非正規雇用は「ホームレス」? 世界基準からみる日本の住居事情

 非正規やブラック企業で働く人々にとって、賃貸の家賃を支払うことが困難な状況にあることは少なくない。

 あるいは、家賃が安い住居を選んだ場合には、今度は住環境が悪いということもよくあることだろう。

 不安定で劣悪な住居は、多くの人にとって身近な事柄である。それにもかかわらず、日本では、それが「社会問題」として考えられることがあまり多くない。

 今回は、日本の「居住」の実態を海外と比較し、ぎりぎりの賃金で生活している非正規やブラック企業の労働者が、よりまともな住環境を得るための方法を考えていく。

ホームレスの定義が狭い日本

 まず、「居住」に関する社会問題としては、真っ先に「ホームレス」を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。

 都市部では駅や公園で野宿をしている人を見かけることもあるだろうし、「ネットカフェ難民」という言葉も知られている。

 日本の行政が定義する「ホームレス」とは、「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」をいう(ホームレス自立支援法)。

 厚労省の行った2018年度の概数調査によれば、4977人のホームレスが確認されており、前年度比で約10%減少しているという。

 また、この定義では「ネットカフェ難民」は含まれないことになるが、「ネットカフェ難民」については、東京都が今年公表した調査によると、都内に1日約4000人いるとされている。

 これらの資料を見ると、「ネットカフェ難民」はともかく、行政の調査では「ホームレス」は減少しており、少しずつ解決に向かっているかのようにも思える。

 しかし国際比較の観点からみると、そもそも日本における「ホームレス」の定義は「非常に狭い」という特徴を持っている。そのため、その基準に従った場合、潜在的なホームレスが多数存在することになるのだ。

 例えば、イギリスの法律(1977年住宅法)では、ホームレスを次のように定めている。

  •  占有する権利のある宿泊施設を持たない者
  •  家はあるが、そこに住む者から暴力の恐怖にさらされている者
  •  緊急事態のために施設に住んでいる者
  •  いっしょに住むところがないために別々に暮らさざるをえない者

 イギリス政府の定義は、日本のものよりかなり広範にホームレスをとらえていることがわかる。

 この定義に従えば、日本では通常「ホームレス」とまではみなされないような場合もホームレスに該当することになる。親族や友人宅に身を寄せている人は「占有する権利のある住居」を持っていないと考えられるし、DV被害者であれば「住む者からの恐怖にさらされている」から家族の家に住んでいてもホームレスになる。

 また、災害被害の仮設住宅や保護施設の住人、お金がないために別居している夫婦といったケースも皆、ホームレスであると理解され得るだろう。

 日本ではホームレスとは認定されず、したがって「住居問題」として改善すべきだとは考えられていない状況も、イギリスでは改善すべき対象だということになるわけだ。

 イギリス政府以外にも、例えばドイツ政府はホームレスを「占拠に関する合意に基づき確保された宿泊場所を持たない者。野宿者に加えて、ホームレス用の一時宿泊施設、緊急滞在施設、虐待された女性用の一時宿泊施設等に滞在している者や東欧諸国からの移民で一時宿泊施設に滞在している者を含む」としている。

 この場合にも、やはり一時的な保護措置(ここには無料定額宿泊所やネットカフェが含まれるだろう)によってもホームレス状態は解消されたことにはならない。

 しかし、日本からはずっと先進的に見える、上記のイギリス政府のホームレス定義は、同国最大の住宅運動団体「シェルター」からは批判されている。彼らはホームレスを次のように定義している。

  •  野原や廃車の中で暮らす家族
  •  不良住環境の中で暮らす家族
  •  過密の中に住む家族
  •  別れてばらばらに暮らす家族
  •  低収入で暮らす家族
  •  物的な危険のもとで暮らす家族
  •  トイレ、湯沸かしなどの基本設備のない家に住む家族

 こうしたイギリスの政府やNGOの基準に照らしていくと、日本の多くの「普通」とされている住居も、実は問題を含んでいることが見えてくる。

 日本で特に問題が大きいのは、低賃金の非正規雇用やブラック企業で働く労働者たちの住居状況である。

非正規雇用、ブラック企業の社員の多くは「ホームレス」?

 冒頭で述べたように、日本では、低賃金であるために家賃支払いが困難な状況にある人が少なくない。

 実際、2014年にビッグイシュー基金が首都圏と関西圏の低所得(年収200万円未満)の未婚の若者(20~39歳)を対象に実施した調査によれば、家賃が対手取り月収比で3割以上が57.4%、5割以上が30.1%となっている。

 この調査で示されている家賃が収入の5割をも占める世帯は、「低収入で暮らす家族」に該当し、ヨーロッパ水準からすれば「ホームレス」と言えるかもしれない。少なくとも、家賃滞納で住居から退去させられかねない、ホームレス「予備軍」であろう。

 また、日本は先進国の中でも居住面積が非常に狭い。国交省の「平成29年度 住宅経済関連データ」によると、一人当たり住宅床面積はアメリカ62平米、イギリス39.7平米、ドイツ46.1平米、フランス44.3平米に対し、日本は39.4平米であり、関東大都市圏の借家に限ると、なんと23.8平米と圧倒的に狭い。

 最近では、若者の間で「都心3畳ワンルーム」の部屋が人気だ。山手線沿いなど都心に立地しながらも、家賃が相場よりも安く、敷金・礼金・更新料などが無料なのだという。

 社会が変化し、テレビやステレオ、本棚などがなくとも「スマホ一つで十分」だから、狭くても生活に支障はないという意見もある。しかし、国が定める最低居住面積水準は単身者で25平米(世界基準では到底許容されない)なので、それと比べても、3畳=4.86平米はあまりにも狭い。

 最低居住面積水準は「健康で文化的な住生活の基本として必要不可欠な住宅の面積に関する水準」とされており、その点からしても、3畳は「不良住環境」と言わざるを得ない。

 ここまでくると、日本社会の感覚からしても、「劣悪すぎる居住環境は、もはやホームレスと定義してもよいのではないか?」 という実感が少しはわいてくるかもしれない。

 さらに、日本では社宅や会社寮がポピュラーな存在であるが、この住居形態が非常に不安定であることは「派遣切り」の際に露呈した。

 2008年に起きたリーマンショックを契機に、製造業を中心に派遣労働者の解雇や雇い止めが多発し、派遣会社の寮に住んでいた労働者は住居を失い、路頭に迷ってしまった。

 このような「労働住宅」は、居住が雇用と結びついているため、雇用を喪失すると直ちに住居も喪失してしまう。また、住居を失いたくないがために、劣悪な労働環境も受け入れざるを得ないことも多い。

 日本ではポピュラーな「労働住宅」についても、国際的には以前から問題視されており、国際労働機関(ILO)から勧告が出されている。「使用者がその労働者に直接住宅を提供することは、……やむを得ない事情のある場合を除き、一般的に望ましくないことを認識すべきである」(「労働者住宅に関する勧告」、1961年)。つまり、基本的には社宅や会社寮は「望ましくない」とされているのだ。

 このように、世界の先進国の水準からすれば、日本で「住居」とされているものは、あまりにも劣悪ないし不安定なものを含んでおり、その一定部分は「ホームレス」とさえ言い得る状況なのである。

人々は住むために闘ってきた

 それでは、日本とヨーロッパの違いはどのようにして生まれたのだろうか。ヨーロッパに共通するのは、次のような歴史的経緯である。

 19世紀以降に工業化と都市化が進む中、農村から都市労働者として大量に流入してきた人々は、都市の狭小過密な住宅に住まわざるを得なかった。ただし、彼らは劣悪な住宅を受け入れることはなかった。

 非人間的な居住環境に対し、労働者たちが「借家人組合」を結成し、家主や行政を相手に交渉やストライキなどの実力行使を用いて闘ってきたのだ。

 いくつか具体的な例を挙げてみよう。

 イギリスでは、第一次世界大戦の最中にグラスゴーで大規模な家賃ストライキが勃発し、その結果として国家の家賃統制や公共住宅供給が法制化された。

 当時のグラスゴーには軍需工場が集中し、戦時中に大量の労働者が流入したことで深刻な住宅不足が生じていた。住宅不足を利用して家主は家賃値上げを仕掛けたため、借家人組合が家賃不払いのストライキを断行したのである。借家人の要求を受け入れなければ、工場のストライキも辞さないとして労働組合が協力していたことが、運動の成功に大きく寄与した。

 フランスでも1880年代から家賃高騰に対して組織的な家賃不払い運動が行われてきたが、第一次世界大戦後に改善されなかった住宅難に憤った労働者たちが借家人組合の全国組織を結成し、大規模なデモやストライキを展開した。

 その結果、自治体による低廉な住宅供給政策を実現したり、国レベルでも低廉住宅供給のための大量で超低利の公的融資制度が導入された。

 また、現在でも借家人組合が家主と交渉して家賃水準を規制している国もある。

 スウェーデンでは、第二次大戦中に導入された国による家賃統制が1967年に廃止された後、当該地域の借家人協会と家主協会が(自治体の住宅公社の賃貸住宅の)家賃を毎年交渉で決め、その水準にならって民間賃貸住宅の家賃が決まるという仕組みをとっている。

 ドイツでは、1970年代にドイツ借家人連盟の運動により、家主による契約解除を制限する法律が制定されたり、住宅の建築年数・規模・設備水準・立地条件を加味して、自治体・家主組織・借家人組合の3者間協議により作成された家賃の比較対照表に基づき、民間賃貸住宅の家賃水準を規制する制度が導入された。

 このように、ヨーロッパでは19世紀から始まり、今もなお、借家人自身が居住権を守るために運動し、市場に任せた住宅の供給や価格設定を許していないのである。

 日本の現実からすれば、住宅の価格や契約に「市場の外」から意見を言ったり、規制をかけたりすることは奇異に映るかもしれない。しかし、世界的にみれば、むしろそちらのほうがスタンダードであると考えてよいだろう。

 住居の在り方は人間の生活の質や、生存に直接かかわってくる。それだけに、通常の「商品」とは異なる取り扱いが歴史的に慣習化してきたのだ。

日本でも居住権を実現する運動を

 一方日本では、特に戦後において一般の労働者が居住権を巡って争うことはほとんどなかった。労働者は企業別組合に組織され、企業の成長のために「企業戦士」「モーレツ社員」として協力するのと引き換えに、終身雇用と連行賃金による生活保障を企業に求めた。

 住宅に関しても、企業から持ち家取得のための低利な融資を受け、一般市場で供給されるマイホームを建てることが当然のこととされた。

 その結果、公共住宅は少なく、民間賃貸住宅の水準は非常に低いまま放置され、居住権は十分に保障されていない。

 しかし、今や低賃金の非正規雇用は4割近くを占め、持ち家取得を望むことはできず、賃貸住宅の家賃支払いすら困難な状況が広がっている。

 日本ではこれまで放置されてきた賃貸住宅における居住権を行使し、せめて住居から追い出されない状況は作り出さなければならないだろう。そのためには、海外の借家人組合にならい、市民団体や労働組合が、非正規やブラック企業の労働者の「住む権利」について権利擁護をしていかなければならない。

 日本でも、居住権を行使し、住居を維持し続けることは可能だ。一般の賃貸住宅で家賃を滞納してしまい、家主から追い出しのプレッシャーがかけられても、一方的に出ていく必要は全くない。家主と交渉することで、滞納した家賃を分割で支払うなどしながら住居を維持することが可能だ。

 あるいは、契約満了で会社寮から追い出されそうになっても、相場と同じくらいの家賃を支払っていれば、上記のように一般の賃貸住宅と同様の「居住権」を行使できる。また、雇止めや解雇について争い、違法性を認めさせることができれば、会社が追い出すことはできない。

 筆者が代表を務めるNPO法人POSSEでも、非正規で働き住居からの追い出しなどの問題を抱えている方を対象に、2018年11月30日(金)と12月1日(土)に「非正規住居追い出しホットライン」を開催する。ぜひご相談いただきたい。

 また、生活困窮者の「住む権利」の擁護に参加されたいボランティアの方も歓迎している。

非正規住居追い出しホットライン

日時:(1)11月30日(金)18:00~21:00、(2)12月1日(土)13:00~17:00

電話番号:0120-987-215

相談費用:通話料含め無料

主催:NPO法人POSSE、NPO法人ほっとプラス、反貧困ネットワーク埼玉

相談は秘密厳守。

※上記以外の時間帯でも相談を受け付けています。

非正規雇用の住居に関する相談窓口

03-6699-1890

soudan@npoposse.jp

■参考文献

早川和男,2005,『人は住むためにいかに闘ってきたか』東信堂.

小玉徹,2017,『居住の貧困と賃貸世代』明石書店.

小玉徹・大場茂明・檜谷美恵子・平山洋介,1999,『欧米の住宅政策』ミネルヴァ書房.

長谷川貴彦,2005,「OECD諸国におけるホームレスの定義及びモニタリングに関する調査」『日本建築学会計画系論文集』70巻588号,141-146.

*各政府の定義などについてはこれらの書籍を参照・引用している。