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都知事選主要候補の若者・福祉の「政策」比較 具体性に乏しい三候補 

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

7月31日に東京都知事選挙が行われる。東京はヨーロッパの小国に匹敵するほどの人口と財政を抱える巨大な都市で、世界最大の首長選挙とも言われている。議会と知事それぞれが住民の投票によって選ばれる二元代表制を採用しているため、都知事だけで東京都の政策がすべて決定されるわけではないが、それでも都民の生活に与える影響は決して少なくない。

しかし、どの候補がどのような政策を掲げているのか。わたしも一有権者として選挙戦を見守っているが、テレビ討論などを通じた政策論争もあまり行われておらず、いまいち政策が見えてこないというのが正直な実感だ。

そこで、今回は都知事選挙に立候補している主要三候補について、主に若者と労働、福祉に関連する政策を比較してみたい。各候補のホームページなどで掲げられている政策を表にまとめた。

都知事選主要三候補の若者、労働、福祉政策の比較表

福祉は待機児童の解消が争点に

福祉関連政策から見ていくと、どの候補も「待機児童の解消」を解決策として重要視していることがわかる。

目的・手法ともにもっとも具体的なのは小池氏だ。小池氏は、待機児童解消のため、「あらゆる都内遊休空間を利用し、保育施設」を拡充することを明記している。他方で、既存の保育所の「受け入れ年齢、広さ制限などの規制を見直す」という規制緩和的方法によって待機児童の緩和についても言及している。

しかし、設置基準などの規制は安全な保育を可能にするためのものだ。安易に規制を緩和していけば、保育の質を低下させかねない。この点についてどれだけ配慮がなされているのか疑問が残る。

また、保育ママ・保育オバ・子供食堂などのインフォーマルな地域資源を「活用」した育児支援を構想しており、自治体の責任で行われる「公助」よりも「共助」を強調した政策であることがわかる。

もちろん、「共助」が社会において必要であることはいうまでもない。だが、過剰な「共助」の強調は、結局は要支援者が、支援を受けられるかどうかを不安定なものにもしかねない。貧困者の多い地域ほど「共助」は難しくなるという問題もある。

他方で、鳥越氏は「子育て・介護に優先的に予算を配分」することを謳っており、小池氏とは異なる福祉拡充路線であることがうかがえる。しかし、具体的にどれくらいの予算を配分するのか、どのようにしてそれを実現するのか、その点については、少なくとも公開されている情報からは何もわからない。

増田氏は「待機児童解消・緊急プログラム」の策定を掲げ、一見具体的な対策を用意しているようにも思われるが、言葉が躍るばかりでその中身がわからない。中身を示してもらいたい。

若者・労働に関する政策

この点についても、相対的に具体的なのは小池氏である。

* 「残業ゼロ」などライフ・ワーク・バランスの実現を、都庁が先行実施する。

* 満員電車をゼロへ。時差出勤、2階建通勤電車の導入促進。

* 都独自の給付型奨学金を拡充し、英語教育を徹底する。

「残業ゼロ」を都庁から実現することが公約として掲げられている点は評価できる。

だが、問題は「どのように実現するのか」である。職員の増員などの具体策を欠いたまま「残業ゼロ」と叫んだところで、実際に残業がなくなるはずはない。対外的に「残業ゼロ」を叫ぶ企業で持ち帰り残業が横行していることもある。この点については、有権者に突っ込んで聞いてもらいたいと思う。

また満員電車の解消は、やや思いつき感がある。2階建通勤電車の導入は、過去JRが実施して失敗に終わったことはよく知られている。わかりやすい政策ではあるが、こちらも、実効性をどれだけ検証しているのかに疑問が残る。

小池氏の若者支援策として注目したいのが「都独自の給付型奨学金の拡充」である。東京都には大学が多く、貧困からブラックバイトに苦しむ学生も多い。給付型奨学金の拡充は期待したい。しかし、これもどれだけの規模になるのか、利用条件はどうか、などに詰めるべき点は多い。

一方で鳥越氏は、小池氏とは対照的に政策が多く並べられているのだが、具体性に欠ける。たとえば、最低賃金の引き上げは重要な課題だが、東京都だけで決められるものではない。この点について、立候補を断念した宇都宮氏は都の公契約条例によって、都の取引先企業に義務けることや、都として国の最低賃金政策に働き掛けることを具体策として表明していた。

鳥越氏は掲げる政策をどのように実現していくのか、そのプロセスを示すべきだろう。

最後に増田氏は、労働についてほぼ言及していない。ブラック企業やブラックバイト問題、非正規雇用の貧困など、労働問題については選挙の争点にしない構えのようである。

具体的な「政策論争」を!

見てきたように、具体性という点では相対的に小池氏が強い。私見では、小池氏が主張する規制緩和や「共助」の強調はよい政策だとは思われない。だが少なくとも、こうした政策から是非の「判断」を有権者ができるだけ、他の二氏よりも具体関な政策を展開している。

ただ、その具体性もあくまで「相対的」であり、全体として政策の有効性や実現可能性については、「ぼんやり」としている。

これに対し、増田氏、鳥越氏は「政策」によって是非を判断することが、少なくとも公表されている資料からは困難である。

小池氏と積極的に論争して、政策的違いを明白にしていくべきだろう。また、有効性や実現可能性について、メディアなどを通じて有権者に対してしっかりと説明していくことが必要だ。

まだ投開票日まで時間はある。各候補者間で積極的に討論し、政策的な議論が深まることを期待したい。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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