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森保ジャパンが「世界」で苦しむ理由。長友のプレーへの批判と称賛

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 森保ジャパンは一つの山場を乗り越えた。

 必勝で臨んだサウジアラビア戦、2-0という結果をつかみ取ったことは称賛に値する。

 伊東純也は大暴れで、4試合連続得点。過去2試合、4得点すべてに関わっている。森保ジャパンにおけるポイントゲッターだった南野拓実もゴールを決め、前線の動きに調和も出てきた。中盤は遠藤航を中心に、田中碧、守田英正が神出鬼没にポジションを変え、攻守のバランスを取れるようになった。バックラインも新鋭センターバックで無失点は大きく、酒井宏樹のプレーは改めて世界標準だ。

 では、万事順調でワールドカップに向けて視界は開けたのか?

 残念ながら、このままでは「世界」で劣勢を強いられる。

伊東が森保ジャパンの戦術

「いい守備がいい攻撃を生む」

 それが慎重な森保一監督の戦術的土台と言えるだろう。

 最終予選途中で4-3-3を新たに採用したのも、守備を立て直す、というところに出発点はあった。現実的には4-3-3ではなく、4-5-1,もしくは4-1-4-1で、中盤にアンカーを置いてセンターバックを補強した。構造的にはディフェンシブで、トリプルボランチに近い。

 サイドも守りを強固にするため、サイドアタッカーをサイドバックの前に”防波堤”として置いている。中盤とも連係し、プレスバックも積極的に敢行。そこからカウンター攻撃にも転じられる運動量と肉体的強さが重視され、スピード、パワーがポジション適性となった。

 その点、伊東はまさに「森保ジャパンの戦術」と言える。

 結果、久保建英、堂安律、三笘薫、あるいは鎌田大地は今やセカンドオプションになっている。彼らは味方が高い位置でボールをつないで、コンビネーションと個人技を使って、スペースを作り、崩し、ゴールを決めるプレーにアドバンテージがある。しかし低い位置で粘り強く守りながら、攻撃に際しては爆発的スピードで飛び出し、あるいは一発でゴールを仕留めるタイプではない。

 では、森保監督が行き着きつつあるサッカーは世界で通用するのか?

 少なくとも、ベスト16に入るようなチーム相手には苦しむ。

森保ジャパンに近いのは岡田ジャパン

 会心の試合のように報道されるサウジ戦でさえ、日本は時間帯で波があった。立ち上がり(8番の選手がケガで交代するまで)は守りに入ったというより、守らざるを得ない展開で、ペースをつかめていない。トップ下のモハメド・カンノ一人をつかまえきれず、翻弄される有様。そして後半2点目を入れた後も、相手の攻撃をまともに受け、自分たちでボールを握れずに苦労していた。

 忘れてはならない点は、本大会ではサウジのようなレベルの相手はグループリーグにいないことである。彼らは出場できたとしても、参加国中最弱レベル。日本のグループには格上が並ぶはずだ。

 つまり本大会で同じように悪い時間帯を過ごした場合、日本は痛打を浴びる。

 森保ジャパンが移行したフィジカルに重心を置いたサッカーは、もともとの技術戦術で上回れるアジアでは成功する。しかし世界では綻びを突かれる。守備に耐性の強い選手はいるが、強度の勝負では限界がある。フィジカルパワーではハンデがあるのは歴然で、例えばフランスやドイツには太刀打ちできない。

 日本は本来、俊敏性をテクニックと融合させ、コンビネーションを用いて閃きを打ち出し、勝利に導く戦いに優れた選手が多いのだ。

 もちろん、これは戦い方の選択である。

 例えば、南アフリカワールドカップにおいて岡田武史監督が率いた日本代表は、森保監督の構想に近い。田中マルクス闘莉王、中澤佑二という高さとパワーのあるセンターバックで、阿部勇樹をアンカーに中央の守りを固め、遠藤保仁、長谷部誠が舵を取り、サイドは大久保嘉人、松井大輔が献身的に戻り、守備を分厚くし、カウンターに転じるチームだった。徹底的なリスク管理で、本田圭佑のセットプレーも含めた一発に懸け、当時はベスト16に勝ち進んだ。

 しかし12年後、同じような戦いが通じるのか。

 そもそも、前回ロシアワールドカップでは強豪と互角の戦いを演じ、ベスト16に入った。能動的な時間が増え、その先の風景が見えて、日本サッカーは確実に一歩前へ進んだと言える。その戦いは現場で取材しながら、日本人として誇らしかった。

 森保監督は時計を巻き戻すのか?

左サイドバックの不安はチームへの危惧の象徴 

 結局のところ、日本サッカーは未だに勝ち負けだけで語られる。サウジに勝利した途端、戦いを称賛する声も出ている。高いモチベーションで決戦に挑み、勝ったことは喜ばしいが、戦いの内容は批判を浴びていた時と大して変わっていない。

 例えば長友佑都はここ数試合とは打って変わって集中したプレーを見せ、失敗した後も切り替え、成功に転じさせていた。対面した選手を完封。士気の高さは、チーム全体に伝播するほどだった。

 しかし後半途中で交代せざるを得ない状況は変わらず、世界標準では確実に狙われる。

 バックラインのメンバー変更はデリケートなもので、どうしても連係でざわつく。交代出場したディフェンスにとって、すぐに試合に適応し、相手のリズム、味方のリズムと合わせるのも簡単ではない(サウジ戦も交代後に波が出た)。終盤のパワープレーになった時間や、得点を取らないと敗れる背水の陣での交代は例外だが、「後半途中に交代ありき」の起用は改善が急務だ。

 長友は気持ちが伝わる熱いプレーを見せたが、クオリティそのものが高かったわけではない。クロスはどれも合わず、攻め上がりのタイミングも早い場面が目立った。右サイドバックの酒井が「伊東の次のマンオブザマッチ」と言える攻守の両輪になっていた一方、長友の正当な評価は「気持ちの強さと大舞台での豊かな経験を見せた」にとどめるべきだ。

 左サイドバックの不安は、チームへの危惧を象徴するものだろう。

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/jfootball/2022/02/02/post_21/#cxrecs_s

 森保監督は本大会に向け、観察眼と大胆さで積極的に人材を引き入れられなければ、チームを停滞させることになる。ある程度は計算が立つ選手を集めても、世界では飲み込まれる。日本サッカーの強みを最大限に生かしてこそ、対等に戦えるはずで、少なくとも最後までそこを模索すべきだ。

 一つ言えるのは、日本サッカーには人材がいる点だろう。

        古橋(上田)

三笘(中島) 鎌田(奥川)久保(旗手) 堂安

         橋本

安西(中野) 冨安(伊藤) 吉田 菅原 

        中村

 今回、招集を受けていない選手でも一つのチームが作れるほどだ。システムもいくらでも可変である。次に対戦するオーストラリア代表選手で、日本代表に割って入れる選手など片手で数えて余るだろう。アジアを勝ち抜くのは簡単ではないが、そういうレベルだ。

 その戦いで「世界」と渡り合えるのか。

 その視点を失ってはならない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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