深刻な問題をはらんでいる。性的少数者であることを表す個人情報が就職を希望する企業内で回覧され、「強制アウティング」を引き起こすからだ。

 また、今月1日に施行された「パワハラ防止法」では、アウティングはパワーハラスメントとみなされ、防止策の策定や啓発活動、アウティングが起こってしまった際の再発防止対策などが企業へ義務付けられるなどもしている。

  トランスジェンダーの人たちへ履歴書で性別を問うことは、それ自体が非常に深刻な人権侵害であると同時に、「パワハラ防止法」にも反する行為であるといえるだろう。

「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」

個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

(イ)該当すると考えられる例

(1)労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。

(2)労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。

海外では履歴書で性別を聞くのは「違法行為」

 最近では、日本においても公務員試験や高校入試などで性別欄をなくす動きが全国各地で広まっており、各企業においても性別欄を問わない履歴書の採用の動きも出てきてはいる。徐々にではあるが、性別を問わない取り扱いが進んできてはいるのだ。

 しかし、それらは海外に比べると圧倒的に遅れていると言わざるを得ない。海外では性差別を予防するために、そもそも履歴書で性別を尋ねること自体が法律で禁じている国も多数あるからだ。

 例えばアメリカには「差別禁止法」という法律によって履歴書において性別を聞くことは禁止されており、これを聞いたら違法行為になる。さらに、生年月日、婚姻状況や家族構成、顔写真などを求めることも、年齢や人種等で就職差別することにつながるため違法となっている。

 仮にそれらが記載されている履歴書が提出された場合は、その時点で企業側は選考外として取り扱い、その求職者は履歴書提出段階で排除される。さらにいえば、企業側はその求職者に対して、「属性」を問い差別することを是とする「差別主義者」ではないかと見なしさえするという。

 「何者であるか」という属人的な要素ではなく、「何ができるのか」という技能を基準に労働者の採用をするのが海外では当たり前の採用方法なのだ。

日本の履歴書はなぜ性別を問うのか?

 ところが、日本で主に使われるJIS規格(経済産業省が管轄)の履歴書には性別欄が残っている。多くの企業はこれにしたがって、性別欄のある履歴書を採用していると考えられる。

 経済産業省や厚生労働省も性別欄をなくす取り組みをほとんど行っていない。事実上、海外では差別となり「違法」となることが容認されている現状があるのだ。なぜこのような状況が維持されているのだろうか。

 JIS規格の仕組みについて経済産業省へ要請の際に問い合わせたところ、「JIS規格自体が履歴書への性別欄の記載を必須のものとしているわけではない」という回答を得た。

 JIS規格自体は、履歴書の紙の大きさや品質、インクの濃さなど、ごく形式的なものを規定しているだけであり、求職者へ問う「内容」については規定していないということであった。

 しかし、JIS規格では、履歴書の内容の詳細について、その「規格票」を発行する一般財団法人「日本規格協会」が「参考例」を示しており、これが広く活用されているようだ。

 今回のPOSSEと経済産業省とのやり取りでは、JIS規格は生年月日や写真についても履歴書において求めていないということがはっきり確認できた。国としては、特に履歴書への性別や生年月日、写真を求めているわけではないということが明確になったのだ。

経産省も「指導」に乗り出し、履歴書が抜本的に変わる?

 さらに、要請の中では、経産省から「日本規格協会」へ私たちの要請趣旨を伝え、指導する旨の回答があった。それは、今後、JIS規格の履歴書から性別や年齢、写真などの様々属性を問う欄が消える可能性が高いということを意味するだろう。

 「日本規格協会」の示している記載例から性別や年齢、写真などを削除させることができれば、これは、日本において、就職差別をなくすための大きな一歩を踏み出したと言える。

 様々なマイノリティが履歴書によって「選別・排除」されている現状を具体的に変えていけるのだ。

 ただし、性的マイノリティーの働きやすい環境への課題はまだまだ多い。例えば、マイナンバーカードやパスポートには、性別がわざわざ記載されている。海外出張の多い職場でパスポートの写しが放置されてしまい、退職せざるを得なくなった当事者もいる。

 会社内で書類が閲覧されること自体に、ハラスメントの要素がすでに備わっているわけだ。安心して働ける環境を整えるためには、さまざまな証明書から不要な性別欄を削除していくことが求められる。

 私たちは、今後、「日本規格協会」へも新たに申し入れをし、海外と同様に、個人の属性を問うことで就職差別を生むような記載事項は全て削除するよう求める予定だ。同時に、今後も職場の差別を生むさまざまな証明書の問題について、当事者と共に改善を求めていく。

おわりに

 就職差別の是正への取り組みは、トランスジェンダーに限らず、就職活動をするあらゆる労働者にとってプラスになることであり、誰もが関わる問題だ。

 今回の取り組みが進み、履歴書から性別や生年月日、写真がなくなれば、性別や年齢、民族、容姿などによって就職差別をされることがない社会へ大きな前進ができるだろう。

 POSSEをはじめ、マイノリティの労働問題や、改善の取り組む団体が今、広がりを見せている。今回の成果によって、ボランティア活動への参加がますます増えることを期待している。

 最後に、NPO法人POSSEでは、7月25日(土)にセクシャルマイノリティ向けの無料労働相談ホットラインも開催する。今回は、職場での「アウティング」被害に特化した労働相談ホットラインである。被害にあわれた方はぜひ利用してほしい。

【職場でのアウティング被害相談ホットライン】

日時:7月25日(土)13時~17時

番号:0120-987-215(通話料・相談料無料、秘密厳守)

主催:特定非営利活動法人POSSE 

場所:当法人事務所(世田谷区北沢4-17-15―201)

無料労働相談窓口

NPO法人POSSE 

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

総合サポートユニオン 

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*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

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*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

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