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【バスケW杯予選】日本の命運を握る“裏決戦”「チャイニーズ・タイペイvsフィリピン」の行方

小永吉陽子Basketball Writer
この1年の対戦成績はチャイニーズ・タイペイの2勝1敗(写真/小永吉陽子)

6月29日に日本が敗れ、Cタイペイが勝てばそこで戦いは終わる

ワールドカップ1次予選の最終決戦となるWindow3がやってきた。日本は6月29日に千葉ポートアリーナにてNBA選手2人を加えたオーストラリアと、7月2日には敵地にてチャイニーズ・タイペイとの決戦を迎える。現在の順位はオーストラリア4勝、フィリピン3勝1敗、チャイニーズ・タイペイ1勝3敗、日本4敗という成績で、オーストラリアとフィリピンはすでに2次ラウンド進出を決めている。上位3チームまでに与えられる2次ラウンド進出を目指して、日本とチャイニーズ・タイペイ(以下Cタイペイ)が激突するのがこのWindow3だ。

2月22日にホームで行われたWindow2で日本は、69-70でCタイペイに敗れた。Cタイペイはシーズン中のためにCBA(中国プロリーグ)でプレーする選手をコンディション優先のために3人しか集められず、また負傷者が多かったことにより、半分以上は経験の浅い若手が出場した。Window2でのロスターを見れば、日本はホームであることからしても絶対に勝たなければならない相手だった。

しかしCタイペイは、大黒柱のクインシー・デイビスを全面に出した戦いというより、周囲を生かす作戦に出てこの勝負に勝ち切った。もちろん重要な場面ではクインシー・デイビスや周儀翔らのエースが働くのだが、こうしたタイペイの先手を取った仕掛けと、日本の選手たちが「新しく変わったメンバーの特徴がわからなかった」と認めるほどの対応不足により、日本は後手を踏んでしまう。逆にCタイペイは若手選手たちがオフェンスリバウンドやインサイドへ割り込むドライブインで得点を取り、日本が苦手としている部分をことごとく突いてきたのだ。

その裏にあったのは「負けてもともと」という気持ちの持ちよう。「ホームで勝たなければならない」日本と比べ、Cタイペイには思い切りの良さがあった。情けない話ではあるが、日本はプレッシャーから硬さが見られ、崩れていったのだ。Cタイペイにとって、2月の日本戦の勝利は「ラッキー」そのもの。日本が敗れたことは「悔しい」という生やさしいものではなく、悔やんでも悔やみきれない落としてはならぬ敗戦だったのだ。Window3では必ずやリベンジを狙わなければならない。

そんな中で日本が2次ラウンド進出するための条件は、Window3でオーストラリアとCタイペイに2連勝するか、または、Cタイペイが6月29日のフィリピンに敗れることを前提として、日本がCタイペイとの直接対決に2点差以上で勝つことだ。可能性は十分に残っている。だが、懸念もある。6月29日の試合でCタイペイがフィリピンに勝つ可能性も十分にある、ということだ。6月29日に日本がオーストラリアに敗れ、Cタイペイがフィリピンに勝てば、その時点で日本の1次予選敗退は決定してしまうのだ。

経験を優先したベテラン陣とエース復活で勝負に出るCタイペイ

Window3でのCタイペイはホーム連戦という利点に加え、2月の戦いで「次回はベストメンバーで臨みたい」(周俊三ヘッドコーチ)と言っていただけあり、満を持してベテラン選手とエース格を復帰させるメンバー構成で勝負に出る。

とくに目立つのがベテラン陣の復活だ。CBAで活躍するインサイドの曾文鼎(元bjリーグ大阪エヴェッサ)とフォワードの楊敬敏、台湾プロリーグSBLで優勝に貢献した簡浩(英名:クライトン・ダグラス)、SBLきってのシューター呂政儒といった『黄金世代』を担った30代のメンバーに加え、エース格の劉錚がケガから復帰。彼ら5名の経験値は大いなる助けとなるだろう。

ただ、彼らベテラン選手がしばらく代表から離れていたことや、2014年以降に世代交代を進めてきた若手メンバーたちもWindow2では奮闘していただけに、チームの融合という面では課題が残る。ベテラン陣たちはCBAやプレーオフでの活躍があるだけに、必勝態勢の今回は経験を優先させたということだろう。

テレンス・ロメオを戻してきたフィリピンはカストロとの最強ガードコンビを擁して臨む(写真/小永吉陽子)
テレンス・ロメオを戻してきたフィリピンはカストロとの最強ガードコンビを擁して臨む(写真/小永吉陽子)

いよいよテレンス・ロメオが復帰したフィリピン

フィリピンはここまで3勝1敗でグループ2位。すでに2次ラウンド進出を決めている。だが、すでに2次ラウンド進出を決定しているからといって、フィリピンがCタイペイ相手に手を抜くことはまったく考えられない。勝敗は2次ラウンドに持ち越しされるし、何よりフィリピンは一年を通してプロリーグの試合を行っている特殊な国(※)。今後もリーグ戦中に予選が続くことを考えれば、勝てるときに、勝てるチームには勝っておきたいのが本音であろう。

11月と2月に日本と対戦したときに、ヘッドコーチのビンセント“チョット”レイエスは「フィリピンはブロリーグの期間が長いので、代表メンバーを集めて合宿をするのが大変だ」と発言しており、現に今は2つ目のコミッショナーカップを中断してWindow3に臨む。当初はメンバー招集に苦戦していたため、『TNT Katropa』というチーム単体に帰化選手のアンドレイ・ブラッチェを加えた布陣で臨む案も出ていたほどだ。TNT Katropaには、日本戦で勝負強さを見せたエースで司令塔のジェイソン“カストロ”ウイリアムのほか、ロジャー・ポゴイ、トロイ・ロサリオといった主軸がいるため、チームが作りやすいからだ。ポゴイとロサリオは先日フィリピンで開催された3x3ワールドカップにも実戦力を期待されて選出されたが、これは予選ラウンドで敗退している。

最終的にはこれまでと変わらぬ布陣での代表メンバーが組めたが、今回の目玉はなんといっても、これまで膝の負傷でワールドカップ予選に出ていなかったテレンス・ロメオ(183センチ、26歳)という司令塔のスター選手が復帰したことだ。

フィリピンはWindow2のあと、日本戦で大活躍した次世代の司令塔、キーファー・ラベーナがドーピング検査で陽性反応が出たことにより、出場停止処分を食らっている。ラベーナはカストロの控えでありながら、シュート力と度胸の良さでチームにとって欠かせない戦力であり、欠場は大きな痛手だったが、ロメオが復帰となれば、これを補えるばかりか大きな活力になる。

2017年のアジアカップでのフィリピンは、すでにカストロからロメオをエースとしてチーム作りを進めていた。ロメオはPBAでは問題なく主力としてプレーしているが、体調は100%ではないとの情報もある。こちらもまた、シーズン直前にしか代表招集ができなかったことを踏まえて、どこまでチーム作りができているかがポイントとなる。

Cタイペイのホームでの本気とフィリピンの意地。どちらもWindow3に戻してきたエース格を加えた戦い。前回は90-83でフィリピンが勝利という接戦の結果。さらに今回は、熱狂的ファンの熱さを見せるCタイペイがホーム2連戦である利点――これらの条件から、一概にフィリピンが優勢とはいえず、熱い戦いとなるだろう。

日本の命運を握る“裏決戦”は日本時間の20時Tip off(現地19時)。日本対オーストラリア戦より、20分遅れで開始される。

※フィリピン プロリーグPBA

「12チーム総当たり1回戦のリーグ戦+長期のプレーオフ」を1つのカップ戦として、年間に「フィリピンカップ」「コミッショナーカップ」「ガバナーズカップ」という3回のカップ戦が行われる。3回のカップ戦それぞれに、外国籍選手に様々な規定の身長と人数制限がある。アジア枠があるのはガバナーズカップだが、今季はワールドカップ予選があるためにアジア枠は停止中。現在は2つ目のコミッショナーカップが行われている。

Basketball Writer

「月刊バスケットボール」「HOOP」のバスケ専門誌編集部を経てフリーのスポーツライターに。ここではバスケの現場で起きていることやバスケに携わる人々を丁寧に綴る場とし、興味を持っているアジアバスケのレポートも発表したい。国内では旧姓で活動、FIBA国際大会ではパスポート名「YOKO TAKEDA」で活動。

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