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非正規に広がる「補償なき休業」 「シフト制」や「登録型派遣」でも休業補償の義務

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 いま、多くの非正規労働者が「補償なき休業」の状態に置かれている。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って事業の縮小・休止を余儀なくされた企業が、非正規社員を適切な補償なしで休業させるケースが多発しているのだ。

 特に不払いが多いのは、「シフト制」や「登録型派遣」ではたらく非正規雇用だ。これから述べるように、これらの非正規労働者に対しても雇用主の企業は休業手当を支払う法的義務があり、雇用調整助成金の対象にもなる。だが、それにもかかわらず、非正規労働者の「補償なき休業」が広範に拡大してしまっている。

 今回は、「非正規切り」の実態を紹介しつつ、非正規労働者への休業補償の法的義務や雇用主が補償した場合の雇用調整助成金の利用の可否について解説していきたい。

シフト制・「登録型」で広がる「補償なき休業」

 私が代表を務めるNPO法人POSSEには、多くの非正規労働者から「補償なき休業」に関する相談が寄せられている。そして、その多くが「シフト制」のパート・アルバイト労働者や「登録型」の派遣労働者からの相談だ。

 非正規の労働相談に共通していることは、1ヶ月間の所定労働日が契約で明確に定められていないことだ。正社員であれば、所定労働日を1日8時間、1週5日間などと労働契約で明確に定めており、会社からの指示で所定労働日より労働日数が減れば、その分は会社都合の「休業」であることがはっきりする。

 だが、シフト制のパート・アルバイト労働者や「登録型」の派遣労働者の場合には、同じ問題が、「シフトが入らない」「仕事(派遣先)を紹介されない」という形で現れてくる。1ヶ月間の所定労働日数が曖昧にされているため、当の労働者にとっても、会社都合の「休業」だと認識することが難しいのだ。

 具体的には、次のような相談例が挙げられる。

飲食店で働くシフト制のアルバイト

 20代男性。飲食店でシフト制のアルバイトとして働いてきた。2月までは、週に5日、一日6~8時間程度のシフトが入っていた。ところが、3月から徐々にシフトが減らされ始めて、緊急事態宣言発令以降はお店が時短営業となり、店長から「アルバイトにお願いする仕事がないから、しばらくシフトには入れないと思う」と言われた。すでに確定していた4月中旬までのシフトの分については補償があるが、それ以降はシフトに入っていないため仕事も補償もない。

旅行添乗員として働く「登録型」の派遣

 30代女性。「登録型」の派遣で旅行添乗員として働いてきた。働き方としては、派遣会社に「登録」しておくと、派遣会社からツアーごとに仕事の「紹介」があり、それに「応募」すると、そのツアーの期間とちょうど同じ期間だけの雇用契約を結ぶという形になっている。新型コロナウイルス感染症流行の影響で、2月頃から旅行ツアーの多くがキャンセルとなったため、ツアーの仕事の「紹介」が無くなってしまった。それに伴って、収入も途絶えてしまった。

 こうした状況に置かれている方が口を揃えて言われることは、「仕事が無くなった」「解雇とは言われていない」「生活が苦しい」ということである。だが、解雇したわけでもないのに、仕事も与えず補償もしないといったことが、法的にみて許されるのだろうか。

シフト制の労働者の場合:休業補償無しは違法

 パート・アルバイト労働者のシフトを削減した場合やシフトから外した場合でも、法的には会社都合の「休業」となり、雇用主は労働者に対して休業手当を支払う義務があるものと考えられる。

 たしかに、正社員などと比べると労働日に関する契約内容が不明瞭であるため、「休業」の日数を特定することが困難なケースは多い。だが、厳密に「休業」の日数を特定できないからといって、「休業」ではないと考えることは適切ではない。

 そもそも、労働契約法は事前に労働時間を特定することを求めており、「シフト制で決める」などと労働契約や就業規則で定めていたとしても、労働時間の特定はなされていると考えるべきである。そのため、合理的な方法で契約上の労働時間を確定し、そこから「休業」の日数を概算するのが妥当だ。

 先の飲食店の例をとれば、新型コロナ感染症の影響が出る以前の3ヶ月間(昨年12月~今年2月)の平均出勤日数・時間数は、週5日、一日6~8時間程度であった。このケースでは、労働契約上の労働日を週5日、一日7時間とみなすことが合理的だといえ、それに満たない分については「休業」と捉え、休業手当を支払うべきであると考えられる。

 ところが、現実には、シフト制の場合の休業手当の支払義務についてルールが明確化されていないため、全く支払われないということも少なくない。厚生労働省は、シフト制の場合にも休業手当を支払うべきことや、その場合の算出方法について指針を定め、明確化するべきであろう。

 なお、休業手当の額の算出方法や法的根拠については、別稿を参照してほしい。

【参考】休業手当は給与の「半額以下」 額を引き上げるための「実践的」な知識とは?

「登録型」の派遣労働者の場合:休業補償無しは違法の可能性あり

 「登録型」の派遣労働者の場合も、雇用主に休業手当の支払義務がある可能性がある。

 一般的に、「登録型」の派遣では、派遣先と派遣会社の間の労働者派遣契約の期間とちょうど同じ雇用期間の労働契約が締結されている。このことは、労働者派遣契約の終了と労働契約の終了が同時に起きることを意味している。

 ここで、重要なことは、派遣先が労働者派遣契約を打ち切ったからといって、派遣会社が労働契約を打ち切ってよいということを意味しないということだ。派遣会社が、一般的に、労働契約の期間を労働者派遣契約の期間に合わせているだけであり、片方の契約が終了することがもう片方の終了を必然的に生じさせるわけではない。具体的には、ある派遣先での仕事が終わって次の派遣先の紹介も補償もされないということは、当然に許されるわけではないのだ。

 なぜこのことを強調するかと言えば、「登録型」の派遣の場合には、労働者派遣契約の打ち切り=労働契約の打ち切り(休業補償なし)が当然に許されるという誤解が広がっているからだ。本来、派遣会社は、複数の派遣先と労働者派遣契約を締結することで、一つの派遣先の仕事が無くなっても他の仕事を見つけて、労働者の雇用を維持できるようにする責務がある。だから、労働者派遣契約の打ち切りを労働契約の打ち切りの理由にするのは、その責任の放棄であり、許されることではない。

(なお、不況期には、派遣会社の努力だけで労働者の雇用を維持することは現実的には難しいため、派遣先の協力が必要なことについては別稿で書いているので参考にしてほしい)。

【参考】「派遣切り」の多くは違法? 「本当」は厳しい派遣法を読み解く

 また、労働契約法19条によれば、「有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある」場合などには、雇い止め(労働契約の解除)は無効と解され、労働契約は更新され継続する。

 つまり、「登録型」の派遣であっても、契約更新の期待をもつ合理的な理由がある場合は、現在の派遣先の仕事が打ち切られても、派遣会社が労働契約を打ち切ることは法的に認められないのだ。これに該当する場合には、労働契約は継続しているため、次の派遣先の紹介がなければ、賃金の支払義務が発生する。派遣労働者の側からみれば、雇用主に対して賃金を請求する権利があるということになるのだ。

 この場合の賃金の日数の特定については、従前の労働条件と同一になる。

非正規労働者への休業補償も国の助成金の対象となる

 国は、企業の売上減少に際して、雇用している従業員を休業させて休業手当を支払った場合に、その一定割合の金額を支援するために雇用調整助成金という仕組みを用意している。

 新型コロナウイルス感染症の流行をうけて、国はこの助成金の特例措置を設けてきた。そのなかで、「登録型」の派遣労働者のように仕事があるときだけ短期の労働契約を結んで働く人や、シフト制で働く人を支援するために、仕事が無くなっていても、過去の勤務実績などをもとにして、仕事があったと「みなし」て助成金の対象とする柔軟な運用を行っている。

【参考】助成金申請、ハローワークで断り続出 国の通知伝わらず

 朝日新聞の記事によれば、ハローワークの窓口の現場に情報が行き届いていないという問題はあるようだが、少なくとも厚生労働省は、シフト制労働者や「登録型」の派遣労働者に対する休業手当も助成金の対象となることを明確にしているのだ。シフト制の場合にも、制度を利用できるように「休業」の要件を緩和する措置もとられている。

https://www.mhlw.go.jp/content/000632949.pdf【参考】厚生労働省リーフレット「短時間休業で雇用を維持しましょう!」

非正規労働者も休業補償を請求できる

 このように、シフト制や登録型派遣の場合でも、法的にみれば休業補償の義務があり、国の助成金の対象にもなる。だが、多くの企業が「補償なき休業」を続けている。こうした企業には改善を求める動きをしていく必要があるだろう。

 すでに、シフト制労働者や「登録型」の派遣労働者が会社に請求・交渉をして補償を得られたケースも多数ある。

 たとえば、株式会社阪急トラベルサポートでは、当初は、「登録型」派遣労働者である旅行添乗員については、「アサインされたツアーのない期間」(形式上の雇用契約のない期間)については休業補償をしていなかったという。それに対して、同社の旅行添乗員の一部が加盟する全国一般東京東部労組が、「アサインされたツアーのない期間」についても休業補償を支払うよう求めて粘り強く交渉をしたところ、同社は休業補償を実施すると方針転換したという。

【参考】HTS支部 「みなし休業補償」の実現をかちとる!

 また、叙々苑や串カツ田中に食品を卸ろす会社のアルバイト労働者が、シフトが確定していないからといって休業補償を支払わないのはおかしいとして、労働組合・飲食店ユニオンに加入して労使交渉を行って休業補償の一部を支払うことになった例もある。ここでは、今後も補償100%を目指して交渉を継続する予定とのことだ。

【参考】叙々苑や串カツ田中に食品卸す(株)フードサプライのアルバイトらが、休業手当の支給を求め団体交渉申し入れ

 このように、実際に、シフト制や「登録型」の派遣労働者であっても、交渉を通じて休業補償を得られている「成功例」もある。諦めずに、ぜひ外部の専門家に相談してみてほしい。

 5月31日と6月1日に、私もメンバーになっている「生存のためのコロナ対策ネットワーク」で無料電話相談ホットラインをおこなう。弁護士、NPO、労働組合の相談担当者が無料で労働相談を受ける。ぜひご活用いただきたい。

「休業補償・解雇・倒産電話相談ホットライン」

日時:5月31日(日)10時~20時、6月1日(月)15時~21時

代表電話番号:0120-333-774(相談無料・通話無料・秘密厳守)

主催:生存のためのコロナ対策ネットワーク

参加団体:さっぽろ青年ユニオン/仙台けやきユニオン/みやぎ青年ユニオン/反貧困みやぎネットワーク/反貧困ネットワーク埼玉/日本労働評議会/首都圏青年ユニオン/全国一般東京東部労働組合/東ゼン労組/総合サポートユニオン/首都圏学生ユニオン/ブラックバイトユニオン/NPO法人POSSE外国人労働サポートセンター/新潟地区労会議/新潟NPO越冬友の会/ヘルプの会/名古屋ふれあいユニオン/反貧困ネットワークあいち/大阪全労協/連合福岡ユニオン/外国人労働者弁護団

常設の無料労働相談窓口

NPO法人POSSE 

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

総合サポートユニオン 

03-6804-7650

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*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

仙台けやきユニオン 

022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

ブラック企業被害対策弁護団 

03-3288-0112

*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

ブラック企業対策仙台弁護団 

022-263-3191

*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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