経営者に倫理観はないのか? 荒れ狂う「非正規差別」と「闘う」しかない現実
先週、今年4月分の労働力調査の結果が報道された。これによると、非正規雇用労働者の数は2,019万人となり、前年同月比で97万人も減ったという。比較可能な2014年以降の最大のマイナスとなった。
【参考】非正規労働97万人減、過去最大 新型コロナ緊急事態宣言が影響(2020年5月29日 東京新聞)
先月末に発表された今年3月分の同調査では、非正規雇用労働者の数は2,150万人で、前年同月比は26万人減であったから、4月になり、新型コロナウイルスの影響が一気に雇用に現れてきた形だ。
非正規雇用労働者の雇い止めや解雇が急増
この間、私が共同代表を務める「生存のためのコロナ対策ネットワーク」が行った「休業補償・解雇・倒産電話相談ホットライン」でも、数多くの非正規雇用労働者の雇い止め・解雇の相談が寄せられている。このホットラインは5月末に2日間行われ、その相談数は383件であった。
そのうち、解雇・雇い止めの相談は109件であった。多くは、派遣やパート労働者だ。
【参考】6月末でのコロナ「非正規切り急増」の危機 「賃下げ」の横行も
厚生労働省が6月5日に発表した集計でも、新型コロナウイルス感染拡大に関連した解雇や雇い止めが、見込みを含めて2万人を超えたことがわかった。ここで注目に値するのは、先月21日時点で、解雇・雇い止めされた人が1万人を超えた後、2週間でその数が倍増しているということだ。この中に、非正規労働者が多く含まれていることは想像に難くない。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/33667 【参考】新型コロナ解雇は2万人超 2週間で倍増、厚労省が発表(2020年6月5日 共同通信)
非正規解雇の実態
先にも触れたように、5月末に「生存のためのコロナ対策ネットワーク」が実施した相談ホットラインには、非正規労働者から多数の相談が寄せられ、その数は全体の71.8%を占めた。そして、そのほとんどは、「コロナだから」と、十分な説明もないままに、雇用契約が更新されず、雇い止めにあっている。飲食店や小売店からの相談がとくに多く、いくつか典型的な事例を見ていこう。
あるレストランで働いていた男性(派遣)は、これまで1ヶ月契約を自動更新されてきたが、コロナを理由に3月末で雇い止めされてしまったという。別のレストランで働く女性(パート)も、3月から来店客が減り、現在までシフトを入れてもらえなくなった。会社は「閉めます」とだけ言っており、解雇とは言われていないが、事実上、解雇されているようなものだと感じている。
また、4月から臨時休業に入った百貨店は多いが、その販売員として働く女性(派遣)も、「こんな状況だから」と、6月末付での雇い止めを言い渡されたという。派遣会社に相談しても、新たな派遣先も見つからず、今後の生活に不安を感じている。
以上のように、店が休業になり(その間の休業補償がされないことも非常に多い)、数ヶ月間、無給で自宅待機をしており、実質的に解雇されているようなものだ、といった相談や、「コロナだから、わかるだろう」と、会社が労働者に理解を求めるかたちでの雇い止めが横行している。たしかに、コロナの影響で、厳しい状況に立たされている飲食店なども多いだろうが、同じように(あるいはそれ以上に)、突然の解雇を言い渡された労働者も、明日からの生活に支障をきたしてしまう。
非正規が「使い捨て」にされない社会へ
これまでも私が発信する記事でくり返し述べてきたが、雇用調整助成金がきちんと運用されれば、雇用継続は可能なはずだ。現在、雇用調整助成金の申請手続きは大幅に緩和され、さらに、助成金の上限額の増額や対象の拡大も進められてきた。
【参考】「申請できない」はウソ! 整備進み、雇用調整助成金の活用が「急増中」
しかし、こうした制度改正が進められても、実際には雇用が守られていない。とくに、非正規労働者にたいする「差別」は露骨なものだ。
今回のホットラインでも、「4月後半から休業になり、正社員には全額補償されるが、パートの自分には支払いがない」(医療、パート、女性)、「3月から休みが増え、4月から休業になった。正社員には6割が支払われているが、非正規には何の説明もない」(宿泊業、パート、女性)、「アルバイトには休業補償は出さない、と言われた」(飲食、アルバイト、女性)というように、休業補償の支払いにおいて、正規・非正規で格差をつけている会社がかなり多い。コロナウイルスの影響は、雇用形態に関わりがないにもかかわらず、だ。
そして、この記事で見てきた、雇い止めの問題こそ、この非正規差別の問題の象徴であるといってもいい。なぜなら、企業は現在の不安定な状況の中で、できるだけリスクを避けるため、非正規労働者の雇用を細切れにしたり、あるいは早い段階で契約を切ってしまおう、と動いている。そして、これは、正社員よりも優先して行われる。つまり、正社員の雇用を守るために、非正規労働者を雇い止めすることは、「合理的だ」と考えられているのだ。
雇用調整助成金は政府が非正規雇用を含む解雇を防止するために進めている政策だが、経営者が非正規にはこれを適用せず、積極的に解雇している実態は、企業の社会的責任(CSR)に反する行為だと指摘せざるを得ない。
こうした取り扱いは、非正規労働者に対する差別を容認し、ますます労働者同士の分断を促進してしまいかねない。「非正規労働者だから」と、企業から十分な説明もなく、契約を解除されてしまうのは許されないし、正規・非正規で休業補償の額に差をつけることも、社会的に見て、何の正当性もないはずだ。
コロナに便乗した会社の理不尽な対応には、きちんと声を上げていく必要があるだろう。私たちのもとには、まさに、「コロナの影響で」と一方的に解雇され、生活に困っている派遣労働者やパート労働者が集まり、労働組合(ユニオン)に加入し、会社に十分な説明や解雇撤回を求め、交渉するために動き出している。泣き寝入りしてしまう労働者も多いなか、「納得ができない」、「このままでは生活が成り立たない」という思いから、みな立ち上がっている。
「非正規だから」と、休業補償が払われない、雇い止めされてしまったという方は、ぜひ下記の相談窓口に相談してほしい。現在も再び感染拡大が進む中、雇用面での矛盾は非正規労働者に押し付けられている。これを許さない社会的な取り組みが、ますます求められている。
無料労働相談窓口
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*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。
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