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森保一監督は、なぜ鹿島のFW鈴木優磨を選ばないのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「Seleccionador」 

 スペイン語で代表監督は、こう表記されることが多い。直訳すると、選ぶ人。代表チームも「Seleccion」と呼ばれ、選抜チームに近いだろう。

 つまり代表監督の実務は、「選ぶこと」と言っても過言ではない。彼らはリーダーとして選ぶ権限を用い、一方でその責務を負う。それがサッカー代表監督の輪郭である。それ故に自由裁量で選べるが、もしうまくいかなかったら、全責任を糾弾される。どれだけエゴを出しても、色を出してもいいが、もしそれで結果や内容が出なかったら許されない。

「一生懸命やっている」

 その尺度で測るポストではないのだ。

森保監督の「選ぶ」仕事

 7月13日、19日に開幕するE-1選手権の26人の日本代表メンバーが発表されている。今回はFIFA管轄の大会ではない。そのため、Jリーグ勢だけになった。

 森保一監督は、選考においてかなり強めの色を出してきた。温厚で謙虚に映るが、頑固で強情な人物だろう。リーダーとしては、この点は必ずしも悪徳ではない。自分の考えをひらひらと変える人物は、何より監督には向かないからだ。

 そもそも、判断基準は十人十色で一つにはならない。リーダーは己の決断をするのみ。自分の基準を貫くしかない。

 しかし、そこに微かでも怯懦や灰汁の強いエゴが透けると不評を買う。

「若手重視」

 選考前に、森保監督は一つの基準を口にしていたが、選んだメンバーは実際に若手が多かった。

 GKなどは顕著だろう。シーズンを通して浮き沈みのある3人の若手GKが入ったのは、「将来のため」と正当化されるのか。その一方、J1で首位に立つチームの正GKで躍進を支える高丘陽平は外されてしまった。

 その不公平性は、本来あるべき姿ではない。

 例えば浦和レッズのGK鈴木彩艶が、素晴らしいポテンシャルを持っているのは明らかだし、大器ではある。しかしリーグ戦では、西川周作の後塵を拝してプレーできていない。そもそも若手はアンダー世代の大会があるわけで、代表である以上、リーグ戦で結果を出している選手を選ぶことが筋のはずだが…。

若手重視で逃げるべきではない

 日本は異様なまでに若手信仰がある。「若いから将来がある」という。しかし必ずしも、その論法は成り立たない。若手でも伸び悩む。また、ベテランだからノビシロがない、というのはなく、ベテランでも成長を遂げる。現代において、年齢で区切るなどハラスメントに近い。

 いったい、若手とは何歳を指すのか?

 日本サッカーにとって、Jリーグこそが土台である。森保監督は、そこでプレーしている選手に正当な競争を選考で示すべきだった。その点、今シーズン、リーグMVP候補の一人と言える32歳の水沼宏太を代表初招集したことは評価に値するが…。

 年齢の枠は取り払うべきだった。例えば、サガン鳥栖のMF小泉慶はチーム戦術をけん引し、前半戦のベストイレブンの候補と言える働きを見せていた。27歳という年齢がネックになったのか。

 川崎フロンターレ、36歳になるMF家長昭博も今回の招集に値するプレーを示している。カタールワールドカップは考えられないが、それでもこれまでの活躍に敬意を示す選考をしていたら、サッカーファンの興味を引き付けていただろう。そして多くのベテラン選手たちが、「見てもらっている」と活力を得た。その熱気は、Jリーグを活性化させたはずだ。

 若手で挑むからと言って、代表監督は責任を少しも回避できない。将来の糧になる、などと言うのは逃げ口上である。あえて言えば、若手重視には一敗地にまみれた場合の事態を事前回避する「怯懦」が見え隠れしたのだ。

 代表である以上ベストの布陣で挑むもので、育成の場所などではない。

鈴木優磨のメンバー外はサプライズ 

 批判に晒されることが多い森保監督だが、信念を感じさせるし、実績も積んでいて、決して力量がない監督ではない。実際、ロシアワールドカップ後に代表チーム立ち上げの時の選考は的を射ていて、過去の代表監督でも史上最高のスタートを切ったと言える。サンフレッチェ広島時代もそうだったが、集団を引き継いでアップデートする才覚には秀でているのだ。

 しかし、革命性や刷新力には乏しい。継続したマネジメントの中で、集団がサイズダウンしていく傾向がある。それは、セレクションの色に「従順さや献身性」という色がどんどんと強まるからかもしれない。監督本人は否定するはずだが、それは今回のメンバー選考でも、「子飼い選手」に対する依存度の高さにはっきりと映し出されている。

 かつて率いた広島の選手たちを、首位の横浜7人に次ぐ6人も選んでいるのだ。

「Jリーグの上位から順に選ぶべき」

 それは暴論だろう。しかしあまりにも自分の色が強く、偏った選考に映る。エゴが見えてしまって、これではバランスが取れない。4位の広島に比べ、2位の鹿島はなんと0人。上田綺世がベルギーに移籍しなかったら選ばれていたはずだが、樋口雄太、安西幸輝、そして鈴木優磨も選ばれるべきだった有力選手だ。

「サプライズはない」

 森保監督はそう話していたが、やはり鈴木のメンバー外はサプライズだ。

鈴木を「選ぶ」という度量

 鈴木は直近のリーグ戦に欠場も、あくまで体調不良だった。発表同日の天皇杯では復帰。ケガなどの問題はない。

 今シーズン、鈴木は7得点を記録しているだけではない。7アシストはリーグトップ、前線のプレーメイカーとして巧みなポストプレーで起点になり、サイドに流れてリズムを作り出している。苦しい場面で体を張れるし、エレガントな体の使い方で相手の拍子をつかみ、自分の拍子にできる。Jリーグの日本人で、追随するセンスを感じさせるのは大迫勇也だけだ。

 鈴木は間違いなく、JリーグではトップのFWだろう。武藤嘉紀(ヴィッセル神戸)、町野修斗(湘南ベルマーレ)、細谷真大(柏レイソル)、西村拓真(横浜)という4人の選出FWと比べて、少なくとも負けていない。その覇気の強さは傑出する一方、技術は風貌に似ず繊細で、味方としては断然頼りになる。大迫の代役ができる唯一プレースタイルで、なおかつゴールゲッターとしての怖さもあるのだ。

 しかも、鹿島は開催地の一つである。鈴木は歓声を浴び、その熱気は全体の士気を高めただろう。指揮官としても援軍を得るようなものだったが…。

「森保監督は鈴木の粗暴さや反抗的態度を嫌い、ブラックリストに入れている」

 関係者からは漏れ伝わる。ただ、それも噂レベルである。しかも、森保監督本人が否定しているのだ。

 だが結局のところ、森保監督の度量の問題で選出を見送ったと言わざるを得ない。鈴木をチームに落とし込み、あるいは”手なずけ”、戦力とすることができないと判断したのだろう。さもなければ、落としどころがないのである。

 従順さの点で、たしかに鈴木に太鼓判を押せない。

 しかしながら、チームに勝利をもたらすストライカーは監督が制御することが難しい選手であることがしばしばである。敵に挑みかかるような姿勢こそ、チームに求められる。いくらうまくてデカくて速くても、その畏怖感がないFWなどモノの役に立たないだろう。

<選ぶ>

 どれだけ叩かれても、森保監督は我が道を行くのだろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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