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カタールW杯、森保ジャパンが採用すべき「野戦城砦戦」とキーマン

小宮良之スポーツライター・小説家
パラグアイ戦の鎌田大地(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

フランクフルト大敗の教訓

 2022-23シーズンのドイツ、ブンデスリーガ開幕戦、長谷部誠、鎌田大地の日本人二人を擁するフランクフルトは、本拠地に王者バイエルン・ミュンヘンを迎え、1-6 と大敗を喫している。

「戦力で勝るバイエルンが好調で、思わぬ大差がついた」

 それが実像だろう。失点後、フランクフルトは反撃のために高いラインを取らざるを得ず、さらに失点を重ねた。すべてのプレーが雑になり、太刀打ちできなかった。必然の決着だ。

 翻って、カタールW杯のグループリーグ開幕戦で日本が戦うドイツは、フランクフルトとバイエルンほどの差がある。勝機はゼロではない。しかし相手が好調だった場合、勝利は奇跡に近く、引き分けすら厳しくなる。何より先手を取られたら、ほとんど身動きできなくなるだろう。

 では、活路はどこにあるのか。

 昨シーズン、フランクフルトはアウエーに乗り込み、バイエルンを破っている。敵にどこかゆるみがあり、自分たちが好調で戦略がはまったら、下馬評を覆せる。勝ち目は乏しいが、それに懸けるしかない。

 ちなみにヨーロッパリーグ準々決勝でも、フランクフルトはFCバルセロナのホームで勝利を飾っている。戦力的には劣っても、風向き次第でチャンスは転がってくる。そこまで粘れるか――。

野戦城砦戦で対応

 森保ジャパンがカタールW杯で劣勢を強いられるのは覚悟すべきだろう。誰が見ても、戦力差は歴然。つまり、守備に回らざるを得ない時間帯が長くなる。

 戦いの要諦としては、どう守るか、ということになるだろう。

 だからと言って、人海戦術で全員が自陣に引いても、勝ち点は見込めない。ドイツ、スペインのトップ選手たちは多くが手練れの強者であり、ただ城に立てこもるだけでは遅かれ早かれ落とされる。おまけに、日本の選手たちが守備的なフィジカルマッチを必ずしも得意としない。ミドルクラスの代表チームには通用しても、優勝候補の代表チームには通用しないだろう。

 となると、守りながら攻める姿勢を崩さない”攻守一体”に勝機を見出すしかない。プレッシングとリトリートを併用しつつ、辛抱強く戦いながら、攻撃面でひらめきのある選手とゴールをこじ開けられる技術、機動力を備えた選手をミックスすることだ。

 軍事用語で言えば、それは野戦城砦戦術になる。小高い丘に拠り、堀を深くし、土塁を高くし、迎え撃つ砦に守られた軍を打ち破るには3倍の兵力が要るのが定石である。つまり、砦に相手を誘い込んで疲弊させる一方、騎兵のごとき機動力のある一軍で相手の本陣を突くのだ。

 フランクフルトが強豪を打ち負かした時も、まさにこの戦術だった。

 ただ、プランの運用は簡単ではない。少しでも狂いが出て先制を許したら、計画は破綻する。繰り返すが、先手を取られたら、反転攻勢は難しい。できる限り、スコアレスの状態を確保しながら、一撃を食らわす――。そこで、ようやく勝機が見えるのだ。

森保監督が採用すべきシステム

 森保監督が誰を起用し、どのような布陣にするか。その選択が戦いの行方を大きく左右するだろう。

<アジア最終予選は参考にはならない>

 まずは、そう腹を括るべきだ。

 4-3-3への変更で予選突破した功績は認めるべきだが、世界のトップを相手にした場合、十中八九、打ち負かされる。4-3-3というシステムは構造上、相手を戦力、もしくは戦術で拮抗、あるいは凌駕している時に最も機能する布陣だからである(その点、コスタリカ戦は採用も悪くない)。守備的に戦えばディフェンスが厚みを増し、攻撃的に戦えば、手数を増やせるわけで、前者はアトレティコ・マドリード、後者はバルサが採用してきたが…。

 4-3-3はそもそも運用が難しい。特に中盤でのプレーエリアが混乱しがちで、相手の力が上の場合、綻びを作られやすく、弱点が見えやすいのだ。

 簡潔な提言をするなら、オーソドックスな4-2-3-1に戻すべきだろう。FW、MF、DFで防御ラインを敷くだけでなく、左右のサイド、中央とで侵入路を封鎖できる。野戦城砦戦を実現するのに最適で、守備の形が作りやすいだけでなく、攻撃の可能性も残せる。

 そこでキーマンとなるのが、フランクフルトの攻撃をけん引する鎌田だ。

戦術的キーマンは鎌田

 鎌田はコンプリートなサッカー選手である。

 攻撃的なポジションの選手だが、実は守りの質も高い。恵まれた体躯で局面の勝負を制し、守りの役目をしながら攻撃にも出られる。バルサ戦、今や世界最高のサッカー選手の一人であるペドリを完全にふたしたプレーは見事だった。今シーズン、フランクフルトが戦ったドイツカップ1回戦、マクテブルク戦でもダブルボランチの一角でプレーし、攻守のバランスを取りながら、得点も記録していた。

 劣勢が予想される試合では、最も頼りになる存在と言えるだろう。

 鎌田の最適ポジションは、トップ下と言える。ヨーロッパリーグ優勝の実績は伊達ではない。3-4-2-1のシャドーが主要ポジションだったが、攻撃を司っていた。ドリブル、パス、シュート、あらゆる局面で最善の判断ができるし、攻撃で決定的な仕事ができる。

 森保ジャパンでも、鎌田を生かす戦いを考えるべきだろう。ダブルボランチで守備を安定させて背後をカバー、三笘薫や堂安律のような機動力のある選手を操る仕事を与えられたら、自ずとゴールに迫れる。ロシアW杯での香川真司に近いが、得点や守備の精度は鎌田のほうが望める。

 すべてを完ぺきにこなしても、もし相手が万全だったら、率直に言って戦局は厳しい。しかし少しでも隙があったら、鎌田は仕事ができる。周りにもそれだけの選手はいる。

 大敗を喫したフランクフルトになるか、金星を挙げたフランクフルトになるか。

 森保監督の采配が焦点になる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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