非正規が9割でも「見殺し」の現実 コナミスポーツは時給社員に休業手当を一切「不支給」

写真はイメージです。(写真:アフロ)

2ヶ月間、インストラクターに全く補償しないコナミスポーツ

 昨日11日、フィットネスクラブ・スポーツジム業界最大手であり、日本最大級の施設を展開するコナミスポーツ株式会社に対して、首都圏で勤務する同社のインストラクター数名が、個人加盟の労働組合・総合サポートユニオンに加盟し、休業補償の支払いを求めて団体交渉を申し入れた。

 同社のスポーツ施設では、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言により、4月8日から首都圏6都県、関西5府県および福岡県の施設が休館になったことを皮切りに、緊急事態宣言の対象地域の段階的拡大により、全国で休館となっている。この休館中のインストラクターたちの休業補償を一切支払っていないというのである。

 ツイッターでも「コナミスポーツ」「休業補償」と検索すると、匿名アカウントで、コナミスポーツの休業補償がないことについて窮状を訴える職員の声が多く見受けられる。

 約2ヶ月間もの間、収入がなくなることにより、生活できなくなるインストラクターも多い。一体、なぜ業界最大手が従業員を「貧困」に突き落とすような対応をしているのだろうか。

 コナミスポーツの事例から浮かび上がってくるのは、フィットネスクラブ業界が非正規雇用を重点的に活用してきたという実態、そして緊急事態宣言下における営業自粛中の「休業手当の支払い義務」が存在するのかという法的な論点である。

当事者が語るコナミスポーツの実態

 首都圏のコナミスポーツで5年間インストラクターとして勤務してきたAさんは、緊急事態宣言による施設の休館で仕事がなくなり、休業手当もないために一気に生活困窮に陥ってしまった一人だ。平均で約25万円の月給が全く入らなくなってしまった。週5日間、1日平均8時間勤務していたAさんは、時給制で1年契約のアルバイトだったのである。

 Aさんは現在、やむなく有給休暇を使用したものの使い切ってしまい、公的な家賃支援制度である住宅確保給付金を申請している。

 Aさんの働く施設では、正社員は支店長やマネージャーなど2~3名だけで、それ以外は契約社員5名、アルバイト約50名、フリーランス約10名の合計65名ほどが勤務している。非正規雇用・フリーランスの割合は、96%にも達する。

 同じくコナミスポーツの別の店舗で、5年以上インストラクターとして勤務し、2ヶ月間休業手当が払われないことになったBさんも、週5日間、1日7時間勤務する3ヶ月更新のアルバイトだった。給与は月平均20万円程度。

 Bさんの職場でも、正社員は支店長やマネージャーを合わせて10名弱で、契約社員・アルバイト約60名、フリーランス約30名と、9割が非正規雇用とフリーランスだという。

 さらに、Bさんと同じ職場のCさんは、1日8時間・週4日で勤務しており給与は約20万円。

 「実際、現場を回しているのは私達バイトです。私達がいなければお店を開けることすらできません。それを分かっているのになぜこのような判断、対応をするのか理解に苦しみます」とうったえている。

 Cさんはシングルマザーとして子供を3人育てている。今回、有給休暇もやむなく申請したが2週間で使い切り、万が一に備えてあった1ヶ月ほどの生活費もほぼ使い果たした。子供の学費のための貯金を切り崩しているという。

 組合員たちによると、月給制の契約社員には休業手当が支払われており(2020年5月12日12時56分修正)、アルバイトには一切支払われていない。コナミスポーツによると、このようなアルバイトへの休業手当の不払いは、「全社的な対応」だという。

職員の9割が非正規? フィットネス業界の実態

 経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」によれば、2016年のフィットネスクラブの従業員数は4万810人、うち非正規雇用は3万3356人、「インストラクター」や「トレーナー」らを含む「指導員」数の職種は3万4026人となっている。

 非正規雇用のほとんどが指導員だとして単純計算をすると、実に指導員の98%が非正規雇用であると計算できてしまう。そうでなくても、全職員の8割が非正規である。

 フィットネスクラブ業界は近年急成長しているが、利益を稼ぎ出す中心的な存在であるインストラクターのほとんどを非正規雇用として活用し、賃金を抑え、いつでも雇い止めできる不安定な雇用に据え置くことで、売り上げを大きくすることができていたのである。

 そして、そこで生計を立てている非正規雇用のインストラクターたちも多い。2ヶ月間の休業補償ゼロは、これまで会社に利益をもたらしてきた彼らを「見殺し」にすること以外の何ものでもない。

 では、彼らに対して、どのような理由でコナミスポーツは休業手当を拒否しているのだろうか? このような労働者に厳しい措置が、企業として許されるのだろうか?

コナミスポーツ本社の方針は「休業手当の支払い義務はない」

 労働者が会社の都合で休業した場合には、労働基準法26条により、会社には休業手当の支払い義務が課せられる。

 ところが、Bさんが上司に、なぜコナミスポーツは休業手当が払われないのかを尋ねると、返ってきたのは次の答えだった。

「本社にも確認しましたが、要請により社会の情勢に従って休館したため、現状では休業補償は支払うことができないとのことでした」

 Aさんが上司に尋ねると、行政による「施設の使用停止」の要請に従っての休館だから、会社に責任はなく、休業手当を払わなくて良いというのが本社の方針だという答えが返ってきた。

 実はコナミスポーツの対応は厚労省の見解を踏まえると、理屈が全くないわけではない。

 今回の緊急事態宣言は、インフルエンザ対策特措法にもとづくものだ。ここに定められた休業の要請のための措置には、2つの「要請」がある。(1)「協力の要請」、(2)施設の使用の停止等の「要請」がそれだ。紛らわしいが、それぞれ効果が異なる。

 (1)は、インフルエンザ対策特措法24条9項にもとづくものであり、本来は緊急事態宣言を出さなくても可能な措置だ。東京都はこの「協力の要請」によって、「施設の使用停止もしくは催物の開催の停止を要請」している。(「新型コロナウイルス感染拡大防止のための 東京都における緊急事態措置等」より)

 この東京都の「施設の使用停止」の対象には「運動、遊技施設」として、「スポーツクラブ」がはっきりと含まれており、コナミスポーツの対応はこれを根拠としている。

 一方(2)は、特措法45条2項にもとづき、「当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請」するものだ。

 (1)の「協力の要請」にも施設の使用の制限や停止を含むことはできたが、「要請」はより踏み込んだ位置づけになる。大阪府や東京都などでは、一部のパチンコ店に対してこの「要請」を行っているが、この特措法45条2項の「要請」は、全国的にまだほとんど取られていない。スポーツジムはどこの自治体も現時点では対象となっていないようだ。

 なお、(2)の場合は、対象となる施設名、所在地、要請・指示の内容、その理由が公表されることとなっている。大阪府で全国に先駆けてパチンコ店の店名が公表されて話題になったのは、この規定によるものだ。

 (なお、休業手当この論点に関しての詳細は、嶋崎量弁護士による記事に詳しいので、参照してほしい)。

厚労省見解によれば、休業手当の支払い義務はない?

 では、こうした「要請」に対する、休業手当の義務についての厚生労働省の解説をみてみよう。厚労省は「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)5月7日時点版」において、「不可抗力による休業」である場合は休業手当を払わなくても良いとしている。

 厚労省はその「不可抗力」と判断される条件として、

(A)「その原因が事業の外部より発生した事故であること」

(B)「事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること」

 このいずれをも満たさなければならないと説明している。

 厚労省はより踏み込んで、(A)の例として「今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく対応が取られる中で、営業を自粛するよう協力依頼や要請などを受けた場合」と述べている。

 これでは、(2)の「要請」どころか、(1)の「協力の要請」の段階であっても、休業手当が払われなくて良い条件の一つを満たすものと解釈できてしまう。もっと言えば、「対応が取られる中で」という曖昧な表記のため、特措法にもとづかない、法的な根拠のない自粛の要請すらも、条件を満たすかのように読めてしまう。

 続いて、(B)の例としては、「自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか」「労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか」など、休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていることが求められている。

 フィットネスクラブのインストラクターについては、自宅での研修や、デスクワークの業務をどれだけ検討したかどうかは一つのポイントになると言えそうだ。しかし、会社からすれば、「自宅勤務」や「他の業務」を社内で検討した結果、難しいという結論に至ったという回答は難しいものではない。

 ただし、厚労省の解釈が、法律の正しい解釈とは限らない。例えば、「公表」を伴う(2)の「要請」にすら達していない(1)の「協力の要請」の段階について、嶋崎弁護士は、あくまで会社が自主的に事業停止や縮小を決定し、労働者を休業させているにすぎないとして、会社都合の休業として休業手当の支払い義務があると論じている(なお、嶋崎弁護士は、(2)の段階においても、一律ではなく個別に判断すべきと強調している)。

 いずれにしても、厚労省の解釈が「営業自粛で店を閉めた場合は、休業手当の支払い義務はないと国が言っていた」と会社が安易に主張できる内容になっているのは確かだ。コナミスポーツの労働者に対する「厳しい対応」も、厚労省の見解に応じただけと言うこともできるかもしれないのである。

国や企業を頼らず、労働組合で声を上げるしかない

 それでは、コナミスポーツのように、厚労省の見解を盾に従業員を「見殺し」にする会社から休業手当を払わせるには、法的な解釈を突き詰めるために、裁判を起こすしかないのだろうか。

 法的な義務を争うことも重要だが、当面の休業手当を補償するには、厚労省が拡充している雇用要請助成金の特例措置をコナミスポーツに使わせることができる。政府は、会社が労働者を休業させた場合、幅広くその費用を助成している。今回のケースも助成対象に該当している(ただし、企業の規模等によって助成の割合は異なる。詳しくは下記の記事参照)。

 休業:休業手当は給与の「半額以下」 額を引き上げるための「実践的」な知識とは?

 コナミスポーツには、確かに「休業手当の支払い義務」はないのかもしれない(もちろんそれも裁判をしてみなければわからないが)。とはいえ、政府は「義務がない」場合にまで助成金をあえて拡大している。

 これを使えば、労使双方の問題は解決するはずなのだが、政策を立案している厚労省がコナミスポーツに助成金の利用を強制することは不可能なのだ。

 ここで重要なのが、労働組合である。前述のように、コナミスポーツに対しては、従業員からツイッター上で匿名の抗議の声が相次いでいる。しかし、ツイッター上の声だけでは、会社と交渉することはできない。労働組合に加盟し、会社に自らの名前を通告して交渉を申し入れることで、会社は交渉に応じる義務が生じる。

 Cさんは、「助成金を払わない選択をしたコナミスポーツには、従業員をひとつの命と見ていないと感じました」とうったえている。

 ぜひ、コナミスポーツやフィットネスクラブで苦しんでいるインストラクターら労働者の方たちは、労働組合で声をあげてみてほしい。今回団体交渉を申し入れている総合サポートユニオンでは、下記のホットラインを予定しているので、こちらも参考にしてほしい。

フィットネス・スポーツジム労働相談ホットライン

日時:2020年5月16日(土)13~17時、5月17日(日)13~17時

主催:総合サポートユニオン

電話番号:0120―333―774

※相談料・通話料無料、秘密厳守

常設の無料労働相談窓口

NPO法人POSSE 

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

総合サポートユニオン 

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

仙台けやきユニオン 

022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

ブラック企業被害対策弁護団 

03-3288-0112

*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

ブラック企業対策仙台弁護団 

022-263-3191

*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。