コロナで税金を「着服」する保育園が続出 もはや「休園ビジネス」? 

(写真:アフロ)

認可保育園から寄せられる2つの相談

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため緊急事態宣言が延長されたが、それと前後して、各自治体が保育園の一斉休園や登園自粛を続けて要請している。個人で入れる労働組合「介護・保育ユニオン」には、その現場の保育園、特に認可保育園の職員から、現在大きく分けて2つの労働相談が寄せられているという。

 一つは、「感染リスクが高いはずなのに、自分たちが園を休めていない」という声である。ある東京都内の認可保育園では、自治体の要請による休園で、園児が一人も登園していないにもかかわらず、なんと職員全員が保育園に出勤させられ続けていたという。

 もう一つの多い相談は、感染リスクを避けて休業できたことによって、「生活が苦しくなってしまう」という保育園職員たちからの声である。

 実は、この2つの問題の背後には、いわば「休園ビジネス」ともいえる、さらなる問題がある。あらかじめ結論を言ってしまえば、保育園は「休園」しても、補助金収入は減らない。それなのに、労働者の賃金はカットしているのである。

 これは、ジャーナリストの小林美希氏がかねてから鋭く指摘してきた問題だ。この記事では、具体的な相談事例や解決事例の観点から、この制度的課題を焦点化してみたい。

 参考:コロナで保育士の「給与4割カット」は大問題だ 混乱の中、間違った運用が横行している(小林美希)

「休業手当が払われず、保育園を休めない」

 まずは、職員が保育園を休めないという問題の方から見ていこう。

 そもそも、休めない前提として、現在も登園児が減っておらず、感染リスクが高い中での出勤をせざるを得ないというケースが多い。このような状況に陥るのには、保護者が会社を容易に休めないことが背景にある。保育園の休園及び自粛要請があった時には、「小学校休業等対応助成金」(厚労省HP)に基づいて、会社に特別休暇を求めることができるはずだが、労働相談の現場では、「会社が助成金を申請してくれず休めない」といった相談が実はかなり多く寄せられている。

 参考:サイゼリヤでコロナ助成金の「不使用」が問題に 独自の”特別休暇“に不満や疑問の声

 一方で、保育園側の問題により、職員が休めないという深刻な問題もある。保育園が休園したり、登園児が大幅に減少したにもかかわらず、「休業」とはせずに、職員を出勤させているケースだ。保育園を休む場合は職員の自己都合とされ、有給休暇を使わせられるか、欠勤扱いにされてしまうというものである。

 社会福祉法人が運営するある認可保育園のケースでは、休園したものの、保育士には休業を命じておらず、在宅勤務を認めていないという。園としては「出勤してもいいですよ」というスタンスで、職員に丸投げ状態になってしまっているという。相談者のパート女性は、出勤しても仕事はないので、仕方なく有給を使って休んでいる。

 また、社会福祉法人が運営する認可保育園で働く看護師は、「9割ほど登園児が減少したが、職員が全員出勤させられている。感染リスクを下げるため、在宅勤務などの措置を求めたが認めらなかった」、「休みたければ有給を使えと言われた」と相談を寄せた。

 このようなケースが、保育園からの相談として最も多い。労働基準法で義務づけられた休業手当を支払いたくないために、無理に「出勤」を命じ、有給休暇の消化を促していることが原因ではないかと思われる。

 だが、不必要に職員を出勤させるのは、感染リスクを高めるだけであり、労働契約法に定められた安全配慮義務に反する。

「休業手当が払われるが、足りない」

 一方で、休園し、休業手当が払われることになった園では、今度は「休業手当が低すぎる」という問題が起きている。休業手当を、労働基準法の最低限義務付けられた6割しか払わない園が多いのである。一例を紹介しよう。

 社会福祉法人が運営するある認可保育園で働く派遣保育士は、園が縮小となり、交代で職員が休むことになり、派遣会社から、休業の日は6割補償されることになった。しかし、「6割では生活的に厳しい」と相談を寄せている。

 このような認可保育園が全国で相次いでいる。ただでさえ、月10万円台後半から20万円代前半程度の低賃金の保育園の職員からすれば、6割だけの補償では生活していくのが困難になるのは目に見えている。

 では、休業補償が全額払えないほど、認可保育園は経営に行き詰まっているのだろうか。実は、そんなことはない。通常の賃金分の「お金」は、認可保育園にちゃんとあるのである。

認可保育園の「売り上げ」は減らない!「着服」される賃金分の税金

 そもそも、私立の認可保育園には、市区町村から運営費として委託費が毎月支給されている。そこには賃金分が含まれている。これは休園でも登園自粛でも変わらない。そのため、委託費から普段の賃金を支払うのと同じように、賃金全額の休業補償を支払えるはずである。

 他の業界なら、売り上げが減少したことにより、雇用調整助成金を申請するなどして休業補償分を捻出することになる。しかし、休園しても、利用者が減っても、認可保育園は飲食店のように、賃金に当てる「売り上げ」が減るわけではない。全額を払わないのであれば、いわば賃金分の税金の「着服」と批判されても仕方ないだろう。

 実際、厚労省から各自治体に対して、委託費に関して、「新型コロナウイルス感染症の影響で臨時休園等を行っている場合においても、通常どおり給付を行い、施設の収入を保証することとしています。賃金の支出についても、これを踏まえて適切にご対応いただくべきと考えております」と通知されている(内閣府HPより「新型コロナウイルス感染症により保育所等が臨時休園等した場合の「利用者負担額」及び「子育てのための施設等利用給付」等の取り扱いについてF A Q」)。

 さらに踏み込んでいるのが、東京都世田谷区だ。5月1日付の「縮小保育や休園に伴う運営費等の取り扱いについて」という通知で、「保育士等の給与は運営費等で賄われることを前提に給与の支払いを行っていただくと共に、休業や年次有給休暇の取得を促すこと等が無いよう、適切な対応をお願いいたします。」と各園に伝えている

(この「休業」という言葉は、文脈から推察するに、「全額補償をしない休業」という意味で使われていると思われる)。

 それにもかかわらず、休む場合は有給休暇を使うように指示されたり、無給とされたりする認可保育園の労働相談が後を絶たない。このような対応は、保育園の制度上は許されるものなのだろうか。

「休園ビジネス」? 賃金に使われなかった委託費はいったいどこへ?「委託費の弾力運用」の問題が露呈

 実は、委託費が保育士の給料に使われていない実態は今回のコロナ休業に始まったことではない。委託費の弾力運用が認められていることがその大きな原因である。 

 『ルポ 保育格差』などの著者である小林美希氏の指摘によれば、国の想定では、委託費のうち8割が人件費とされている。ところが、実際にはその割合通りに賃金に充てられていない実態がある。株式会社運営の保育園は、委託費のうちの賃金比率が傾向として低く、現場の保育者の賃金がわずか2〜3割というケースまである。 

 参考:コロナで保育士の「給与4割カット」は大問題だ 混乱の中、間違った運用が横行している

 2000年以降、規制緩和が進み、保育園の委託費の使い道について制限が緩和されてきた。2015年の規制緩和により、株の配当にまで使えるようになった。本来保育士に払われるべきお金を、事業拡大に使ったり、あるいは直接的に株の配当に回しても違法ではないのである。保育士の賃金が低い大きな原因はここにある。 

 今回のコロナ禍における保育園の休業で、職員に全く賃金を払わない園があるのも「委託費の弾力運用」ができるからである。会社都合ではなく、職員を自発的に休まさせ有給や欠勤扱いにする保育園は、コロナ禍に乗じて、公費である委託費を丸々懐に入れてしまう、もはや「休園ビジネス」と化しているのである。

「委託費を適切に賃金に使え!」大手株式会社運営の保育園に労働組合で要求して全額補償へ

 違法ではないとすれば、委託費を適切に賃金に使わせるための方法はないのだろうか。有給休暇や欠勤ではなく、職員を会社都合で休ませ、かつ賃金の全額を補償させることはできないのだろうか。

 このようなケースにこそ、労働組合での団体交渉が武器として生きてくる。コロナウイルス感染拡大による休園・登園自粛に際して、当初の会社の見解を覆し、職員に対する賃金の全額補償を実現した保育園の事例を見ていこう。

 まずは、保育業界大手である日本保育サービスの事例である。日本保育サービスの運営する保育園で働く調理員が、介護・保育ユニオンに加入して団体交渉をしている。3月下旬の時点でユニオンは、コロナウイルスに関連する事情によって就業不可になった場合、賃金全額を補償するように要求した。

 3月末、会社からは「休業手当6割を補償する方向で考えているが、全額補償も検討している」という回答が同組合にきた。そして、4月上旬には「自宅待機」扱いとして満額支給するという回答を得た。労働組合での要求を通じて、休業時の全額補償という回答を、4月上旬という早い段階で得ることができたのだ。

 次に、学習塾業界大手の京進グループが運営する保育園の事例である。この保育園では、登園自粛に伴い登園児が減ってきていたが、休業の明確な指示はなく、「職員の人手が足りている時は、早めに帰っていい。その分は有給休暇を使うか、残業代から引いておく」と言われていた。

 これを受けて、介護・保育ユニオンを通じて、職員たちが賃金全額を補償するよう会社に要求したところ、「在宅勤務扱いとして給料を支払う」という回答を得て、賃金全額が補償されることとなった。

 労働組合での団体交渉は、使用者は拒否することができず、誠実に応じることが義務づけられている。また、労働組合は法律以上の水準で争うことができる。休業手当の話で言えば、6割の補償がされていれば違法とはならないが、労働組合では、全額補償を追求していくことができる。 

 また、委託費全体のあるべき使い方については、行政による規制が強く求められるが、委託費の8割を賃金に使わなくても違法ではない現段階では、労働組合での行動を通じて、適正に委託費を賃金に使うよう求めていくことが必要だ。 

 さらには、休業補償の問題だけでなく、保育士の賃上げや保育現場の人手不足の改善も労働組合で交渉していける(ただし、配置基準の問題を変えなければいけないという国の制度上の課題も大きい。国の保育園に対する支出を増やすための社会運動が必要だ)。

 なお、事業所に労組がない場合でも、外部の労組に入ることでまったく同じ権利が行使できる。「休園ビジネス」が行われている保育園の保育士の方は、ぜひ、労働組合に相談してみてほしい。

保育士・保育現場で働く労働者向け労働相談ホットライン

日時:2020年5月9日(土)13〜17時、5月10日(日)13〜17時

主催:介護・保育ユニオン

電話番号:0120―333―774

※相談料・通話料無料、秘密厳守

常設の無料相談窓口

介護・保育ユニオン

TEL:03-6804-7650

メール:contact@kaigohoiku-u.com

*関東、仙台圏の保育士たちが作っている労働組合です。

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