つい先日、安倍首相は今国会で議論されている「働き方改革」に関する法案から裁量労働制の拡大を削除する意向だと報じられた。政府は、裁量労働制の拡大によって働きやすくなると繰り返し主張していたが、その主張の裏付けとなる裁量労働制で働く人の労働時間を調査したデータに1000個所以上のミスがあることがわかり、連日メディアで問題視されていた。

 しかし、政府は再度調査を行うとしており、裁量労働制の拡大が将来的に検討される可能性は否定できない。そもそも裁量労働制とは、専門的な能力や知識・経験を持つ労働者は働き方に裁量があるとして、労使で決められた「みなし労働時間」以上働いても、残業代の支払いが不要になるという制度だ。

 専門的な能力があるため、会社側が作業スピードや方法に口出ししづらい労働者が想定されており、当然給料もそれなりに高いと考えられている。

 だが、今年1月にハローワーク求人を調査した所、基本給10万円台の求人が67%を占めており、裁量労働制で募集されている仕事で低賃金が蔓延していることがわかった(裁量労働制で月給25万円以上はわずか1割! 低賃金でも「残業代ゼロ」

 今年1月1日から、職業安定法改正に伴い裁量労働制の仕事として募集する場合はその旨の表記が義務付けられることになっているため、この一か月でも、これまでは裁量労働制が表示されていなかった求人が、新たに出回っている可能性が高い。

 そこで、裁量労働制が国会やメディアで話題になるなかで、その求人内容がどのように変化したのかをみていきたい。

変わらない低賃金 裁量労働制で最低賃金以下の求人も

 今回の調査は前回同様に、ハローワークインターネットサービスで「東京都」「一般(フルタイム)」のカテゴリーに「裁量労働」のフリーワードを入力して検索するという条件で行った。

 上記の条件で2月28日に検索をかけたところ、69件の求人がヒットした。1月に検索をかけたときから27件増えているのをみると、やはり、職業安定法改正が影響しているのだと考えられる。

 その上で、 「基本給」として表示されたものの一番低いものを抽出し(例えば、「基本給21~28万円」とあれば、21万円)、並べてみたのが、以下の表だ。

基本給の下限の分布
基本給の下限の分布

 この表からはっきりわかるように、月収25万円(年収300万円)以上の求人はわずか7%のみと、賃金水準は裁量労働制だからといって全く高くはなってはいない。

 中には、基本給が14万5000円と、一般的なフルタイムの労働時間では東京都の最低賃金を下回ることになる求人もあった。

 いままさに議論になっている「高度プロフェッショナル制度」とは異なり、裁量労働制の導入に年収要件はない。つまり、最低賃金で働く労働者にも、理論的には裁量労働制にすることはできるのだ。いかに「残業代ゼロ」「定額使い捨て」と批判されるこの制度が、普通の労働者をその適用ターゲットにしていることがわかるだろう。

「裁量」が与えられているのに残業することが前提の仕事が全体の4分の1

 更に、裁量労働制の求人の中には、固定残業代制度をあわせて含んでいる求人が、全体の約28%(69件中19件)存在する。

 固定残業代制とはその名の通り、はじめから一定時間分の残業代を固定で毎月支払うという仕組みだが、これは拙著『求人詐欺 内定後の落とし穴』でも明らかにしたように、ブラック企業が給料を見かけ上高く表示するために用いる常套手段である。

 月収15万円で人を集めたいが、これでは誰も応募しないので、求人には月収30万円とだけ書いておいて、実際の内訳は基本給15万円+固定残業代15万円とするという、騙して入社させるという手口をブラック企業は好んで使う。

 では、裁量労働制で固定残業代が含まれている求人は何を意味するのか。一つは、今回の調査で明らかになった求人のほとんどは基本給が15万円から20万円未満と低く設定されていた。つまり、求人をよく読まなければ、本来基本給15万円であるにもかかわらず、例えば毎月25万円(固定残業代が10万円)と騙されてしまう可能性があるということだ。

 もう一つは、そもそもこれらの裁量労働制自体が脱法的に導入されている可能性があるということだ。会社が一定時間の残業が発生することを予め見越していないと、毎月同じ金額の残業代を支払おうと考えることはないだろう。

 「あなたには裁量がある」と言いながら、求人に月40時間分の残業代を組み込んでいれば、誰がその仕事をしても月40時間の残業が生じることを会社が想定していると考えられる。つまり、仕事の進め方に裁量がほとんどないか、あったとしても労働時間に影響が出るほどの裁量ではないかもしれず、裁量労働制の要件を満たさない可能性が高いと言える。

(尚、もともと裁量労働制や高プロには、「業務量」の裁量は想定されておらず、無限サービス残業が合法化される恐れがある。とはいえ、そのような状況で「裁量がある」と法的に言えるのかどうかは、実は「グレーゾーン」になっていて、場合によっては違法・無効の判断が下されることもあり得るのである)

「裁量労働制のメリット」とされていることは今の法律でも認められている

 裁量労働制を導入することは労働者にもメリットがある、と宣伝されている。メリットとしてよく挙げられるうちの一つは、労働者に裁量が与えられることで、仕事を早く切り上げることができワークライフバランスの向上につながるということだ。

 しかし、この主張はそもそも前提から間違っている。現行の労働法でも、労働者に裁量を与えて、出退勤時間を自由にさせることはできる。フレックスタイム制度はまさにそのためにあり、仕事が終わった人から退社することを禁止する法律は一つも存在しない。裁量労働制が効果を発揮するのは、8時間以上働かせたにも関わらず、会社がその分の残業代を支払わなくていいようにする時だけである。

 

裁量労働制で働いていて「おかしい」と思ったら

 今回、国会で用いられた裁量労働制の労働時間データを参照しなくとも、実際に裁量労働制の下で働く人が長時間労働になっていることは、労働相談や過労死などの事例をみても明らかだ。野村不動産で違法な形で裁量労働制が適用されていた50歳代男性が月180時間の残業に従事して過労自死したケースが昨日スクープされたが、このような過労死や長時間労働の事例は氷山の一角でしかない。

 いま裁量がないのに裁量労働制になっていたり、残業代が支払われていない人はぜひともすぐに相談してほしい。現時点では「定額働かせ放題」になってしまっていても、実態を明らかにして会社と交渉するなどの方法を使えば、現状を変えるチャンスがある。裁量労働制に関する相談を専門的に受け付ける団体も存在し、ほとんどの団体が無料で相談を受付けているので、困ったことがあれば一度専門家の意見を聞くのが有効だろう。

裁量労働制を専門とした無料相談窓口

裁量労働制ユニオン

03-6804-7650

sairyo@bku.jp

http://bku.jp/sairyo

その他の無料労働相談窓口

NPO法人POSSE

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総合サポートユニオン

03-6804-7650

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ブラック企業被害対策弁護団

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