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高齢者の労災問題 敬老の日に考える

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

 9月17日は、敬老の日。国民の祝日に関する法律の規定によれば、「多年にわたり社会に尽くしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う」日なのだそうだ。

 しかし、現在の日本は、そんな悠長なことを言えるような状態ではない。「一億総活躍社会」名のもとに政府と大企業が進める政策が、高齢者に鞭を打ち、休むことを許さないからだ。

15年連続で増え続ける高齢の就業者数

 内閣府がまとめた『平成30年版高齢社会白書』によれば、2017年の労働力人口は、6,720万人で、労働力人口総数に占める65歳以上の労働者の割合は12.2%だった。

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 特に、2011年から2017年までの間では、高年齢者雇用安定法による定年後再雇用が制度化された影響で、8.9%から12.2%に一気に上昇している。

 図に示したように、高齢の就業者数の人口でみると、15年連続で増加しているのだ。

70~74歳の男性の34.2%、女性20.9%が就業者

 今や、「65歳定年」の時代になったのだから、高齢者人口が増えることは当たり前だと思われるかもしれない。

 だが、高齢者雇用の広がりは、定年延長だけには問題はとどまらず、70歳を超えた老人にまで幅広く及んでいる。

 『平成30年板高齢者白書』によれば、男性の場合、就業者の割合は、65~69歳でも54.8%、70~74歳の男性の就業者の割合は34.2%、同じく女性の場合、65~69歳で34.4%、70~74歳20.9%となっている。

 

 従業員31人以上の企業約16万社のうち、希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は75.6%だという。

高齢労働者の半数以上が非正規雇用

 高齢者の労働人口が増えている背景には、年金の受給開始年齢の引き上げや、医療費の負担率の増加が挙げられる。

 また、非正規雇用率が高まっている「子ども世帯」を援助するために働き続けている高齢者も多いことだろう。

 単純に「生きがい」を求めてはたらく老人も増えている一方で、生活の苦しさから、厳しい労働であっても従事せざるを得ないのである。

 高齢者の労働が決して恵まれたものではないことは、雇用形態からも読み取ることができる。

 男性の場合、非正規雇用比率は60~64歳で52.3%、65~69歳で70.5%、女性の場合、同比率は55~59歳で60.8%、60~64歳で76.7%、65~69歳で80.8%にも上っている。

 待遇の悪い労働条件でも、無理して働かざるを得ない老人が増えていることがうかがえる。そうした中で、過労や事故に巻き込まれて、労働災害が引き起こされてしまう事態が相次いでいる。

 たとえば、今年5月に放送されたNHKの「縮小ニッポンの衝撃」では、高齢者が過酷なゴミ処理作業に従事している中、機械に巻き込まれて死亡する事故が発生したことを報道している。

 遺族は、高齢の親が、劣悪な環境で働いていた事実に衝撃を受けたと語っていた。

高齢者の労災事故の増加、死亡労災の割合も高い

 とはいえ、「元気な高齢者」が増えているのだから、働き続けられるのは社会への参加やいきがいがまして、良いことだと思われるかもしれない。

 だが、当然のことであるが、人間は、年を重ねるにつれ、身体機能は著しく低下し、記憶力も落ちる。その上に、高血圧や脂質異常などの疾病を抱えるようになる。

 だから、労働災害が発生するリスクは高齢者の方が格段に高い。

 

 下記のグラフを見てもらいたい。高齢になるほど、労災件数、特に死亡災害の件数が多いことが分かるだろう。

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 中央労働災害防止協会が昨年作成した『高年齢労働者の活躍促進のための安全衛生対策』の中で、公益財団法人大原記念労働科学研究所の北島洋樹氏は、平成元年から同27年までの20年間に、労働災害全体の件数が減少する中で、60歳以上だけは件数が減少しておらず、全体に占める割合が12%から23%へ増加している事実を指摘している。

 高齢者の就労率の高まりは、健康年齢や社会参加の増進と共に、その裏側では「老人の使い潰し」とも呼べる過酷な状況を生み出していると言って良いだろう。

労災にあってしまった時には、労災申請と、必要に応じて会社への損害賠償請求を

 最後に、労災の被害にあってしまった時の対応方法を紹介しておきたい。

 参考:「自動車事故に例えて考える「労働災害」」

 

 労働災害が発生した時には、まずは、労災申請を労働基準監督署にすべきだ。労災が認定されれば、治療費の全額や休業補償(平均賃金の八割)、障害が発生した場合の障害年金、過労死遺族に対する遺族年金などが受けられる。

 さらに障害が残ったり、死亡してしまうような場合には企業に労災保険の補償では足りない分の損害を会社に請求できる。労働基準監督署による労災認定があれば、裁判なども有利に進む。

 労災事故が発生してしまった時に、会社がその事実を隠すのは犯罪行為だ。しかし、厚労省が「労災かくしは犯罪です」とキャンペーンを行っていることからもわかるように、その事実を隠ぺいする悪質な会社が後を絶たない。

 労災申請を出されれば、会社に労働基準監督署が入り、安全衛生の面から手を入れられるし、重大な災害の場合には上記記事の通り、損害賠償請求を労働者からされるかもしれないからだ。

 

 高齢の方の場合、「こんな年まで雇ってもらっているのだから」と会社が労災隠しを迫った場合に、労災事故を自分のせいにして、労災申請をしない選択をしてしまうかもしれない。

 しかし、決して忘れてはならないのは、労災事故の責任は使用者にあるということだ。高齢者を働かせるのであれば、低下した身体機能の高齢者でも十分安全に働くことができる環境を整える義務が使用者にはあるからだ。それを無理して働かせている実情が、上記の高齢者の労働災害の発生率の高さともいえる。

 労災事故が起きて、会社が労災申請に動かなかった時は、専門の労働相談窓口にぜひ相談してほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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