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コロナ禍で「使い捨て」の外国人 雇用保険も副業も、生活保護もダメ

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです。(写真:アフロ)

 新型コロナウイルスによって、働く人の多くが影響を受けている。最近では、都内の大手タクシー会社が約600人を一斉解雇したことが話題を呼んだ

 すでに、筆者が代表を務めるNPO法人POSSEやその連携団体にも、日本全国からコロナウイルスに関連した相談が1,000件近く寄せられている。

 参考:タクシー会社の大量解雇は「美談」ではない 労働者たちが怒っているわけとは?

 しかし、コロナウイルスに関する報道の中で見過ごされているのは、日本で働く外国人労働者の置かれた実態だ。現在、160万人以上の外国人が日本で働いているが、彼らの働く職場の実態や生活状況については、あまり語られていない。

 そこで、この記事では、NPO法人POSSE外国人労働サポートセンターに今年3月以降に寄せられた相談事例を紹介しながら、外国人労働者が国や企業による支援や補償を全く受けられずに、いかに劣悪な状況に置かれているかを報告したい。

 参考:コロナ問題で「外国人」に何が起こるのか? 借金を抱えて大量帰国のリスク

正社員はわずか10パーセント

 NPO法人POSSE外国人労働サポートセンターに寄せられたコロナウイルスに関連する労働相談は、今年3月から4月12日までで、147件に上る。そのうち、112件(約76%)は英語で相談が寄せられている。

 外国人労働者の相談でまず特筆すべきことは、相談者のほとんどが非正規またはフリーランス(個人事業主)として働いている点だ。正社員は全体のわずか10パーセント程度であり、9割の外国人が1年契約やそれ未満の有期雇用で働いていることがわかる。

雇用形態別に見た相談件数(※不明は除く)

正社員 8 

パート/アルバイト 21

派遣 15

契約 12

個人事業主 20

 実は、コロナ危機が起きる前から、外国人労働者の多くは非正規やフリーランスとして働き、不安定な状況に置かれていた。企業の多くは正社員枠を日本人か、もしくはごく一部の外国人に限定しており、そもそも非正規で働く外国人が多かった。

 その上、語学学校業界では、会社側が自身の負担を減らすために、雇用保険や社会保険に加入できない個人事業主として講師を働かせるという事態が蔓延している。さらには、コンビニや飲食店で働く留学生はアルバイトとして、他の産業でも、派遣や契約社員として、いつ雇い止めに遭ってもおかしくない不安定な労働条件で働かせられてきた。

 その結果、コロナウイルスによる危機的な状況の影響を、非正規である外国人がまっさきに受けることになってしまっている。

教育から飲食・観光・宿泊へ

 次に、相談が多く寄せられる業種を見ていきたい。

業種別に見た相談件数 (※不明は除く)

教育 57

飲食 17

観光 12

宿泊 9

小売 7

製造 6

通訳・翻訳 3

その他 9

 相談の大半は、教育産業で働く外国人からのもので、主には語学学校や中学・高校の語学講師から寄せられている。(ただし、これは、特に英語講師が私たちの窓口にアプローチしやすいことが相談の多さに現れていると考えられる。なお、POSSEでは主に英語と「やさしい日本語」により外国人の労働相談を受けている)。

 次に、飲食店で働く外国人の相談も多い。ここには、日本語学校や大学などの留学生、そしてワーキングホリデーで来日中の若者が、居酒屋やレストランなどでアルバイトとして働いているケースが目立つ。予約客が大幅に減ったこと、そして営業時間が短縮になったことで、シフトが減らされたという相談が多い。

 そして、「観光」には、インバウンド観光客向けの旅行プランを計画したり、実際にツアーガイドとして案内する仕事に従事する外国人が含まれる。例年であれば稼ぎ時の桜シーズンだったが、来日する観光客が激減したことで、解雇や退職勧奨を受けている外国人もいる。

 「宿泊」で顕著なのは、ホテルのフロントやベッドメイキングに従事する労働者たちである。この業界も、観光客の激減によりホテルそのものが一時閉館に追い込まれたケースもあるほど大きな影響を受けている。

 そして、コンビニやスーパーなどの「小売」や、機械製造工場などの「製造業」、さらには翻訳・通訳などの仕事など、幅広い業界で働く外国人が影響を受けていることが相談事例からわかる。

休業や解雇によって生活が一変する

 では、具体的に外国人労働者がなにに困っているのかを見ていきたい。

相談内容別に見た相談件数 (※複数回答可)

休業により無給 76

生活苦 45

制度に関する問い合わせ 40

出勤したくない 17

解雇/雇い止め 16

在留資格に関する問い合わせ 10

退職勧奨 8

 最も多い相談は、「休業によって給料がなくなり、生活に困窮する」というものだ。業種として相談が最も多い語学講師から寄せられる相談のほとんどは、国や地方自治体による外出自粛要請により、生徒がレッスンを受けにこなくなったことでシフトがキャンセルになった、というものだ。

アメリカ人、30歳代、男性

都内の大手英会話学校で講師をしている。普段はレッスンが週10コマほどあり、月収25万円から30万円ほどになるが、3月に入り、ほとんどの生徒がレッスンをキャンセルしたため働く日が激減した。3月は月収4万円ほどまで落ち込み、4月は現時点で1日も働いていない。会社は「コマ給なので、レッスンがなければ給料は出ない」と言うだけ。このままでは、4月分の家賃が支払えるかどうかわからない。

 上記男性のように「家賃が支払えない」と自身の困窮状態を訴える相談が日に日に増えている。このように、休業を余儀なくさせられ、かつ休業手当が一切支払われていないケースは、語学学校に限らず、飲食店や観光業、宿泊業などでも多く見られる。

 そして、すでに解雇や雇い止めされた、また退職勧奨を受けているなど、離職についての相談も多数寄せられている。客足が遠のいた瞬間に外国人を切り捨てる行為が蔓延しており、いかに外国人が「雇用の調整弁」として利用されているかがわかる。

中国人、30歳代、男性

インバウンド観光客向けの旅行代理店で働いているが、団体旅行が次々とキャンセルになり仕事がなくなったため、会社がこれから3ヶ月間の休業に入る。しかし、先日、上司に呼び出され、退職金として給料を2ヶ月分支給するので辞めてくれないか、と言われた。すでに解雇された社員もいる。

 また、「制度に関する問い合わせ」も多い。そのほとんどは、政府の発表した現金給付を自分が受け取ることができるのか、という問い合わせだ。

 しかし、後述するが、そもそも政府は外国人も現金給付支援の対象となるかの判断を未だにしていない。このような相談が寄せられるということは、日本で暮らす外国人に必要な情報が理解可能な言語で届いていないことを表している。

 最後に、「出勤したくない」という声も多く寄せられている。職場がいわゆる「3密」状態あることや電車通勤を避けたいという不安から、在宅勤務を希望するものの会社が認めないというケースだ。

翻訳、30歳代、女性

日英の翻訳者として働いている。オフィスは狭く密閉されており、また電車以外の通勤方法がないので在宅勤務を希望している。翻訳作業は技術的には在宅でも問題ないはずだが、会社側は「職場に来い」の一点張り。持病があるので自宅にいたいが、休んで給料が出ないと生活ができなくなるため、本当に「命か生活か」を選ばないといけない。

 なお、ここで紹介したケースはあくまで氷山の一角に過ぎない。4月に入っても一ヶ月あたり100件のペースで相談が寄せられており、今後は、これまでの産業に加えてさらに製造業がストップすることで、ますます生活に困窮する外国人が増えていると考えられる。

副業することも、退職することもできない外国人

 もちろん、派遣や非正規として働く日本人も、休業や解雇の影響を受けていることは間違いない。しかしそういった状況に置かれた際に、権利主張することを妨げる外国人特有のハードルが存在しているため、外国人は日本人以上に生活を改善したり、声を上げたりすることが難しくなっている。

 その一つは、就労ビザで来日している外国人は、基本的に副業が認められないという点だ。というのも、例えば英語講師として働く外国人は、英語講師として働くことでビザがおりているため、「仕事がないので1ヶ月間コンビニでアルバイトをする」ことは認められていない。

 副業やアルバイトをするには、国から許可を得る必要があるがその手続きには数ヶ月かかる場合もあり、いま休業中で会社から給料が出ず生活に困窮している人にとっては間に合わない可能性がある。

 では、無給で会社に籍を置きながら休むよりも、退職して失業給付を受けながら仕事を探すほうがいいのではないか、と思われるかもしれない。しかし、その選択肢も多くの外国人には実質的に与えられてない。

 そもそも個人事業主や会社が違法に雇用保険に加入していないケースが多く、その場合は、失業給付を受け取ることはできない。また、失業給付を受けるには、自己都合退職であれば1年間の勤務実績が必要なため、最近日本に来て働き始めた人は受給資格すらない。その上、自己都合退職の場合は3ヶ月間の待機期間があるため、そうなると今すぐ給付を受けることができない。

 そして最大のハードルは、就労ビザで生活する外国人は仕事を辞めて3ヶ月以内に新しい仕事を見つけなければ、ビザが取り消される可能性があるという点だ。

 仮に、退職後に失業給付を受けたとしても、3ヶ月以内に新しい仕事を見つけられなければ将来的に日本に居続けること自体が危うくなる可能性がある。そのため、シフトがすべてキャンセルになったからといって、すぐに退職するというオプションを選択すること自体が、非常に大きな決断にならざるを得ない。

最後のセーフティーネットが存在しない

 では、会社を辞めることもできず、給料を受け取ることもできない外国人労働者はどうすればいいのか。国は30万円の現金給付を表明したが、外国人への支給は「検討する方針」(30万円の現金給付 在日外国人も検討 菅官房長官)の段階であることがわかっており、検討の結果、外国人には支給しない判断になりうる可能性もある。

 

 その上、「最後のセーフティーネット」である生活保護は、永住など一部の外国人を除き、外国人には利用する権利が与えられていない。そのため、会社の休業補償もなく国による支援もない生活に困窮した外国人は、家賃が支払えなくなった途端にすぐにホームレス状態になりうる状況に置かれているのだ。

 これまで日本は人手不足を理由に、できるだけ多くの外国人労働者の受け入れを目指してきた。しかし、危機的な状況に陥るやいなや、もともと脆弱であった外国人に対する支援が、完全に後回しになっている。

 コロナウイルスの感染が拡大するなか、休業や失業の問題は長期化することが予想される。給付金も含め、外国人支援の枠組を早急に構築することが急務だろう。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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