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ブラックバイトに支えられる日本のクリスマス 消費者が理解すべき実情

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 クリスマスが近づき、スーパーやコンビニなどではクリスマス向けのケーキが販売されるようになった。こうした季節モノの商品の販売に際しては、売り残りを出さないためにアルバイトにノルマが課せられ、自腹購入が強要されるという被害相談が多数寄せられる。

 これまで、こうした問題については何度も論じてきた。そこで今回は、「自腹購入の強要」以外にクリスマスと絡んで引き起こされる、ブラックバイト問題について考えていきたい。

 具体的には、クリスマス期の「シフト強制」や過重労働、さらにはケーキの製造工程の「罰金」などの問題がある。

 これらを見ていると、日本のクリスマス全体が、「ブラックバイト」によって支えられている状況が見えてくる。

クリスマスシーズンは「脅迫」され、強制出勤!?

 ケーキ屋にとって、クリスマスシーズンは重要なかき入れ時である。普段より多くの客が訪れるということもあって、人員もいつも以上に配置する必要が出てくるだろう。こうした事情から、クリスマスに「シフトを強制する」という相談は頻繁に寄せられる。

 例えば、次のような訴えだ。

 クリスマスシーズンは全員強制で出勤させられ、授業のある学生にもアルバイトを優先しろと軽く脅迫された。出勤することはもちろんのこと、労働時間の希望も一切受け入れてもらえなかった。アルバイトを始めるにあたって面接を受けた際には、一切そのような強制条件があるなどは聞かされていなかった。

 クリスマスシーズンや年末にシフトに入れないのを店長に「絶対ありえないし許されない」と言われ「シフト制はシフトが弾かれた時に遊ぶ制度であって、予定があるからシフトを入れない制度ではない」とも言われた。

 クリスマスシーズンとはいえ、授業期間である大学も多い。こうした事情を無視し、さらに「脅迫」までして出勤を強制するというのは、典型的なブラックバイト問題である。会社側は学生をアルバイトとして雇い入れる以上、シフトを組む際は授業やテストの都合を考慮すべきだろう。

 そもそも、アルバイトがどのようなシフトで働くかは、約束(=労働契約)によって決まっている。この相談事例のように、そもそもクリスマスシーズンに入らなければならないという約束がなされていないのであれば、強制的に出勤する「義務」はない。

クリスマスがもたらす過重労働

 出勤が強制されるだけではない。人員が不足している店舗では、販売員のアルバイトに過重な負担が強いられることになる。労働相談では次のような声が寄せられている。

 ケーキ販売ということでクリスマスシーズンは繁忙期であるが、人数不足なのでお店を1人で回して客を待たせてしまうことがある。そんなとき、客から「何時間客を待たすんだ」、「なんでお前しか従業員がいないんだ」と待ち時間のストレスをぶつけられることがある。

 スタッフは6連勤や7連勤でもしっかり出てきて一生懸命働いているのに心無い言葉を浴びせられ、本当に気分が落ち込み死にたくなる時もある。

 また、お店の上の方々からはケーキの残りが少ないと「少なくないか」と言われ、あまり過ぎている時は「売れ行きをちゃんと見ているのか」と言われる。多ければ多いで注意を受け、少なければ少ないで文句をいわれ、どうしたらいいのかわからない。

 これらの事例からは、人員不足の矛盾やそれによって生じている負担が、一方的に学生アルバイトに負わされていることがわかるだろう。強制動員がかけられる上に、人員が不足している店舗では繁忙期にもかかわらず「ワンオペ」状態になり、過酷な労働を強いられているのだ。

 このような、アルバイトとしての業務の範囲を明らかに超える形で、過度な労働を強いることは、会社の違法な「権利濫用」「安全配慮義務違反」にあたる可能性がある。

 また、一定時間以上働いた場合には休憩時間を取らせることは、明確な義務である。ワンオペで休憩時間を取得することができないという状態は、明らかな労基法違反となる。

 つまり、ブラックバイトの多くが不当な行為、さらには「違法行為」に当たると考えられるのだ。

 尚、アルバイトに休憩時間を取らせなかった使用者に対しては、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という「刑罰」が規定されている。

壊したケーキは弁償!?

 クリスマスケーキは販売販売が厳しいだけの問題ではない。全国展開しているフランチャイズのお菓子屋屋では、ミスによって廃棄しなければならなくなったケーキの買取りを強いられているという。

 これについても、相談事例を紹介しよう。

 自分の働いているお店では、壊したケーキを売値で買い取らなければならないというルールがあるが、このルールは雇用契約を結ぶときには知らされず、バイトを始めたあとではじめて知らされた。表向きは壊した商品は壊した人が「任意」で買い取るということになっている。時給800円で働きながら、300円のケーキ代を補填するのは負担が大きく、不満がある。

 アルバイトが働いていて、ミスが常識を越えるほどあまりにも多い場合や、意図的に引き起こした場合を除き、通常起こりうるミスについては弁償する義務はない。

 そのため、このような強制買い取りも、「強要罪」などの犯罪行為に当たる可能性がある。

 労働法の考え方では、そもそも会社は、学生アルバイトを働かせることによって利益を得ている。そうであれば、ふつうの人が起こしてしまうような日常的なミスやノルマの未達についての損害も、会社側が負担すべきものとなるのだ。

 そうでなければ、「ミス」による賠償を恐れて、誰もアルバイトにいくことはできなくなってしまう。扱う品が一個300円のケーキではなく、より高級な品だったら、一気に破産してしまうと言うこともおこってしまうからだ。

 さらに、食品工場でよくあるのが、製造の過程で失敗した製品を「買取」させるということだ。例えば、次のような事例がある。

 パンの生産ラインでアルバイトしているが、落としたパンを「買い取れ」と言われる。コンビニの「品出し」の際に外にあるチョコレートが溶けていたのを全部買取りさせれた。缶の飲み物を落としてしまうと、それも買取り。

 このような事例から考えると、極端な繁忙期となるクリスマスケーキの製造や流通の過程でも、学生アルバイトにブラック労働が要求されている可能性は否定できないだろう。

ブラックバイトは泣き寝入りせずに相談を!

 現在、多くのケーキ屋やコンビニなどの販売店では、多くの学生アルバイトが働いている。店長などの正社員はほとんど職場におらず、こうした店舗の多くは学生アルバイトに依存して成り立っている。

 だからこそ、学生アルバイトであっても職場のなかで正社員並みの責任を負わされ、学生が本来なすべき大学生活が圧迫されていく。これがブラックバイトの構図だ。

 クリスマスシーズンや年末年始などの繁忙期になると、このブラックバイトの構図がより圧縮され、矛盾が激化することになる。

 街中がイルミネーションによって彩られ、一見華やかにみえるクリスマスシーズン。しかしその裏側では、学生アルバイトが酷使されているのだ。

 ただし、今回見てきたように、学生アルバイトが置かれている状況は、労基法に違反していたり、契約違反であったりすることが非常に多い。

 学生アルバイトはこうした状況に泣き寝入りする必要はないと思う。また、消費者側も、サービスを提供している学生側の実情に配慮した姿勢を持つ必要があるだろう

 下記の相談窓口では、学生アルバイトの労働相談にも対応している。これらの相談窓口を活用して、会社に酷使されることなく、良い年を迎えられるようにしてほしい。

 尚、ケーキのノルマ・買取問題への対処は下記の記事を、正社員の店長の問題についてはさらにその下の記事を参照してほしい。

クリスマスケーキの自腹購入の強要、どう対処すればいいの?

クリスマスケーキの自腹購入 店長も「被害者」

【ブラックバイトの無料相談窓口】

 いずれも年末年始は相談電話が混み合うことが予想されるので、繋がらない場合はメールで連絡をとるとよいだろう。

ブラックバイトユニオン

03-6804-7245

info@blackarbeit-union.com

*学生のブラックバイト問題に対応している個人加盟ができる労働組合。

NPO法人POSSE

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO。労働法の知識と「使い方」をサポートします。弁護士、労働組合と連携しています。

ブラック企業被害対策弁護団

03-3288-0112

*労働問題に対応している弁護士の団体です。

ブラック企業被害対策弁護団

03-3288-0112

*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

ブラック企業対策仙台弁護団

022-263-3191

*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。

ブラックバイト対策弁護団あいち

052-211-2236

*愛知県でブラックバイト問題に対応している弁護士の団体です。

札幌学生ユニオン

sapporo.gakusei.union@gmail.com

*札幌で学生の労働問題に取り組んでいる労働組合です。

仙台けやきユニオン

022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。アルバイト問題にも対応しています。

首都圏学生ユニオン

03-5359-5259

*首都圏で若者の労働問題に取り組んでいる労働組合です。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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