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京大アナリストがアマチュアトップ投手のデータを読み解く。廣畑のストレートはプロでまだ伸びる。

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

野球界にとって画期的な取り組み。トップ選手のデータを公開

 「球速表示以上にキレがある」「手元でホップしている」

 質の高いストレートの表現として感覚的に使われてきたこれらの言葉がテクノロジーの進化によりはっきりと数字で示せるようになってきた。9月17日には全日本野球協会が侍ジャパン社会人代表候補選手の詳しいデータを公表した。名前を見れば注目のドラフト候補や社会人野球ファンにとってはお馴染みの好投手ばかり。アマチュアトップクラスの投手のデータを誰もが閲覧可能となったことは野球界にとって大きな一歩だ。

「PROSPECT PLAYERS LIST(代表候補者リスト)」

出典は「全日本野球協会ウェブサイト」

 球速と回転数は馴染みがあるが、その他の数値はどう読み解けばいいのかは専門家でなければわからない。そこで投球解析に詳しく、京都大学で学生アナリストを務める三原大知(3年・灘)に解説してもらった。ただし三原は実際の投球を見たわけではないし、何球計測したのかや計測時の各投手の調子もわからない。あくまでも数値からこのような特徴があるのではないかという見方が出来る、という一つの見解に過ぎないことはご了承ください。

 前提知識としてホップ成分については「オーバースローやスリークォーターの上から投げるタイプの投手だと平均40センチぐらい。50センチを超えると伸びるまっすぐになります。東京六大学の方に聞いたのは50センチを超えると被打率などまっすぐの成績が一気に良くなるそうです。腕が低いサイドスローとかだとオーバースローの平均の40センチでも伸びるように感じます」シュート成分については「オーバースローやスリークォーターの投手だと15〜20センチぐらいが一般的なストレート。まっすぐと言ってもシュート回転しているので、0回転のボールより15〜20センチシュートする球が、いわゆる綺麗なまっすぐと言われています。その値が10センチ以下になると0回転のボールと比較すると実際にはシュートしているんですけど打者目線ではカットボールのように感じます」そのため横変化の場合は特に、変化量が多いから良いとは限らないらしい。

廣畑のストレートは「もっと上に行ける余地があるんじゃないかな」

 リストを見てもらうとまず目についたのが青野善行(日立製作所)だった。

最速 143.8

平均 141.8

回転数 2162

ホップ成分 53.8

シュート成分 3.8

 「完全にオーバースローなんじゃないかなと思うんですけど、綺麗な縦変化のまっすぐを投げているのかな。スピードがそんなに速いわけじゃないんですけど打ちにくいピッチャーなんじゃないかなと思います。この投手が一番特徴として目に入りますね」球速は140km/h台前半ながらホップ成分53.8センチはデータが公表された代表候補選手32人の中で堂々の1位。右の本格派としての姿が浮かび上がる。

 来週に迫ったドラフトの目玉選手の1人でもある廣畑敦也(三菱自動車倉敷オーシャンズ)についてはどうだろうか。

最速 153.3

平均 150.2

回転数 2524

ホップ成分 42.8

シュート成分 25.9

 「ブルペンで平均150km/hというのが理解出来ない。2500回転もかなり多い。ホップ成分とシュート成分は数字的にはプロでまっすぐだけで圧倒出来るほどではないかな。回転数は多い方がいいんですけど、回転軸が綺麗じゃないと無駄が生じるんで、廣畑投手は回転軸の綺麗さとかでもっと上に行ける余地があるんじゃないかなと思います、数字的に見ると」数値から球質をある程度イメージすることは可能。社会人屈指のストレートはまだ改善の余地が残されているようだ。

 廣畑がパワー系の右腕ならキレとコントロールで勝負するタイプの渕上佳輝(トヨタ自動車)はどう見るか。

最速 143.8

平均 143.0

回転数 2310

ホップ成分 44.7

シュート成分 28.1

 「平均と最高の球速差が少ないところからコントロール良いのかなと想像つきます。そこが長所だと思います。何球計測したのかわからないですけどムラがないピッチャーはコントロールも良いことが多いです。ボールとしての伸びもあると思います」

 リストの中で個人的に気になったのが津山祐希(JFE西日本)。ホップ成分が1人だけマイナスになっている。これはどう理解すればいいのだろうか。

最速 125.0

平均 123.2

回転数 1699

ホップ成分 −3.4

シュート成分 42.2

 「多分、サイドかアンダーじゃないですか。サイドスロー投手はマイナスになることもあります。完全にゴロピッチャーだと思います」巧みに変化球を操るサブマリンの強みは数値にもしっかりと現れていた。

 「ホップ成分が大きいと高め、低めどちらにも有効に働くんですが、高めではポップフライや空振りは取れやすくなります。値が小さいと長打のリスクが出てくるんですが、ホップ成分の大きい投手は高めのまっすぐで特に強みを出せるかな」これまでは低めに投げ込むことが正義とされてきたが、高めのストレートで空振りを奪う組み立ての有効性も注目され始めている。それは誰もが使えるわけではなく、適性は球速よりもホップ成分で判断されるべき。球速以外の判断基準が出来たことで選手評価や配球が見直される日も近い。野球界は新たな時代の幕開けを迎えている。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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