コカ・コーラ下請けで残業代「2400万円」提訴 「アフター・コロナ」の動きも

写真はイメージです。(写真:アフロ)

 本日、コカ・コーラの下請け輸送業者で働く労働者5人が、会社を相手取り、約2400万円の未払い残業代の支払いを求める裁判を提起したという発表があった。請求額は、会社から労働時間記録の提供がないために、平均的な労働時間から原告が算出したものだという。

 原告の労働者は、「シグマグループ」のシグマベンディンサービス株式会社シグマロジスティクス株式会社に雇用される労働者たちで、彼らは昨年末から個人加盟の労働組合、自販機産業ユニオンで労働環境の改善を同グループに求めていたところだった。

 自販機業界では、これまでもサントリー系のジャパビバレッジや埼玉の中小企業・大蔵屋商事で、長時間労働と残業代未払いが問題になってきたが、今回の事件では、いよいよ多額の請求訴訟にまで発展している。

 一方で、現在のコロナ禍の中で、自販機業界の長時間労働体質を変える動きも出てきているようだ。本記事では「アフター・コロナ」も見据え、同業界のあり方を検証していきたい。

裁判の背景となった労働問題

 今回裁判となったシグマグループでは、低賃金と長時間労働がこれまでも問題にされてきた。原告になった労働者たちの月平均の残業時間は100時間にもなるという。

 従業員たちは朝7時半から8時までには出勤し、朝礼の後、すぐにトラックに乗って営業所を出発し、各所の自動販売機に向かう。各所の自販機で、商品補充や集金を行い、場所によってはごみの回収も行わなければならない。

 特に夏の時期には飲料の販売数も多く、炎天下での作業になるから、かなりの重労働だ。休憩時間はほとんどとれず、繁忙期には夜7時から8時過ぎにならないと事務所に戻れない。事務所に帰ってからも、事務作業と明日のための積み込み作業をやらなければならないず、帰る時間は21時を回ることもざらだったという。

 「もう帰ったら、疲れて寝るだけです。本当にきついことさせられてますよ」と原告の一人は語った。

 ひと月当たり100時間以上の残業を行っていても、残業代は支払われず、賃金は額面で30万円前後。時給換算をすれば、最低賃金ぎりぎりだ。こんな仕事では人が定着するはずがなく、多くの労働者が逃げるように転職していったという。

【参考】コカ・コーラ下請会社で最大月200時間の残業で、労基署から是正勧告

【参考】コカ・コーラの下請で「休業補償10割」 スト通告と国の「政策決定」が後押し

過重労働依存の自販機業界

 自販機業界で相次いで長時間労働や残業代未払いが問題となる背景には構造的な問題がある。最大の問題は、日本には自販機が多過ぎることだ。

 「世界一を誇る日本の「自販機」が海外進出で失敗する理由」(ダイヤモンド・オンライン、2018年05月09日)によれば、日本の飲料自販機台数はおよそ250万台であるのに対し、ヨーロッパ全体では300万台、中国20万台、東南アジア・オセアニア12万だという。日本の自販機普及率は世界一で、異常な台数になっているのだ。

 とはいえ、日本での自販機需要が圧倒的に高いというわけでもない。日本では、競合他社が自販機を出しているそばに自社の自販機を置き、少しでもシェアを奪うことが至上命題となっている。過当競争の中で、一台当たりの生産性が考慮されない状態に陥っているのである。

 その異常な数の自販機を運営するのは当然のことながら労働者だ。自販機は自動でも、自動的に運営できるわけではない。その運営が過酷な労働に依存していることは、すでに見たとおりだ。

 自販機台数はすでに飽和状態で、飲料は1本100数十円だから、この「ルートセールス」たちの労賃をどれだけ安くできるかが、飲料メーカーがどれだけ多くの利益にとって重要なものになる。労働コストを下げるにはできるだけ安く激しく労働者を働かせしか方法がないのである。

 生産性の低い競争戦略を各社がとってきたがゆえに、労働者1人あたりの賃金を引下げる方向に歯止めがきかなかったというわけだ。裁判の背景には、こうした「業界の構造」があった。

固定残業代は、残業代未払いのためにつくられた?

 さらに具体的に、見ていこう。

 少しでもコストを削減するために編み出され、今回の裁判でも問題にされている労務管理の手法が「固定残業代制度」である。固定残業代は、本来は、実際の残業の有無にかかわらず一定額の残業代をしはらう賃金制度である。

 シグマグループを含む、自販機運営会社の多くでこの固定残業代が用いられている。

 固定残業代が用いられると、いつでも同じ額の「残業代」が支払われるから、実際の労働時間と支払われている残業代があっているか否かについて労働者は関心を持ちにくくなる。それをいいことに多くの会社で固定残業代の労働時間を超えても残業代を支払わないという実態が横行しているのである。

 また、一目では残業代とわからないような手当を後から残業代であると主張し、残業代を違法に支払わない企業もある。もちろん、契約の時点で残業代であることを説明しなければそれは法律上の「残業代」にはならない。

 今回のシグマグループの訴訟でも、会社側は「業務手当」「配送手当」「営業手当」などを残業代であると主張しているが、無理のある主張であると思われる。

【参考】サントリーグループで「外回り業務」に是正勧告 外回り営業に蔓延する違法状態

【参考】「固定残業代100時間」をめぐり集団訴訟へ 問われる「脱法」制度のあり方

コロナ禍の影響で自販機の台数は減るのか

 こうした自販機業界の過当競争を転換する動きが、新型コロナウイルスの感染拡大を契機として始まっている。テレワークが増え、外出が減少する中で、いよいよ自販機の大量設置の戦略が行き詰まっているからだ。

 ところが、「コカ・コーラ、コロナ禍でも自販機拡大のなぜ」(東洋経済、2020/06/05)によれば、コロナの影響でテレワークが進むことによって、各社が自販機の売り上げが減少する見込みを大手飲料メーカーが立て始める中で、コカ・コーラだけが自販機増の強靭な方針を捨てていないのだという。

以下は同記事からの引用である。

「昔は台数を増やせば売り上げも上がったが、今は業界全体で売り上げが落ちている」(サントリー食品インターナショナルIR)、「テレワークが浸透すれば自販機による売り上げは減るだろう」(アサヒ飲料IR)、「台数は戦略として減らしている。収益を確保するために採算のいい立地を獲得すればお金がかかるが、そこまでペイしない」(キリンビバレッジIR)

出典:週刊東洋経済

 これだけ各社が自販機台数を減らす方向に行っているにもかかわらず、コカ・コーラだけが自販機拡大を止めないのは、他社から少しでもシェアを奪い取る戦略からだろう。しかし、コカ・コーラがこの戦略をとり続ける限り、下請企業を巻き込みながら、労働者の賃金コストを極限まで切り下げる業界の状況は変わることがない。

「権利主張」が生み出す業界規則

 いま自販機業界の過当競争を止められるのは、市場原理を規制する役割を担う、労働組合だけだろう。自販機産業ユニオンは、業種別の労働組合は、企業を横断的に組織された労働組合で、業界全体で「8時間労働で生活できる賃金を」を統一要求にし、自販機業界で働く人に組織を広げている。

 すでに、自販機産業ユニオンはジャパンビバレッジや大蔵屋商事との団体交渉の末、残業時間を大幅に規制し、労働基準法が守られる職場(休憩1時間、残業代全額払い、有給取得)を実現している。

 今後も同じような成果を各社で上げるなら、産業別ユニオンが業界大手に広がり、各社は「労働コスト」のダンピング競争をやめ、生産性を高める方向での競争を模索していくだろう。こうして業界全体が足並みをそろえて自販機を減らす方向に進めば、自販機業界の過重労働は撲滅されるはずだ。

 このように、労働者の「権利主張」は業界や社会の改善に直接つながっている。そして、自販機業界では、現下のコロナ禍で現状の見直しを迫られている今こそ、ユニオンが力を発揮する絶好の機会であると考えられるのだ。

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