内野の要であるショートのポジション、「遊撃手」の名称が示す通り求められる役割は多岐に渡る。アマチュアでは最もセンスのある選手が任せられることが多く、プロの世界に飛び込んでくるショートの選手は身体能力に優れた若武者ばかりだ。そんな競争の激しいポジションで長くレギュラーを張れるのはほんの一握りの名手だけ。そして名ショートとして活躍した選手であっても晩年はサードへコンバートされるケースが多い。広い守備範囲を誇り10年以上巨人のショートを守ってきた坂本勇人にもその時が刻一刻と迫っているかもしれない。

名ショートの目安は簡易RF4.5以上

 守備力は失策数や守備率で比較されることが多いがそれでは守備範囲まではわからない。若手の頃なら追いついていた三遊間の打球がレフト前に抜けていっても記録に残らないからだ。RF(Range Factor)は1試合でどれだけアウトに関与したかを示す指標で(補殺+刺殺)÷守備イニング×9の式で計算される。しかしNPBの公表データに守備イニングが含まれていないため簡易版のRFとして(補殺+刺殺)÷試合数を代用する。これはゴロを打たせるタイプの投手が多いチームなら高くなりやすく、奪三振能力に優れた投手陣を抱えるなら野手の守備機会が減るため低い数値になりやすい。そういった外的要因はあるものの目安の1つにはなるはずだ。ショートなら簡易RFが4.5以上で守備範囲が広い名手と判断出来る。

 守備の名手として知られる宮本慎也(元ヤクルト)は簡易RFが4.7や4.8台のシーズンが複数あり、キャリアハイは2001年の4.98。荒木雅博(元中日)とのアライバコンビで鉄壁の二遊間を形成し通算守備率.991を誇る井端弘和(中日)も簡易RF4.9台を2度マークした。パリーグでは小坂誠(元ロッテ)が1998年から2003年まで6年連続で簡易RF5超えという離れ業を成し遂げている。

 坂本も偉大な先輩たちに負けていない。プロ2年目の2008年にショートのレギュラーをつかむと144試合に出場。この年の簡易RFは4.31だったが3年目には4.83と大きく数値を伸ばす。打率も3割に乗せ攻守の中心選手へと成長すると4年目以降、2018年まではほとんどのシーズンで簡易RF4.7以上の高数値を記録していた。

今季か来季がチーム編成のターニングポイントか

 打てるショートでありながら広い守備範囲でもチームに貢献していた坂本だが簡易RFは2019年に前年の4.7から3.92へと大きく数値を落とす。過去5シーズンの巨人投手陣の1試合平均奪三振数は2017年から順に7.64、7.51、8.01、7.52、7.75。坂本の簡易RFが大きく下がった2019年は奪三振率が高かったシーズンと重なる。これが一因とも考えられるがそれにしても下がり幅が大きい。加えて2020年と昨季は例年と同じような奪三振率だったにもかかわらず、坂本の簡易RFは4.11と3.83で低いまま。守備率はどちらのシーズンも.991でリーグトップを記録しているが守備範囲の観点からはショートゴロが1つ減り、被安打が1本増えたとの見方も出来る。これは見逃せない問題だ。攻守両面での安定感と試合に出続けるタフさもあった鳥谷敬(元阪神)でさえ簡易RFは2013年の4.78から2014年に3.97となり、そこから4.10、3.75と低調なシーズンが続き2017年にはサードへとポジションを移した。宮本も簡易RFが2005年の4.87から2006年は4.04と悪化し、2007年は3.98と4.0を割った。2008年の出場機会はショートとサードがほぼ半々で2009年からはサードに固定された。どうやら簡易RFは緩やかに下降するのではなくあるシーズンにガクッと数値を下げると、再び以前の水準を記録することは難しいようだ。

 巨人にとって坂本が欠かせない存在であることには変わりない。センターラインを守る選手でありながらインコースを捌く天才的な打撃技術と主軸を務める長打力は大きなストロングポイント。ただし簡易RFの下がった要因が腰や足の一時的な故障でない限り、大幅に改善される可能性は薄いと思われる。昨季の開幕直前に行われたヤクルトとのトレードで田口麗斗を放出してまで廣岡大志を獲得した裏にはそんな懸念があったのかもしれない。コンバートするにしても巨人のサードには主砲の岡本和真がいる。ならばセカンドに回るのか、あるいは坂本がサードで岡本がファーストに就くのか。はたまたこれまで同様、ショートとして若手の挑戦を跳ね返すのか。いずれにせよ今季か来季が巨人内野陣の大きなターニングポイントとなりそうだ。