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東京都議選主要政党の「政策比較」 保育・教育・住宅はどうなるのか?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

6月23日、東京都議選が告示された。東京都で暮らす多くの人々にとって、特に重要な関心ごとは、わたしたちの生活にかかわる福祉政策ではないだろうか。東京都は1300万人超の人口を抱え、予算規模は13兆円を超える巨大自治体である。したがって、その気になれば東京都が独自に実施できる福祉政策も多様だ。

また、東京都で実現した政策は、国が後追いで全国的な制度として採用する場合もある。東京都民でない方々も、東京都でどのような政策が実現するのかということは、無関係ではない。

そこで、本記事では、主要各党がどのような福祉政策を掲げているのか、保育、教育、住宅に焦点を当てて比較してみる。7月2日に迫る投票日に向けて、投票先を考える材料にしてもらいたい。

(1)待機児童の解消 《認証保育所か認可保育所か》

2016年、東京都の待機児童数は8466人となっており、子育て世帯にとって、待機児童の解消は死活問題である。そこで、待機児童解消に向けた政策として、保育所の増設に関する政策を比較してみよう。

保育所増設
保育所増設

自民党、民進党は「大都市特有の多様な保育ニーズに対応」するため、認証保育所の増設を拡充していく方針だ。他方で、共産党は、認可保育園の9万人分の増設を目指している。公明党は、認可保育所や認証保育所、認定こども園や保育ママなど、多様な制度を拡充することを目指している。都民ファーストの会は、都知事の実績が強調されているものの、待機児童解消に向けた保育所増設の具体的な政策は見あたらなかった。

ここで論点になっているのは、認証保育所と認可保育所の違いである。認可保育所は、児童福祉法に基づく児童福祉施設で、国が定めた設置基準(施設の広さ、保育士等の職員数、給食設備、防災管理、衛生管理等)をクリアして都道府県に認可された施設を指す。

認証保育所は、東京都が独自で定めた保育園の制度だ。都民のニーズに応えられるよう独自の「柔軟な」設置基準を定め、多くの企業の参入を促し事業者間競争を促進することで、多様なニーズに応えることを目指している。

認可保育所と認証保育所はどう違うのか?

利用に際して、それぞれどのような違いがあるのだろうか。第一に、責任主体が異なる。認可保育所の場合、行政が保育サービスの提供に責任を持つことになっている。そのため、たとえば保育所が閉園になった場合、子どもの転園先確保は行政の責任となる。ところが、認証保育の場合、あくまで民間事業として位置付けられているため、閉園になった場合の転園先は、自己責任で探さなければならない。

第二に、保育料が異なる。認可保育所は、所得に応じて利用料が決まる。所得が低ければ利用料は低く、逆に高ければ利用料も高くなる。認証保育所の場合、上限は定められているものの、利用料は事業者が自由に決めることができる。そのため、低所得者層が利用するには厳しいケースもあるだろう。

認証保育は、民間事業者と利用者の契約をベースにした制度設計になっているため、行政がサービスの提供や質に責任を負っている認可保育所とは異なるという認識は必要だろう。

(2)教育 《学費、奨学金、給食費》

つづいて、教育に関わる政策を見ていこう。東京に限らず、日本は教育費負担が非常に重いことで知られている。各政党は、この教育費負担を軽減する独自の政策メニューを提出しており、子育て世帯にとっては重要な論点となる。ここでは、学費・奨学金・給食費の三つの観点から政策を比較してみたい。

教育費負担
教育費負担

高校の学費

まず、私立高校の無償化に言及しているのは、公明党、民進党、共産党である。現在は、年収760万円未満の世帯に対し授業料無償化の拡大がおこなわれている。この年収上限の引き上げや、教育費負担の軽減が掲げられている。

また、自民党、民進党は、中学・高校3年生に向けて学習塾や受験料などの「無利子貸付」を低所得世帯の子どもへの「支援」として掲げる。都民ファーストの会は具体的な記載がない。

奨学金制度

次に、奨学金政策についてみていこう。日本の奨学金制度は先進諸国でも異例の「貸与型」が中心となっている。返済が困難なために、そもそも低所得者層が借りられなかったり、返済困難に陥るケースが増大し、社会問題化しつつある。この奨学金制度も、自治体独自の取り組みが可能な政策メニューの一つだ。各政党は、どのような態度をとっているのだろうか。

東京都独自の「給付型」奨学金について、民進党と共産党が言及している。両党とも、具体的な対象範囲や金額等は明示されていないが、「給付型」奨学金の創設を明言している。なお、自民、公明、都民ファーストの会は、奨学金制度については言及していない。

給食費無償化

子どもの貧困と絡んで問題になっているのが、給食費の滞納問題だ。低所得世帯の多くは、給食費支払いが大きな負担となっている。すでに全国の約2割の自治体で、すべての子どもに対し給食費の無償化を導入している。これが、今回の都議選においても一つの争点になってよいはずだ。具体的に比較してみよう。

給食費の無償化を掲げているのは、自民、公明、民進である。共産党は、給食費の負担軽減という表現がなされている。都民ファーストの会は、ここでも言及がない。

(3)住宅政策 《都営住宅と家賃補助》

住宅政策について見ていこう。東京都に暮らす人々にとって、家賃負担の重さは日々実感しているところだろう。今回の都議選では、各政党が家賃負担を軽減するための施策を打ち出している。ここでは特に都営住宅と家賃補助の政策を比較してみたい。

住宅政策
住宅政策

都営住宅のような公的に提供される住宅は、家賃も相場より低く、都民の安定した住居を確保するという意味でセーフティネットの役割を果たすと言われている。しかし、現状では、一般世帯の入居倍率は数百倍と極めて高く、入居が困難になっている。

都営住宅に関する政策を比べてみよう。自民党は建て替えと、子育て世帯の都営住宅への受け入れ拡大を掲げている。民進党は、都営住宅を建て替えたり新たに建設するよりも、空き家をはじめとした民間賃貸住宅を活用した住まい確保を掲げている。共産党は、17年間凍結されている都営住宅の新規建設の再開と、民間賃貸やUR住宅の空き家を「借り上げ型都営住宅」にするという提案をしている。都民ファーストの会は、建て替えや多様な都営住宅における多様な世帯構成の促進を掲げている。公明党はとくに言及がなかった。

新規建設あるいは空き家活用などで都営住宅の量的な拡大を図っているのは、主に民進党、共産党だ。

家賃補助

日本ではまだあまり馴染みがないが、ヨーロッパなどでは低所得者向けに家賃補助が行われている。今回の都議選では、この家賃補助を政策として掲げている政党がいくつかある。

公明党は、認知症グループホームに入所できるよう低所得者に対する家賃助成を行うこと、商店街の空き店舗を活用した起業支援として若者や女性に対する家賃補助制度を提案している。民進党は、「子育て応援!家賃補助」と「老後安心!家賃補助」制度を創設し、月額4万円という具体的な数字もあげている。共産党は、低所得者の若者、ひとり親や高齢者に向けた家賃補助制度の創設を掲げている。自民党と都民ファーストの会はとくに言及がなかった。

自治体選挙のなかで、このような家賃補助制度が政策として掲げられていることは非常に興味深い。仮に東京都で家賃補助制度が実現すれば、全国に波及する可能性もゼロではないだろう。

都議選公開質問状プロジェクト

最後に、私が代表を務め、労働相談を受け付けているNPO法人POSSE、市民団体のエキタス、若手の労働組合である首都圏青年ユニオンとプレカリアートユニオン、貧困問題に取り組むNPO法人もやいは、連名で下記三つの質問を各会派に投げかけている。

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そして、下記が質問状への回答をまとめたものだ。

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自民、公明、民進、共産、生活者ネットからは、これらの質問に対して回答が届いているが、いまだに都民ファーストの会、維新の会からは回答がない。こちらの回答もぜひ投票の参考にしていただきたい。

【参考】

●自民党「TOKYO自民党政策提言CSC」

●公明党「2017東京都議選に臨む重点政策」

●民進党「都民とともに進む「東京政策2017」」

●共産党「2017都議選の訴えと重点公約」

●都民ファーストの会「都民ファーストの会政策パンフレット」

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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