「ブラック化」する郵政グループ ブラック企業による消費者被害の共通点とは

(写真:アフロ)

 先日、ゆうちょ銀行と日本銀行が、高齢者に対する投資信託の不適切販売についての調査結果を発表した。そこでは、平成30年度の約1年間で1.9万件にも及ぶ規定違反が発覚した。

 参考:不適切投信販売、高齢者23万人超調査 ゆうちょ銀、1・9万件と発表(産経新聞 2019年9月14日)

 

 7月には日本郵政グループのかんぽ生命保険で大規模な不適切販売もあったばかりだ。このような事件に対し、企業側の従業員「管理の不足」が指摘されている。

 だが、問題の本質はむしろ、利益至上主義から生まれる「過剰なノルマ」の方にあるのではないだろうか。これは、ブラック企業で度々問題となってきた従業員の「働かせ方」の問題である。

 実際に、「過剰なノルマ」の結果、消費者にしわ寄せがいくような事件は何度も起きている。身近なところでは、学生アルバイトが過剰なノルマのせいで親戚や友人に不要な物品を買わせているといった、悲惨な事例もある。

 被害者は私たち消費者であり、全く他人事にはできない問題だ。ノルマ問題が消費者問題を引き起こしている他の事例も紹介し、その解消のための方策を考えていく。

過剰なノルマが社員を犯罪にまで追い詰める、大東建託の事例

 まずは、類似の事例として、不動産業で有名な大東建託株式会社の事例を紹介しよう。大東建託株式会社では、2015年に社員が顧客に暴行や詐欺を働くという事件が報道された。

 この事件は、大東建託の社員が顧客をハンマーで殴るという、驚くべき事件だ。殺人未遂だけでなく、詐欺など含め6件の起訴事実があった。社員が顧客にここまでのことをした背景には、過酷な労働環境と過剰なノルマが指摘されている。

 しかも、労働環境の問題はこの支店だけではなく、全社的であった疑いが強い。他の支店では過労自死した社員がいることも報道されており、その内実があまりにも過酷だからである。

 報道によれば、過労自死した社員は、GPS機能付きの携帯電話で四六時中監視されながら、1日15時間を超す長時間労働を強いられ、休みも取れなかったという。そして、パワーハラスメントが横行しており、無理なノルマを達成させるために社員に顧客が本来払うべき費用を肩代わりさせるなどしていたという。

 大東建託株式会社には、電通の「鬼十則」を模した「大東十則」があり、「ひとつ、取り組んだら離すな、殺されても離すな、目的完遂までは」などと毎日大声で唱和させられるという。こういう労働環境が労働者を追い込み、その矛盾が消費者に転嫁されているというわけだ。

 実際、このノルマを達成する過程で、消費者が不要な建設工事を購入させられている。この過労自死した方の顧客は、大東建託株式会社と契約したアパートと自宅の建設を解約したいと申し出たにもかかわらず、それを無視して無理やり建設させようとしていた。

 しかも、もともと乗り気でなかったのに、無理な説得をしていたという。本来の顧客のニーズを無視した営業であったといえるだろう。そして、営業をしている社員自身にも火の粉が降りかかり、自殺にまで追い込まれている。

 顧客に新たに発生した費用のうち、労働者が360万円を肩代わりさせられているのだ。このような営業活動は、顧客も労働者も得にならず、ただ企業だけがもうかる仕組みとなっていた。

 今朝も、かんぽ生命の問題に関連し、郵便局員が親族の「みまもり支援」のノルマを「自爆営業」していたことが報道されている。両親と住んでいる祖母の「みまもり」のサービスを購入せざるを得なかったという。

 過剰なノルマが消費者と労働者の両方を蹂躙する仕組みであることは明らかだろう。

 参考:大東建託社員がハンマーで顧客を殴打、瀕死の重傷を負わす――「優秀な」営業マンはなぜ破滅したのか(2017年11月28日 My News Japan三宅勝久)

 参考:大東建託、相次ぐ社員自殺の背景 2018年6月29日 週刊金曜日編集部 三宅勝久)

要介護度を上げて利益を上げようとする介護施設の事例

 次に、筆者が代表を務めるNPO法人POSSEに寄せられた、株式会社が運営する有料老人ホームで働く介護士からの相談事例を紹介しよう。

 この有料老人ホームでは、ケアマネジャーにノルマが課せられていた。このノルマが利用者にとって劣悪なサービスが行われる要因になっており、どうしたらよいかという相談が寄せられた。

 この施設でケアマネジャーに課せられたノルマとは、老人ホームの「空き」を埋めることと、「客単価をあげること」であった。前者はわかりやすいだろう。空き室を減らせばそれだけ利益効率が上がる。

 だが、老人ホームで「客単価をあげる」とは一体どういうことだろうか。

 介護保険の制度は、介護サービスを受ける高齢者の介護度が上がれば上がるほど、介護が必要な度合いが高く、受けられるサービスの上限額があがる。

 それは利用者にとっては受けれる介護サービスが増えるということであり、介護事業者にとっていえば、同一人物を受けいれる際に、要介護度が高いほど自社の介護サービスを提供できるようになるため、介護事業者への実入りが増えるということでもある。

 つまり、「客単価をあげる」とは、サービスの利用者を高い介護度にすべく、「努力」させるということなのだ。このようなことは、利用者の状態が実際に悪く、利用者のニーズに合っている形で介護度をあげる努力が行われているのであれば問題はないだろう。

 しかし、だれもが好んで要介護度を上げたいわけではない。できる限り介護の手を借りないで生活したいと思う人が多いに違いない。そういう時に、この介護事業所では、なんと利用者の体調を悪化させて、介護度を上げようとしていたのだ。

 具体的にはこうだ。利用者ごとに1日に必要なカロリーや栄養の摂取量が決まっているが、それとは別に、「おやつの時間」をつくり、高カロリーな食品を出す、スーパーで売っているお菓子を買ってきて利用者に売るなどして、利用者の体重を重くさせたり、病状の悪化を引き起こす食品を食べさせ健康を悪化させるのだ。実際、その結果背骨を圧迫骨折してしまい、介護度が上がった人もいたという。

 ケアマネジャーにそこまでさせた背景は、会社からのパワーハラスメントがある。ケアマネジャーは年に数度、本社に呼ばれ、その場で売り上げ成績について確認され、達成度が低い人は他の社員の前で上司から叱責されるという。

 これを避けるには、ノルマを達成しなければならない。そして、ノルマの達成のために、利用者の健康を悪化させるという、介護福祉で目指される理念とは全く異なる、健康を悪化させより悪い人生を送らせるような「サービス」が展開されていた。

 しかも、このように体調が悪化して介護度が上がると、介護職員にとってはこれまで以上に介護の手間が増える。それについては、何のフォローもなく、労働時間が延びるなど、介護職員の労働環境は悪化していた。

 今紹介したようなショッキングな介護現場は、残念ながら、「たまたま」ではないようだ。日々介護労働者たちの労働相談を受けていると、介護業界では同じような事例にしばしば遭遇するからだ。

 福祉を新しい市場として開放し、そこに企業が参入できてしまう介護保険制度は、利益を追求する行為に歯止めがかかっていないのが実情だ。

 その結果、利用者の健康悪化を促進させるような「介護」まで現われている。

過剰なノルマをなくせるかが、消費者問題を

 以上に見てきたように、消費者問題の背景には、過剰なノルマがある。過剰なノルマと、そのノルマを達成させようとする上司からのパワーハラスメントにより、労働者は追い詰められていく。

 そして、ノルマを達成しようとするあまり、不十分な説明で商品を買わせたり、ニーズを無視した消費を強制する。このような事例は後を絶たない。過酷なノルマや労働環境のせいで多くのサービスが劣化している。ここ近年問題となっている高速バスの重大事故の問題や、運輸業界で荷物が雑に扱われる問題などは同根の問題である。

 これらの問題は、問題を起こした社員の「モラルの問題」には還元できない。社員がモラルを守れないのは、社内規定や一般的なモラルを守っていれば、ノルマを達成できないからだ。

 したがって、問題の解決のために必要なことは、7月に日本郵便が行ったように、営業目標や販売員のノルマを廃止することや、少なくとも緩和していくことだ。

 参考:かんぽのノルマ廃止へ 日本郵便、不適切販売で(日本経済新聞 2019年7月28日)

ノルマの削減は、労働組合で交渉できる。現場からの闘争が重要

 今回の日本郵便のノルマ廃止は、社会的に問題となったこともあり、実現した。これが継続されるには、社会的な注目のほか、現場の労働者の闘争も必要だ。

 そこで、力を試されるのは労働組合だ。労働組合は、労働環境の維持・改善のために会社と交渉することができ、ノルマの増減や廃止についても交渉が可能だ。日本郵便の労働組合はこれまでもノルマの抑制に取り組んできているようだが、引き続き今後も取り組んでいってほしい。

 また、同じような問題を抱える多くの職場でも、ぜひ労働組合を使って、ノルマの抑制に取り組んでほしい。ノルマ問題は消費者問題に直結するため、社会的な支持を得ることもできる。

 同じような被害を抱えている労働者は、ぜひ労働組合に相談してみてほしい。自分の会社の組合がなくても、個人加盟の労働組合であれば相談に乗ってくれる。自分のいる職場に労働組合があっても十分に対応してくれない場合もあるが、その時も個人加盟の労働組合に相談することは可能だ。

「割り切らない」仕事の在り方を追求しよう

 私が代表を務めるNPO法人POSSEに相談を寄せる労働者の中には、自分のやっている仕事が消費者のためになっていないのが明白で悩んでいる人が多い。

 しかし、その多くが、仕事だから「割り切ろう」と努力している。そうして、自分の精神をすり減らしながら、日々働いている。こんな社会でよいのだろうか。

 そんなわけはない。自分たちの仕事が人や社会のために役立ち、やりがいを感じて働いていける社会が望ましいのは言うまでもないだろう。だからこそ、現場で労働組合を使い、声をあげてほしいと思う。「割り切らず」に、消費者にも役立ち、やりがいのある仕事を追及してほしい。

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