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連休明け、困窮者が「殺到」のおそれ 日本の福祉は「感染拡大」の温床になる?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真は「殺到」のイメージです。(写真:アフロ)

 「STAY HOME週間」と名付けられた大型連休がもうすぐ終わろうとしている。

 いつものゴールデンウィークであれば、行楽地が賑わっただろうが、今年に限っては閑散としている。残念な思いをした人もいるかもしれない。

 今年は誰にとっても厳しい連休となってしまったが、生活に困窮する人たちにとっては、さらに厳しい状況が待っていた。それというのも、連休の期間中は、福祉の機能を担う行政の窓口が、何日間にもわたって閉鎖されているからだ。

 大型連休ではいつもそうだったが、今年はコロナ危機により生活に困っている人が急増している最中であったからこそ、より一層厳しさが増した。

 NPO法人POSSEを含め、労働組合や市民団体でつくる「生存のためのコロナ対策ネットワーク」では、2日・3日に「大型連休中の新型コロナ労働・生活総合相談ホットライン」を開催した。そこでは、大型連休中に所持金が尽きて急迫状態にある人からの相談が相次いだ。

 参考:なぜ「20代女性」の貧困相談が増えているのか? かつてなくコロナ問題が深刻なわけ

急迫状態にある人たちからの相談の数々

 特に、所持金がほんのわずかしかなく、住まいも食料もないという相談に対し、私たちは緊急に対応を迫られた。

 例えば、東京の30代女性は、コロナの影響で日雇いの清掃の仕事がなくなり、ネットカフェに宿泊できなくなってしまった。連休前にTOKYOチャレンジネット(都内の住居喪失者への支援事業。一時宿泊場所を提供し、住居初期費用と生活資金を貸付)の窓口に行ったが、対象ではないと言われ、何の保障もされないまま連休に入ってしまったという。そして仕方なく、2、3日前からコンビニのイートインスペースを転々としながら夜を明かしている。所持金は1000円を切ってしまっている。

 また、静岡の20代男性は、4月半ばにコロナの影響でコールセンターの派遣の仕事を切られ、寮からも追い出された。住み込みの仕事を探しても見つからず、路上生活をしている。連休前に生活保護の窓口に行ったが、「若いから働きなさい」「10万円が支給されるから我慢してください」と言われて追い返された。「10万円もらう前に死んでしまう」と言ったら「どうしようもない」と返された。

 2つの事例はともに、コロナの影響で生活困窮に陥り、公的な福祉制度を利用しようとするも排除され、連休中に差し迫った状況にまできてしまっている。

 特に、生活保護の申請をさせずに追い返す行為は「水際作戦」と呼ばれ、上記のようなやりとりも、事実であれば「違法行為」の疑いがある。

 実際に、福岡地裁では、2011年に、60代男性が失業したため生活保護窓口を訪問したところ、その当日、翌日と就労を指導され、申請書を提出できず、数日後に自殺したという事件で国の違法性を認める判決を下している。

福岡地裁小倉支部平成23年3月29日判決

ネットカフェから「集団部屋」へ 感染蔓延のリスク

 相談の現場では、緊急事態宣言に伴うネットカフェへの休業要請の影響で宿泊場所を失う人たちの受け皿が、大型連休明けになくなってしまうという問題もあらわになっていた。

 神奈川の40代男性は、4月末に派遣を雇止めされて寮を追い出され、ネットカフェに宿泊していた。しかし、そこも休業となったため、県が用意した緊急宿泊場所である武道館に移動した。

 しかし、それも連休が明けると終了となり、役所からは自立支援センターに入所してほしいと言われている。だが、男性は、自立支援センターは1部屋に2段ベッドをいくつか置いた部屋で、コロナ感染の恐れがあり、入りたくないと訴えている。

 緊急宿泊場所の武道館には簡易ベッドに加えて仕切りが設けられ、感染対策を一応とっていたようだが、その後、結局は集団部屋に入れてしまっては、そうした対策も無意味になってしまうのではないだろうか。

 参考:仙台でネットカフェ閉鎖による「ホームレス」が急増 支援団体がホットライン開催

5月7日には生活保護窓口がパンクし、感染リスクを拡大する恐れ

 このように、急迫状態や「集団部屋」に押し込まれることを嫌がっている人も多数いることから、連休明けの5月7日には生活保護窓口に申請希望者が相当数訪れるだろう。そこで、さらに問題が発生することが予測される。

 まず、窓口に多くの人たちが訪れることで、それ自体が感染リスクを高める。それは、申請希望者だけでなく、窓口の職員にもいえることである。

 また、生活保護は申請書一枚さえ提出すれば申請が可能であるが、往々にして窓口では申請者を限定するために、申請の手前に「相談」という法的な位置づけもない段階を踏ませようとする(法的には、「申請 → 審査 → 受給の開始または不支給の決定」という段階があるだけである。上述したように、やり方によっては違法行為になる)。

 その「相談」という段階において、「あなたは働ける」「実家に頼りなさい」「住所がないと受けられない」などの説明を行い、申請をさせないよう仕向ける場合がある。これが前述の「水際作戦」の手法である。これが今回はさらなる危険を引き起こす可能性が高いのだ。

 追い返さないにしても、密室で数時間にわたって「相談」を行うため、今回のコロナ危機では、感染リスクが高まる。そして、一人ひとりに長時間を使うことで、「時間切れ」で対応してもらえない人も出てくる可能性が非常に高い。保護を受けることができず、感染リスクの中で街を徘徊せざるを得なかったり、餓死したり、自殺に至ってしまう人がでることが非常に危惧されるのだ。

 以上の問題を踏まえると、申請手続きの簡素化が求められよう。実は、すでに申請自体は郵送でも可能である。この方法を最大限利用しつつ、オンライン申請も可能にすべきだろう。

福祉行政のあり方の転換を!

 今回のコロナ危機は、改めて日本の福祉行政に問題を突きつける事態となっている。今のままではコロナ危機に福祉行政が対応できず、問題を拡大してしまう可能性が高いからだ。

 すでに見た申請時のみならず、生活保護の開始決定の遅れもこれまでずっと問題視されていた。もともと、生活保護は申請から原則14日以内に決定することが求められ、例外的に30日まで延長が許されている。

 所持金が尽きて急迫状態にある人にとっては、14日も待てるはずもない。実際には、生活保護の制度上、急迫状態にある人に対して、実質的に収入や資産の調査を先送りにして保護を開始することが可能である。

 しかし、平時においてほとんどの自治体ではそのような運用を行っていない。それどころか、例外の30日を「常態化」させている自治体も珍しくなかった。

 というのも、「不正受給」を防ぐ目的のため審査すべき項目が多く、実際に時間がかかるからだ。例えば、隠れ資産などがないか金融機関に照会をかけたり、親族に対して援助が可能かどうかの手紙を送ったりして、返答があるまでタイムラグが生じる。

 これまでは「不正受給防止」がメインだったがために、上記のような問題が起きてきたわけだ。

 しかし、増加するであろう生活保護申請者に対し、「不正受給防止」を前提に対応していては、「救える命が救えない」、「感染をさらに拡大させる」という本末転倒な結果になりかねない。

 今回のコロナ危機を契機に、生活保護制度の根底にある考え方そのものを変えていかなければならない。このコロナ危機の最中に同じ事をしていては、取り返しのきかない結果を招きかねないことは明白だ。

 漏れなく、迅速に支給することで「生存権を保障」することに行政の第一目標をおくように、考え方を転換するしかないのである。

終わりに

 5月7日には、私たちPOSSEも含め、多くの支援者が生活保護申請に同行し、確実に申請ができるようサポートする。それとともに、現場から上記のような制度の抜本的転換を求めていきたいと思う。

 まだ支援者につながっておらず、役所の窓口で不当な対応をされた場合には、下記の相談窓口にぜひご相談いただきたい。東京や仙台近郊であれば直接サポートし、地方であっても支援団体を紹介することができる。

 また、こうした相談や申請同行を通じて生存権を守る取り組みに関わりたいというボランティアも募集中だ。経験を積んだ社会福祉士が研修を行い、最初は知識や経験がなくても訓練を受けることができる。

無料生活相談窓口

NPO法人POSSE

電話:03-6693-6313

メール:seikatsusoudan@npoposse.jp

受付日時:水曜18時〜21時、土日13時〜17時、メールはいつでも可

*社会福祉士や行政書士の有資格者を中心に、研修を受けたスタッフが福祉制度の利用をサポートします。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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