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プレーヤー表彰で野球殿堂入りの伊東監督は采配力も超一流

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年
WBCでもコーチを務め連覇に貢献した伊東監督(写真:ロイター/アフロ)

先日、西武黄金時代を支えたロッテの伊東監督が競技者表彰のプレーヤー表彰で野球殿堂入りを果たした。入団3年目に正捕手の座をつかむとリーグ優勝14回、日本一8回という輝かしい実績を残しベストナインを10回、ゴールデングラブ賞は11回受賞。名捕手として一時代を築いた。

さらに現役引退後即西武の監督に就任すると1年目の2004年にリーグ2位からプレーオフを勝ち上がり日本一を達成。華々しい監督業のスタートとなった。だがその後は指揮を執った西武、ロッテ共にコンスタントにAクラス争いはするものの優勝経験は無く、選手時代の栄光と比べると監督としての手腕が大きな注目を集めることはほとんどなかった。打撃、投球などプレーがハッキリとした成績となって表れる選手と違い監督の采配力は主観で判断されがちな曖昧なものだがこれを客観的に比較することは出来ないだろうか。

伊東監督は継投策で通算13勝上積み

統計学の観点から野球を分析するセイバーメトリクスには得点と失点から妥当な勝率を導き出すピタゴラス勝率という計算式がある。(得点の2乗)÷(得点の2乗+失点の2乗)で計算され得点と失点が同じなら5割、得点が失点を上回れば勝率が上がり、失点の方が多ければ低くなる仕組みだ。当然、大勝ちした試合が多くなるとその分ピタゴラス勝率は高くなる。昨季優勝した広島はセリーグ断トツの684得点で89勝を挙げているがピタゴラス勝率の計算上では92勝していてもおかしくない。逆に実際の勝率がピタゴラス勝率を大きく上回るのは僅差の試合を多く競り勝った時。つまり、継投がハマった時だ。ならばピタゴラス勝率以上の勝率を挙げている監督は継投策に長けていると考えられないだろうか。昨季の成績でピタゴラス勝率に基づく勝利数と実際の勝利数の差は

広島 −3.28

巨人 4.16

DeNA 0.93

阪神 −0.68

ヤクルト 3.96

中日 −2.52

日本ハム −2.22

ソフトバンク −4.51

ロッテ 1.88

西武 −6.11

楽天 4.75

オリックス 3.55

ロッテの1.88は飛び抜けて高いわけではない。しかし対象を昨季だけでなく過去3年に広げると全てでプラスの数値を出しているのはロッテだけだ。しかも数値は1.88、2.25、5.14とギリギリではなくしっかりとしたプラスになっている。伊東監督はロッテ1年目だけは−1.52とマイナスになっているが4年間トータルで7.75勝もピタゴラス勝率で予想される勝ち星よりも多い勝ち星を挙げている。西武の監督時代も4年中3年でプラスの勝ち星を挙げトータルではピタゴラス勝率の勝ち星より5.28勝多い。2球団で合計13勝も上積みしたのは捕手出身監督だからこそなせる業だろうか。

攻撃面でも極めて優秀

伊東監督の手腕の高さは他にもある。ピタゴラス勝率と実際の勝率との対比を継投策に関する評価とするならば、RCと実際の得点との対比を攻撃面に関する評価と考えることも出来る。RCとはその打者が何点分の得点を生み出したかを示す指標。過去の統計から安打1本、四球1つの得点価値は算出されており、例えば2年連続トリプルスリーを達成したヤクルト・山田の昨季のRCは123.5点。590打席で146安打を放ちその内二塁打が26本で盗塁を38個成功させ・・・などの各種打撃成績を得点価値に換算したものがRCだ。

見方を変えればチームRCとはこの打撃成績のチームならこのぐらいの得点を挙げているはず、というようにも考えられる。RCは得点よりも大きくなることがほとんどだがその割合が100%に近ければ無駄の少ない攻撃が出来ていると言えるだろう。例えば、同じ550得点のチームがあったとしてもRCが570点のチームと600点のチームでは得点効率が違うはずだ。昨季のRCに対する得点の割合は

広島 94.6%

巨人 91.1%

DeNA 100%

阪神 95.5%

ヤクルト 96.1%

中日 95.2%

日本ハム 93.8%

ソフトバンク 98.8%

ロッテ 99.8%

西武 93.9%

楽天 95.1%

オリックス 92.1%

限りなく100%に近い得点効率を叩き出した伊東監督は2015年シーズンも98.6%と非常に高く、2014年シーズンも95.5%とかなり優秀。3年続けて90%台後半を維持しているのは12球団で1人だけだ。

伊東監督はピタゴラス勝率より高い勝率を挙げつつRCにほど近い得点を挙げている。それぞれ間違いなく優秀なのだが特筆すべきはそれを両立させていることだ。これはさらに難易度が高くなる。なぜなら安打の割に思うように得点が入らないという苦しい試合を何とか凌ぎ切るとピタゴラス勝率より高い勝率になっても得点効率は落ちる。逆にそつの無い攻撃を繰り返し点差の開いた勝ち試合が多くなれば(もちろん理想はこれなのだが)、計算上ピタゴラス勝率が実際の勝率より高くなりやすいからだ。

ロッテにはDeNA・筒香のような大砲や日本ハム・大谷のようなスーパースターは見当たらない。昨季は角中が打率.339で自身2度目の首位打者に輝いたがどちらかと言えば玄人好みのしぶい選手。戦力的に他球団を大きく上回っているわけではないのにきっちりCSに進出している。それには攻守共にチームの力を最大限引き出す伊東監督の采配も大きな要因になっている気がしてならない。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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