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「勉強」、「研修」は労働時間か? 電通でも横行した脱法行為への対処法!

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

新年度も約1ヶ月が経過し、新入社員の方々は仕事に少しずつ慣れてきた頃だろう。なかには、早くも「この勤務先はブラック企業なのではないか?」と不安になり始めた人もいると思われる。

そんな不安を抱くポイントの一つに、出勤時間前や退勤時間後に、職場で事実上強制される「勉強」や「研修」があって、賃金が支払われないというケースがある。「給料が払われないのに、なんで出なければいけないのだろう」と思いながら、嫌々参加している人も多いのではないだろうか。

折しもニュースでは、昨年末に労働基準法違反で書類送検された大手広告会社の電通に対して、「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)が立件に手を焼いていることが報道されている。取引先を接待する「飲み会」や、その後午前4時まで先輩から「説教」される「反省会」などがあったが、それを労働時間として立証するのが困難だというのだ。

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「飲み会」を労働時間として認めさせるのは難しいかもしれないが、「反省会」は業務のために行われる時間であると考えられる。こうした「反省会」や「勉強」、「研修」は勤務時間内に行われていても、何ら不思議ではない。

問題は、電通に限らず多くの会社では、勤務時間の前や後という「微妙なタイミング」でこれら行い、賃金を払われないことが多いということだ。

しかし、あきらめてしまうのは早い。こうした勤務時間外にされる「勉強」や「研修」も、条件と証拠さえそろえば、労働時間として認定され、賃金が払われるべき業務と判断される。ただし、そのためには準備が必要だ。そして、その準備をするには、入社して間もないいまが、絶好のタイミングなのである。

■「自発的に参加していた」が会社の常套句

「勉強」や「研修」が労働時間として認められなかった、典型的な例を紹介しよう。

ある大手住宅メーカーで営業職として働いていたAさんは、長時間労働や上司からのパワハラなどで体と精神に支障をきたし、会社を退職した。退職から数ヶ月が経過し、ようやく立ち直り始めたAさんは、会社に対して何らかの請求をしようと思い労基署に相談した。そこで被害を列挙する中で、賃金の払われない「勉強会」が毎日必ず1〜2時間程度あったことを思い出したという。Aさんは当時、「給与が払われなくても、参加するのが当然だ」と思っていたが、あれも労働時間なのではないかと考えなおし、会社に未払い賃金分を請求することにした。

ところが、会社は「あの勉強会は社員による自発的なものであり、労働時間ではありません」と支払いを拒否した。自分は強制だと思って参加していたとしても、会社に否定されてしまえば、それに反論しなくてはならない。しかしAさんは、在職中は一心不乱に働いていたため反論する証拠を集めているはずもなく、途方に暮れてしまった。

このように、「勉強」や「研修」の賃金請求をされた会社が、「強制などしていないが、労働者が自分の意思で参加していた」とか、もっとひどいと「そもそもその時間に労働者が研修を受けていた事実はない」などと主張をしてくることは、残念ながら珍しいことではない。

それでは、こうした「勉強」や「研修」を残業として認めさせるには、どうしたらよいのだろうか。

■残業時間として判断されるポイントは何か?

まずは、労働者の行為が労働時間として判断されるための、法律上のポイントを整理しよう。

一言で言えば、会社との契約や就業規則などの取り決めとは関係なく、客観的に使用者の「指揮命令下」に置かれているかどうかだ。問題は、この「指揮命令下」とはどういう場合を指すのかだ。今年1月20日に、厚労省が「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を提示しているので、引用してみよう。

「客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものである」

さらに、この厚労省のガイドラインでは、労働時間として認められる具体例として、「参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間」を挙げている。

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」

要は、その行為が会社から義務づけられたり強制・指示されたりしていれば、呼び名が「研修」「訓練」「学習」であろうと、法律上の労働時間なのである。逆に本当に「任意」であれば、労働時間ではないということだ。この判断こそが、賃金が払われるかどうかの分かれ目なのだ。

■何が「義務」や「強制」なのか?

では、具体的にどのような場合に、「勉強」や「研修」において、「義務」や「強制」だと考えられるのだろうか。判例の水準で考えてみよう(以下、日本労働弁護団『働く人のための労働時間マニュアルVer.2』、旬報法律事務所『未払い残業代請求 法律実務マニュアル』などを参照)。

まず、会社が実施する教育や研修、訓練、小集団サークル、QC活動などはどうだろう。これらは、出席しなければペナルティが科されたり、不参加の理由を聞かれたり、人事評価に関わったりするのであれば、強制であり、労働時間であると判断される。

社内の昇進試験や、資格試験への参加はどうだろうか。これは、業務遂行上資格取得が不可欠であったり、受験しないことでマイナス人事評価がなされたりなど、事実上の命令である場合には、労働時間であると判断される。

では、以上の事実が存在すれば、労働時間として賃金が払われるのだろうか。残念ながら、もう一つのハードルが待ち構えている。前述の典型例のように、会社が「事実関係そのものを否定してくる」というハードルである。

■「義務」や「強制」を証明するための証拠

それに対抗するために必要なのが、労働者側が記録する証拠である。「義務」や「強制」を証明することができる証拠は、どのようなものだろうか? ポイントを三つに整理しよう

(1)何時から何時までその行為をしていたのか

まずは、具体的な労働時間だ。何時から何時まで「研修」「勉強」をしていたのか、労働時間の記録をつけておくことが大前提だ。これがなければ「会社にはいなかった」と反論されてしまう。タイムカードがなかったり、不正確だったりという場合には、作業開始時・作業終了時のパソコンの画面や社内の様子をカメラで撮影しておいたり、業務日報をコピーしておいたりすることも役に立つだろう。

(2)(1)の時間に具体的にどのような行為をしていたのか

次に、(1)の時間帯に行っていた、具体的な行為の内容を記録しておこう。「その時間帯にその行為をしていたとは限らない」という会社側の反論もよくあるので、それに備える必要がある。

業務日報があってそこに記入できるのならよいが、退職後に会社が提示してくれない場合も多いので、コピーしておこう。もし使用していたテキストや資料などがあるのなら、その時間帯にどこまで進めたのかをわかるように毎回書き込んでおいて、コピーをとるなどして保存しておこう。研修の様子を毎日録音しておくのも有効だ。

(3)どのように義務付けられ、強制されていたのか

そして、肝心の「義務」や「強制」の証拠である。思いつくものを例示してみよう。

  • 会社が「研修を行いますので、新入社員は参加してください」などと積極的な参加を呼びかけたり規定したりしている社内メールや書面があれば、コピーしておく。
  • 同様に、「新入社員はこの資格を受験してください」という指示や規定があれば、コピーしておく。
  • 毎回の研修や勉強会の結果を上司に提出するための報告書やメールがあれば、コピーしておく。
  • 上司に「参加しないとどうなるのでしょうか」「受験しないといけないのでしょうか」と聞いてみて、回答をスマートフォンやICレコーダーなどで録音しておく。メールでの質問もいいだろう。「出ないとダメに決まってるだろ!」「自発的だけど、みんな参加してもらっています」「やらないと査定に響くよ」などの回答があれば、強制と認められやすい。
  • 実際に参加を断ったときに、上司に「なんで参加しないの?」などと執拗に聞かれたり、怒られたりするのなら、それも録音しておこう。
  • 参加しなかったことで上司に怒られている人がいれば、さすがにその瞬間を録音するのは難しいかもしれないが、「○○さんは怒られてましたね」などと上司にそれとなく理由を聞いて、「出ていなかったから当然だろ」などの回答を録音する。

上記のような質問は、新入社員のうちのほうが尋ねやすく、答えてもらいやすいだろう。指示が明確に行われるのも、最初のうちだろう。長く働き続けていると、わざわざ毎回指示されなくても、参加することが当然になってしまう。

だからこそ、入社直後の「備え」が重要なのだ。こうした証拠をそろえておけば、働いている間は問題にできなくとも、転職する際に未払い分を2年間分まとめて請求することができる。

もちろん新入社員ではなくても、証拠を記録できる可能性はある。また、職場によっては証拠の取り方も異なるだろう。まずは、疑問に思った段階で、専門家に相談してみてほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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