【インタビュー】女子バスケ界注目の異色コーチ恩塚亨。モットーは「今できることのベストを尽くす」

東京医療保健大を2連覇に導いた恩塚亨ヘッドコーチ(写真/小永吉陽子)

大学バスケ部を創部し、日本代表のアナリストを兼務

 昨年度、インカレ2連覇を達成した東京医療保健大。愛知学泉大との決勝ではチームが目指す「コート上の5人が呼応して連動するバスケ」で魅了しての優勝だった。創部13年目で2度の大学日本一に導いた恩塚亨ヘッドコーチ(以下HC)は、現在女子バスケットボール界で注目を集める若手指揮官である。

 

 筑波大学卒業後、2002年に渋谷教育学園幕張高で教員とコーチのキャリアをスタートさせ、2006年に東京医療保健大女子バスケ部を立ち上げ、HCに就任。同時期に女子日本代表のテクニカルスタッフ(試合分析と映像編集)としての活動を開始し、2007年からは正式に日本代表のアナリストとして就任し2012年まで活動。2015年にはベスト4入りを遂げたユニバ―シアード代表のアシスタントコーチを務め、2016年には再び女子代表のアナリストとしてリオ五輪に帯同。2017年からは女子代表のアシスタントコーチに就いてアジア3連覇に貢献。東京医療保健大では4部からスタートしたチームを13年間で二度の日本一に導いている。

 ここまで紹介すると、順調かつ、ものすごい速度でキャリアを積んでいるように見えるが、今に至るまでには『異色』ともいえる経歴を歩んできている。興味深いのが、大学の創部も女子代表のアナリストも、自身の売り込みから始まっていることだ。

 渋谷教育学園の関連法人校として東京医療保健大が2005年に開学したことを機に、大学でバスケ部を立ち上げて指導することを決意。高校が進学校だったため、熱の入った指導に保護者から「勉強が疎かになるのでは」と不安視する声が聞こえてきたからだった。「僕は選手が熱い気持ちで打ち込める環境を作りたかったので、大学に企画書を4回くらい提出して女子バスケ部の創部を直訴しに行きました」という熱意によって創部が実現するが、行動はそれだけに留まらない。「日本代表の仕事がしたい」と、これまた直訴しに行ったのだ。

「その頃の自分には実績が何もなかったので、選手のリクルートもあまりできませんでした。まずは自分自身が力をつけなければならないし、バスケをやるからには日の丸をつけて仕事がしたいという思いから、当時ヤングウーメン(U21)のヘッドコーチだった梅嵜英毅さん(アテネ五輪、リオ五輪時は女子代表のアシスタントコーチ)に『何でもやります』とお願いし、テクニカルスタッフとして受け入れてもらいました。大学でチームを立ち上げたことも、日本代表のスタッフも最初は不安がありましたが、チャレンジすると覚悟を決めてやったので、今につながったのだと思います」と、みずから門を叩いたことで道を切り拓いてきた。

 恩塚HCの得意分野は、現在の指導スタイルとなっている試合分析と映像編集にある。2006年当時は日本代表でも映像分析は今ほど進んでいなかったこともあり、得意分野を生かすことで信頼と経験を積み上げていったのだ。いまや女子バスケ界ではコーチングから分析までを兼任する指導者として欠かせない存在。今、女子バスケ界で注目を集める若手指揮官のフィロソフィーとインカレ2連覇の要因に迫る。

「完成度80%の中の100%」で達成したインカレ2連覇

――怪我人が多くて苦労したシーズンでしたが、大会中に修正しながらチーム力を高めていきました。決勝で対戦した愛知学泉大を制した勝因は?

インカレは全員が揃って最初の最後の大会で、ようやく自分たちのバスケができました。チームの完成度としては80パーセントかもしれないけれど、その中の100パーセントを出そうと、それをやりきったファイナルでした。

1Qは自分たちのバスケができたんですけれど、2Qに相手にリバウンドを取られて主導権を握られてからはオフェンスができなくなり、苦しい展開になりました。ハーフタイムに自分たちのやってきたことを確認して、リバウンドが勝負であることと、流れをつかむためにはもう一度ディフェンスからプレーしようとして、そこで立て直して頑張ってくれました。「自分たちにできることは何か」と考えて向き合い、それをやり抜いた結果が勝利につながったと思います。

――春の関東選手権(トーナメント)では5位、秋の関東リーグでは3位。そこからどう立て直し、どこが変わったのでしょうか。

まず、僕自身が9月末まで日本代表のコーチとしてワールドカップのために活動していたのですが、その点は優秀なスタッフたちが頑張ってくれて、チームの考えを共有して練習できたことは素晴らしかったと思います。ただ、僕がチームに戻ったときに、これは僕の責任ですが、いいコーチングができなくて選手たちが混乱したところがありました。

そこで、リーグ中盤で連敗したときに「どういうバスケをやるのがうちのスタイルなのか」を整理して、チームで話し合ました。やっぱり、勝利するには強度と厳しさが必要で、練習の強度から見直していった頃にケガ人も復帰して、そこから上がっていきました。リーグ中の悪かった状態の中でも良かった点があるとすれば、「何がよくて何が悪いか。どういうところで行き詰まるのか」ということをチーム内で共有していたことです。だから決勝の苦しい時間帯でも、共有していた経験で取り戻すことができたのだと思います。

――決勝で戦った愛知学泉大は名門で、HCの木村功先生は同校を11回の優勝、5回の準優勝に導いた名将。その木村先生がWリーグ(デンソー、シャンソン化粧品)での指導を経て2016年に15年ぶりに大学界に戻り、復帰3年目で決勝の舞台に戻ってきました。その名将と対戦はどのような思いがあったのでしょうか。

木村先生は大学の先輩(筑波大、以前の東京教育大)であり、尊敬するコーチです。僕は大学4年のとき、木村先生が学泉で連覇されているときに、実はベンチの裏でコーチングをずっと見ていて、学んでいました。その時は日体大との決勝で1Qに10点くらいバンとリードされたんですけど、木村先生は余裕で「自分たちのバスケットをやって来いよ」と、ただそれだけを指示していて、そこから巻き返していました。そういう偉大なコーチと決勝の場で戦えたことは素晴らしいことだと思っています。

木村先生は基本を大事にされていて、勝負のポイントとして、3ポイントとリバウンドの強みとポストアップの巧さがあります。この3つを鍛え上げているコーチなので、そこの部分をどう攻略していくかがかカギになりました。

3ポイントはリズムを崩していくこと、リバウンドは戦い抜くことをポイントにあげました。前半のリバウンドは手だけで取りに行っていたんですけど、後半、体で取りにいくことを見直したことで選手たちが解決してくれました。ポストプレーに対しては、ファウルしそうなギリギリなところで我慢してディフェンスをすることができました。そういうところで注意したポイントに対して選手たちが乗り越えることができたんだと思います。偉大なコーチと対戦することで、僕だけでなく、選手たちにとってもいい経験になったので、次のステップにつなげていきたいです。

優れた身体能力とひたむきな性格で成長中のエースの永田萌絵。2018年度は日本代表に選出され、アジア競技大会に出場(写真/小永吉陽子)
優れた身体能力とひたむきな性格で成長中のエースの永田萌絵。2018年度は日本代表に選出され、アジア競技大会に出場(写真/小永吉陽子)

目指すは言葉で説明できる指導と再現性のあるバスケ

 恩塚HCの強みは観察力と研究心。日本代表のアナリスト時代から様々な対戦国を分析していたが、その観察眼はコート上の戦術のみならず、各国の気質やチーム作りの特徴に至るまでを観察し、戦術に落とし込むことにある。そうしたコート内外での経験により、東京医療保健大においても、相手の強みを消しながら対応し、自分たちの良さを出す試合運びが目を引く。

――インカレMVPを受賞した永田萌絵選手(3年)はこの1年間でとても成長し、昨夏のアジア競技大会の代表にも選ばれました。この3年間で永田選手の成長をどう感じていますか?

もともと、アスレティック能力のある選手でしたが、素直さと気持ちの強さで伸びた選手です。入学当時からずっと基本技術やバスケの考え方を共有してきたんですけれど、どういうふうに攻めたらいいのか、その部分が試合の中で見えてきて、つかめてきた感じがしますね。これは彼女だけではないのですが、僕は選手と一緒に練習や試合の映像を見ます。映像を見ながら「これはいいよね」「これは課題だよね」と言いながら、考え方を共有していきます。永田の場合、その共有ができてきたのがこの1年でした。

――試合だけでなく、練習の映像も毎日録っているのですか?

はい。スタッフが毎日の練習や試合を撮影してくれて、ビデオの編集は僕がやります。映像を見ながら「ここは攻めるところだよね」「目の前の選手をどうやって抜く?」といったやり取りをするのですが、こういったことを感覚的に選手に伝えられたらいいけれど、簡単にはできない。それをどう教えるか僕が迷っていたときに、テレビ番組の『プロフェッショナル』を見て、「プロは言葉で説明できる」という紹介があって、その通りだと感じたのです。

たとえば1対1で相手を抜くときに、どういうときがチャンスで、それをどう生かせるかというのを言葉で説明することに加えて、映像で見せてシェアできたらわかりやすいですよね。だから映像と言葉で伝えるようにしています。

――たとえば、インカレ決勝で停滞した2Qにはどんな言葉をかけたのですか?

僕たちがやりたいのは5人が動く『バスケットボール』なんですよ。だから選手たちには「バスケットボールをしよう」と言いましたね。決勝ではみんなが何とかしたい思いから1対1でボールを持って止まる時間が2Qにあったんですが、それはバスケットボールではないですよね。「違う。やりたいのはバスケットだから。1対1でやるのはバスケットじゃないから」と伝えました。僕たちはチームでボールを動かすことを練習してきたわけです。「止まっていて待っている人にはディフェンスは動かない。ボールを動かすとディフェンスが絶対に遅れてくるから、そこをやっつけにいこう。それがバスケットボールだから」と、そういうような言い方をしました。

選手たちには「何でこういうバスケットボールができるのか?」を説明できるようになってほしいです。説明ができれば「何で?」がわかるわけだから『再現性』につながるじゃないですか。バスケで勝利するには再現性が必要だと思うんです。だから毎日練習するし、毎日ビデオを見るし、「何で?」が説明できるまで考えをひねる。そういう積み重ねだと思います。だから、うちは練習では毎日同じメニューは一切ないです。同じ練習だと考えなくなってしまいますから。

――バスケットボールの特性を生かしたゲームができるということは、再現性があることであり、再現性あるプレーができればチームが強くなるということですね。

そうです。だから決勝の後半はいいボールムーブメントがありました。パス、パス、パスとボールがよく回り、インサイドにボールを入れ、そこからキックアウトして3ポイントが決まったシーンは良かったですね。それは練習の再現ができたんだと思います。パスでボールが動くとここが空くよね、選手がこう動いたらここが空くよね…といった具合に選手たちが試合中に読めたんだと思います。

実は「バスケットボールだから」という言い方は、トムさん(ホーバス、女子代表HC)がよく言っていて、いいなと思ったので、僕も使わせてもらっています(笑)

――コーチングで参考にした方や影響を受けた方はいますか?

デューク大のコーチK(マイク・シャシェフスキー、元アメリカ代表HC)です。直接、コーチングの指導を受けたわけではないですが、デューク大に何回か行って練習を見学させてもらいました。コーチKはチームが休みの日でもビデオを見て研究しているとデュークのスタッフから聞いていたのですが、本当にその通りでした。

僕はゲームから学ぶことを重要視していて、選手にはゲーム中に起こることに対して適応できる選手になってほしいと思っています。そのためにも、策を講じる自分がいろんなゲームを見て研究する必要性があるし、映像を見ていると、対応策や適応するためのアイディアが浮かんでくるのです。強いチームと対戦する場合でも何かしら解決策はあると思っているので、突破口はないものかと、隅々まで映像を見ます。実際にいつも何かしらの突破口は見つかっています。そうしたことをアメリカ代表で金メダルを獲るようなコーチKもしているのだとしたら、僕も突き詰めたいですね。熱い気持ちで。

「チームのスタッフ、選手たちと喜びをわかちあえたた時がいちばん幸せ」と語る恩塚コーチ(写真/小永吉陽子)
「チームのスタッフ、選手たちと喜びをわかちあえたた時がいちばん幸せ」と語る恩塚コーチ(写真/小永吉陽子)

「喜びをみんなで分かち合うこと」「成長へのステップアップ」が活力

――指導をするうえで究極の目標とは?

僕はあんまり遠くを見ていないんです。今、率直に言えるのは、決勝で愛知学泉大にやられたオフェンスリバウンドからの攻防をどうやったら止められるのか、そういうことを追求したい。今日の反省を生かして明日できることは何か。明日にちょっとでも良くなることを考えていますね。毎日毎日、遠くを見ずに、今日と明日に何ができるかを考えて、ステップアップしていきたい。

――では、インカレ3連覇をしようとは考えていないのですか?

全然考えていないですね。2連覇も全然考えていなかったです。何回優勝したとかは素晴らしいことだと思うけれど、それがモチベーションにはまったくならないです。どうやったらプレーヤーを伸ばせるか。どうやったら自分自身が熱い気持ちで指導できて、選手も熱い気持ちになれるか。それが僕の『何のために』のコーチングです。

僕らが頑張っている理由は日本一になることだけでなく、日本一になったことをみんなでわかちあうこと。それって素晴らしいことだよね、とみんなで目標を共有し、そのためにバスケをやっています。何連覇、何回優勝、強豪だからとかは全然興味がないです。コーチングも結果を求めるというより「選手がもっとうまくなるために」やっています。そのためには僕自身がもっと成長しなければなりませんし、ここまで来るのにたくさんの人にお世話になったので、選手が成長できる場を作ることが恩返しだと思っています。

――恩塚コーチのもう一つの顔である日本代表のコーチを兼任していることで、プラスになっていることは何ですか?

プラスになることばかりでとても面白いです。一番プラスになるのは、これは言い方が失礼かもしれないですけど、一流と、一流にたどりつけていない選手の違いがわかることです。日本代表は一流選手の集まりで、取り組み方が積極的で自己表現もします。でもうちの選手は代表選手ではないわけだから一流ではない。「何のためにバスケをするか」の部分でつまずいたりしていて、考え方にも違いがあるわけです。一流と一流ではない選手の両方を間近で見られることで、その成長や取り組みの違いを指導に生かしていますし、うちの選手も成長していけるように導いてあげたいです。

――一流に到達するにはどういう練習をすればいいか、どういう言葉で伝えたらいいかと、毎日毎日考えるわけですね。

そうなんです。それが楽しいし面白い。僕がユニバと日本代表で指導に携わった藤岡(麻菜美、JX-ENEOS)だったら、こうリアクションしてこうやるんだけど、うちの選手はどうだろう…なんて考えながら練習をしています。だから、今は新しい代が始まっていますが、今年はどんな練習をしようかと考えるだけでとても楽しい。こんな毎日を送れることはとても幸せなことだと思いますし、毎日その思いで練習に向かっています。

恩塚 亨(おんづか・とおる)

1979年生まれ、39歳/筑波大卒、早稲田大学大学院修了/大学を卒業後、2002年に渋谷教育学園幕張高に赴任してコーチを務め、2006年に東京医療保健大女子バスケ部を立ち上げてヘッドコーチに就任(最初の3年間は大学と高校の指導を兼任)。大学バスケ部の創部と同時期から日本代表のテクニカルスタッフとしての活動をスタートさせ、2007年の女子アジア選手権を皮切りに2012年まで日本代表のアナリストとして活動。以後は大学での指導に専念するが、2016年に再び女子代表のアナリストとしてリオ五輪に帯同。2017年からは女子代表のアシスタントコーチに就任して活動中。東京医療保健大では2015年に関東女子大学選手権で初優勝。2017、2018年にインカレを制覇。