30万円の給付は「生活の危機」を解決するのか? 不公平な上、DVにも無配慮の実態

写真はイメージです。(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急経済対策の目玉であった、30万円の現金給付について給付条件が明らかにされた。

 私が代表を務めるNPO法人POSSEの相談窓口にも、自分が現金給付の対象になるのか、という相談が多数寄せられていた。コロナの影響で勤め先が休業になったり、解雇や雇止めにあった人たちにとっては、本当に切実な問題であったと思う。

 しかし、この政策の議論の過程や最終的な決定について、様々な問題があることも事実である。すでに論じられている論点も含めて、今回の現金給付の問題点について整理したい。

対象が狭く、わかりにくい

 まず、明らかになった給付条件は次の通りである。

世帯主の収入が、新型コロナ感染拡大の影響で、2月~6月の任意の月において

(1)減少し、住民税非課税水準になる場合

(2)半分以上減少し、住民税非課税水準の2倍以下となる場合

 である。

 住民税非課税の基準は住んでいる自治体や世帯人数によって異なる。そのため、総務省は10日、給付条件を全国一律にするため、単身世帯の場合は減収後の月収が10万円以下であれば非課税世帯とみなすとした。扶養家族が1人増えるごとに月収の基準額が5万円ずつ上がる。

共同通信「現金給付、単身月収10万円以下 扶養親族2人は20万円以下」(4月10日配信)を参考に作成
共同通信「現金給付、単身月収10万円以下 扶養親族2人は20万円以下」(4月10日配信)を参考に作成

 この給付条件に該当する世帯は、全国で20%程度と言われ、非常に対象が狭い。その上、住民税非課税水準を確認し、自分の収入と比較するなど、特に経済的に余裕のない人たちにとっては煩雑な作業が求められてしまう。

 さらに、次の2点についても問題を指摘できる。

(1)「世帯主の収入」が対象であること

 夫婦共働きが当たり前になっている今日では、世帯主の収入だけでは生活できない。夫婦共働きであれば、夫婦2人の収入を合わせて生活を営んでいるだろう。

 そうすると、世帯主の収入が減っていなくても、もう一人の稼ぎ手の収入が大幅に減少した場合、生活に困窮することがありうる。「世帯主」を対象としているのは、「男性が稼ぎ主」と想定しているからだろう。これでは現実の生計の構造に適していない。

(2)世帯が給付対象であること

 また、世帯が給付対象であることに注意が必要である。単純に計算すると、単身世帯であれば1人で30万円を受け取ることができるが、4人世帯であれば1人当たり7.5万円にしかならない。これだけでも不公平感が出てくるだろう。

 それだけでなく、世帯単位で支給すると、世帯構成員全員にきちんと行き渡らない可能性がある。なぜなら、世帯構成員それぞれが対等ではないからである。

 特に、コロナの影響で在宅勤務や自宅待機が広がる中、DVや虐待が深刻化している状況においては、DVや虐待の被害者にお金が行き渡るはずもないだろう。

 それに対して、コロナ対策で同じく現金給付を行なっているアメリカでは、年収7万5千ドル(約825万円)以下の大人1人につき現金1200ドル(約13万円)、子ども1人につき500ドル(約5万5千円)と、個人単位で支給する。こうすれば、上述の問題は起こりにくい。

 こうした給付の方法にも、「現実の家族の状況」に対する理解の不足がみられる。

「真に困っている人」を選別することの弊害

 今回の現金給付においては、「真に困っている人」に対して手厚い給付を行うべきだ、という考えに基づいている。一見すると「もっとも」な主張のようにも思えるが、このような社会保障の考え方は「選別主義」と呼ばれ、繰り返し批判の対象とされてきた。

 選別主義の弊害は、その典型である生活保護制度を考えるとわかりやすい。

 まず、選別主義を採用すると、制度がそもそも「真に困っている人」にもいきわたらなくなる。

 生活保護を申請すると、「不正受給防止」を名目に収入や資産を厳格に審査される。その過程で、家庭訪問と称して家の中を詮索されたり、通帳の中身を開示させられ取引の内容を説明させられたり、家族に経済援助できないか確認するための文書が送られる。

 このようにプライバシーを丸裸にされるため、生活保護受給には恥の感情(スティグマともいう)を伴う。そのため、そもそも保護申請自体を忌避する人が少なくない。

 その結果、生活保護の捕捉率(受給基準を満たしている人のうち実際に受給している人の割合)は20%程度だと言われている。つまり、「真に困っている人」のうち、8割もの人たちが制度から漏れているのである。

 こうして制度から排除された人々の間で不公平感が生まれ、受給者に対するバッシングが起こる。「自分たちは働いても苦しいのに、あいつらは税金で楽に暮らしていてずるい」というふうにだ。

 さらに、今回の現金給付においては、感染リスクを高めるという問題も指摘できる。上述の通り、給付条件がわかりにくく、自分が対象なのかわからないということもあり、窓口に人が殺到することが予想される。

 収入要件がある分、証明する書類などを窓口に持参する必要もある。そうすれば、人が密集することで感染リスクが高まってしまうだろう。

 感染リスクを抑えるため、会社を休業し自宅待機してもらう上で必要な補償であるはずが、むしろ逆効果となってしまう。これでは本末転倒だ。

現金給付だけでは問題は解決しない

 とはいえ、一定の割合の人たちは給付対象になり、受給できればそれはいいことだ。

 POSSEの生活相談窓口に寄せられている多くは、コロナの影響でアルバイトを休業させられ、収入が激減している(無収入であることが多い)、単身世帯の人たちである。

 こうした人たちはほぼ間違いなく、現金給付の対象となるだろう。生存の危機にある状況においては、30万円の給付もまったく効果がないわけではない。

 しかし、30万円を一度給付されたところで、家賃や公共料金の支払い、奨学金や生活苦から組んだローンの返済などに当てられ、すぐになくなってしまうに違いない。

 しかも、コロナの終息は見通せない状況のため、休業が延長されたり、解雇や雇止めへ発展してしまうことも多いにありうる。これでは30万円をもらってもどうにもならない。

放っておいても国は生活を守ってくれない

 以上のように、今回の30万円現金給付には多くの問題があることがわかると思う。

 国が生活を守ってくれる制度は、放っておいても作られそうにない。今、明らかなことは、私たちに必要な制度や政策は「要求」していかなければならないということだ。

 労働組合などの社会運動が盛んなヨーロッパでは、日本と違って手厚い支援策が行われている。国が休業する労働者(フリーランスも含む)の賃金の8割から10割を直接補償するのがスタンダードである。

 日本でも最近、社会運動の働きかけで、失業者に限定されていた家賃補助(住居確保給付金)の対象が失業者以外にも拡大された。このような動きをどんどん広げていくべきである。

 参考:収入減少世帯にも家賃補助制度が拡充 家賃を給付してくれる住居確保給付金の対象範囲拡大が決定!

 また、今後は生活に困窮した人たちが生活保護を利用せざるを得なくなることが予想される。期限の定めなく、最低限の生活を保障する唯一の制度だからだ。

 しかし、一部の自治体の生活保護の窓口では、職員が虚偽の説明や威圧的な態度をとることにより、困窮した人たちを追い返す「水際作戦」が行われている。こうした運用を改めさせ、制度を改善していくことも必要となると思われる。

 このような問題に直面した方には、ぜひPOSSEの相談窓口に相談していただきたい。

生活困窮に関する無料相談窓口

NPO法人POSSE

電話番号:03-6693-6313(月・水・金18~21時、土日祝13~17時)

メール相談:soudan@npoposse.jp

*社会福祉士及び研修を受けたボランティアスタッフが、全国からの相談を受け付けています。

【労働組合による新型コロナウイルス関連労働相談ホットライン】

日時:2020年4月11日(土)13時~17時、4月12日(日)13時~17時

電話番号:0120-333-774

※相談料・通話料無料、秘密厳守

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