「使える制度」がようやく実現? 第2次補正予算案の「支援策」を読み解く

(写真:アフロ)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は、今年度の第2次補正予算案を27日に閣議決定した。来月8日に国会に提出し、12日までの成立を目指すという。

 今回の予算案には、労働者や生活困窮者を支援する市民団体が求めてきた政策が幅広く反映されており、苦境にある人々の声を踏まえた施策がようやく実現しそうだ。

【参考】生存のためのコロナ対策ネットワーク「提言:生存する権利を保障するための31の緊急提案」

 今回は、第2次補正予算案に組み込まれた労働者への支援策について、ポイントを紹介していきたい。主要な施策は5つである。

1 雇用調整助成金の上限がようやく引き上げ

 雇用調整助成金の1日当たりの上限額を8,330円から15,000円まで引き上げる(月額の上限は33万円)。4月1日以降に開始された賃金締切期間に遡って適用される(9月まで)。この措置は、企業規模や雇用形態にかかわらず適用される。

 現在は、日額が8,330円を超える場合、上回る部分を企業が負担しなければならず、このことが制度が活用されない一因となっている。上限額の引き上げにより、制度の活用が促進されるはずだ。

 同時に、解雇等を行っていない中小企業の場合、助成率が10/10に引き上げられる(4月に遡及して適用される)。これによって、中小企業は自己負担なく休業手当を支払うことができる(現在は、特措法に基づく休業要請を受けている場合のみ助成率が10/10となる。)。

 さらに、現在は4月1日から6月30日までとされている緊急対応期間が9月末まで延長される。また、支給処理を担う人員体制の強化や、社会保険労務士との協力体制の構築等により、さらなる支給の迅速化が図られる。

 実は、最近、雇用調整助成金の申請と支給は急速に進みつつある。下表は厚生労働省が公表している支給申請と支給決定の件数であるが、申請は1日5千件、支給決定は1日3千件のペースで進んでいることがわかる。

雇用調整助成金の処理状況(速報値、 緊急雇用安定助成金を含む)
雇用調整助成金の処理状況(速報値、 緊急雇用安定助成金を含む)

 申請のペースが上がった背景には、5月19日に公表された手続きの簡素化があるものと思われる。特に、小規模事業主については、分かりやすい「支給申請マニュアル」が公表され、制度の活用が促進されている(2つ目のリンク先に掲載)。

【参考】「雇用調整助成金の手続を大幅に簡素化します」(厚生労働省ホームページ)

【参考】雇用調整助成金の様式ダウンロード(新型コロナウイルス感染症対策特例措置用)

 また、以前は、休業手当を実際に支払ってからでなければ支給申請を行うことができなかったが、現在は、賃金締切日以降、休業手当に係る書類などの必要書類が確定していれば、 その時点から支給申請をすることができる。つまり、緊急事態宣言を受けて4月に休業した場合、多くの企業では4月分の助成金の申請はすでにできる状況にある。

 第2次補正予算に基づく上記の措置により、申請と支給はさらに促進されると期待できる。休業期間について十分な補償がなく、生活に困っている方は、労働組合に相談するなどし、会社に対して、助成金の活用による高率の(できれば100%の)休業補償を求めていくとよい(末尾に無料労働相談窓口)。

2 「休業支援金」制度の創設

 休業期間中の賃金の支払いを受けることができなかった中小企業の労働者を対象に、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金(仮称)が創設される。労働者個人が直接申請でき、労働者に直接支給される制度だ。

 様々な事情から雇用調整助成金を活用しない雇用主が多いため、労働者個人が直接申請できる制度が作られることになった。労働政策審議会の資料によれば、休業前の賃金の8割(月額上限33万円)が休業実績に応じて支給される制度が想定されている。申請方法などの詳細はまだ発表されていないが、労働者が会社から休業証明を受け取り、ハローワークに直接申請する方式が予想される。

 4月1日から9月30日までの休業が対象になる見込みだ。つまり、4月から無給の休業状態になっている方は、さかのぼって支給を受けることができる。

 私たちのもとには、会社が雇用調整助成金を申請してくれないという労働相談が数多く寄せられており、労働者が直接申請できる制度が創設されたことは画期的だ。また、労働時間が週20時間未満で雇用保険に加入していないアルバイトなどの非正規労働者もこの制度の対象となる見込みであり、この点も重要である。

 一方で懸念される点もある。新設される「休業支援金」と雇用調整助成金の関係だ。

 容易に想像されるのは「休業支援金をもらってくれ」と言って休業手当の支払いを拒む雇用主が出てくることだ。雇用主にとっては、手続きに手間がかかり、いつ支給されるかわからない雇用調整助成金を利用するよりも、労働者に休業支援金を申請してもらった方が負担は少ない。

 しかも、労働基準法が定める休業手当の最低限は平均賃金の6割である一方、新制度は「休業前の賃金の8割」であるから、労働者にとっても新制度を利用した方が有利になるケースもあると考えられるため、混乱が広がっている(実際、NPO法人POSSEにはこの点に関する相談が労使双方から寄せられている)。

 この点について、加藤厚労相は、「新たな制度の有無に関わらず、使用者の責に帰すべき事由により労働者を休業させた場合には、労働基準法上、休業手当の支払義務が生じるわけでありますから、この新たな制度によって支給されたからといって、その義務がなくなるわけではない」と述べている(5月15日閣議後記者会見)。あくまでも、雇用調整助成金を活用することによって高率の休業手当を支払い、労働者の生活を支えることが雇用主には求められているのだ。

 しかし、実際には、休業支援金の創設により中小企業の雇用調整助成金の利用が抑制されてしまう可能性があり、そうした事態を防ぐための合理的な制度設計が求められる。

 さらに、すでに休業手当の支払いを受けている労働者は、たとえ6割しかもらえていない場合でも、休業支援金を申請することはできない。この点について、加藤厚労相は次のように述べている(5月26日閣議後記者会見)。

「「新型コロナウィルス感染症対応休業支援金」については、基本的には休業手当は受けておられない中小企業の労働者の方が対象になるということであります。今のご指摘のように、低い金額の休業手当しか得ていない方に関しては、むしろ雇調金を活用していただいて、もう一度増額を図っていただくよう、我々は働きかけをすることで、これは遡及適用できますから、過去一回払ったけども、もう一回それに上乗せして支給していただくという形で対応していただけるように周知も図り、働きかけをしていきたいと思います」。

 このように、雇用調整助成金の活用による休業手当の追加支払いを求めているが、それが「働きかけ」だけで促進されるのか甚だ疑問である。労働者個人が会社に対してこうした対応を求めても、うまくいかないことが多い。労使の対等な話し合いを可能にするために労働組合という制度があること、個人でも入れるユニオンがあることを周知すべきだろう。

【参考】政府の助成金を使って「コロナ解雇」を回避してほしい 声を上げ始めた労働者たち

3 失業者への施策は?

 すでに解雇や雇い止めにより仕事を失ってしまった方への施策も盛り込まれている。雇用保険の失業手当の拡充だ。

 失業手当は、離職して失業状態にある人に対して、次の仕事を見つけるまでの生活の安定を図り、求職活動を容易にするために支給される。離職時の年齢や雇用保険への加入期間、離職理由などに応じて給付日数(90~330日)が決まり、在職時の給与の5~8割が支給される。

 今回、雇用保険法の特例を法律で定めることにより、一定の要件を満たす失業手当の受給者について、給付日数を60日延長できることとする。雇用情勢が悪化するなかでは再就職が容易ではないため、給付日数の延長は重要な措置である。

 一時期検討されていた失業手当の上限額(8,330円)の引き上げは見送られた模様だ。

4 保護者への支援制度を拡充

 小学校休業等対応助成金の1日当たりの上限額が8,330円から15,000円に引き上げられる(4月に遡及して適用される。適用期間は9月まで延長される)。

 これは、新型コロナの影響により小学校等が臨時休校となった場合に、子どもの世話を行う保護者である労働者に有給の休暇を取得させた事業主への助成金だ。賃金を全額支払うことが要件となっており、それが上限額を上回る場合には事業主が差額分を負担しなければならなかったため、利用を控える企業も多い。

 上限額の引き上げによって、利用が促進されることが期待される。助成金の利用を求めても会社が応じてくれない場合は、支援団体に相談してほしい。

 なお、フリーランスの方を対象とする小学校休業等対応支援金については、1日当たりの上限額を4,100円から7,500円に引き上げる(4月に遡及して適用される。適用期間は9月まで延長される)。

【参考】新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金・支援金の上限額等の引上げ及び対象期間の延長について

5 妊婦への支援制度も新設

 新型コロナに関する母性健康管理措置として休業が必要な妊娠中の労働者のために、有給の休暇制度を設けて取得させる事業主を支援する新たな助成制度を創設する。

 厚労省は、5月7日、男女雇用機会均等法に基づく指針を改正し、妊娠中の女性労働者の母性健康管理措置として、新型コロナに関する措置を新たに規定した(対象期間は2020年5月7日~2021年1月31日)。だが、これが十分に機能していない。

 保健指導・健康診査を受けた結果、その作業等における新型コロナへの感染のおそれに関する心理的なストレスが母体又は胎児の健康保持に影響があるとして、主治医や助産師から指導を受け、それを事業主に申し出た場合、事業主は、この指導に基づいて必要な措置(在宅勤務・休業等)を講じなければならない。

【参考】新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置について(厚生労働省リーフレット)

 しかし、労働者を休業させる場合に有給とするか否かの判断は事業主に委ねられている。「在宅勤務を求めたが、認めてもらえなかった。出勤するか無給の休業かの二択だと言われた」という労働相談も寄せられている。無給では生活できないからと、感染リスクに不安を抱えながら出勤している妊婦も多い。

 このため、妊婦が安心して休める環境の整備として、妊娠中の労働者に有給の休暇制度を取得させた事業主への助成制度が創設されることになった。制度の詳細はまだ発表されていないが、有効に機能することが期待される。

【参考】令和2年度厚生労働省第二次補正予算案の概要(厚生労働省ホームページ)

 最後に、私もメンバーになっている「生存のためのコロナ対策ネットワーク」では下記の通りの無料電話相談ホットラインをおこなうことになっている。弁護士、NPO、労働組合の相談担当者が無料で労働相談を受ける。今回の予算で実現する諸制度の利用についても、ぜひご相談いただきたい。

「休業補償・解雇・倒産電話相談ホットライン」

日時:5月31日(日)10時~20時、6月1日(月)15時~21時

代表電話番号:0120-333-774(相談無料・通話無料・秘密厳守)

主催:生存のためのコロナ対策ネットワーク

参加団体:さっぽろ青年ユニオン/仙台けやきユニオン/みやぎ青年ユニオン/日本労働評議会/首都圏青年ユニオン/全国一般東京東部労働組合/東ゼン労組/総合サポートユニオン/首都圏学生ユニオン/ブラックバイトユニオン/NPO法人POSSE外国人労働サポートセンター/名古屋ふれあいユニオン/大阪全労協/連合福岡ユニオン/反貧困ネットワーク埼玉/外国人労働者弁護団など

常設の無料労働相談窓口

NPO法人POSSE 

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

総合サポートユニオン 

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

仙台けやきユニオン 

022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

ブラック企業被害対策弁護団 

03-3288-0112

*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

ブラック企業対策仙台弁護団 

022-263-3191

*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。