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ロナウド・メッシ後、スペインサッカーは「敗者」か?次代を託されたバルサのルーキー。

小宮良之スポーツライター・小説家
バルサと4年間の契約を更新。移籍違約金は10億ユーロとは破格(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 スペインサッカーは世界を席巻してきた。

 2008-09シーズンにFCバルセロナ(バルサ)が欧州チャンピオンズリーグ(CL)で優勝しているが、以来10シーズン、スペイン、リーガエスパニョーラ勢が隆盛だった。バルサが3度、レアル・マドリードが4度にわたって優勝。アトレティコ・マドリードも2度、決勝の舞台に立っている。準決勝でお互いが潰し合ったケースも少なくない。

 しかし、黄金時代は確実に去った。

 過去3シーズン、スペイン勢は一度も決勝に進んでいない。

 今シーズンは危険信号さえ灯っている。CLグループリーグ2試合を、マドリード、バルサ、アトレティコ、ビジャレアル、セビージャがそれぞれ終えて、2勝4分け4敗。マドリードはモルドバの伏兵シェリフ・ティラスポリに本拠地サンティアゴ・ベルナベウで苦杯をなめ、バルサは2連敗でグループリーグ敗退の可能性まで出てきた。

 クリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシが相次いで去っていった。それは時代の終焉のサインだったのか――。

クラブの放漫経営

 失墜の理由としては、クラブ経営の拙さが挙げられるだろう。

 例えばバルサの借金は13億2500万ユーロ(約15億円)。メッシへの給料未払いなど、放漫なマネジメントが招いた禍と言えるだろう。胸スポンサーで莫大な利益を出す一方、ショースポーツとしての看板にだけ目が向き、大金を叩いて名前のある選手を取っては不良債権化し、実直な強化を怠ってきた。その結果、メッシを放出せざるを得ず、クラブは舵取りを失いつつあるのだ。

 スペイン人だけでなく、リーガでプレーしていた外国人やプレーするはずだった外国人が、より良い待遇を求めて、プレミアリーグやブンデスリーガに活躍の場を求めるようになった。深刻な人材流出で、18歳のイライシュ・モリバがバルサからブンデスリーガ、ライプツィヒに移籍したのは一つの例だろう。クラブだけでなく、リーグとしても魅力を失っているのだ。

 では、スペインサッカーは本当に地盤沈下したのか?

失速したが、過去の遺物ではない

 バルサ、マドリード、アトレティコは以前と比べたら、たしかに失速気味だ。

 やはり、ロナウド・マドリード、メッシ・バルサのイメージが強烈だったのだろう。確かにその時代は終わった。二人が並び立ってこそのリーガだったのだ。

 とは言え、深刻な状態にあるバルサは別にして、マドリード、アトレティコは、今もヨーロッパのトップクラスで、”過去の遺物”ではない。

 マドリードはカルロ・アンチェロッティ監督が率い、新チームとは思えない仕上がりを見せている。カリム・ベンゼマは絶好調で、ヴィニシウスはフィニッシュの場面で改善が見られ、エドゥアルド・カマヴィンガには新時代の希望が見られる。ダビド・アラバはすでにフィットし、エデル・ミリトンは盤石さが出てきて、ナチョはユーティリティ性で群を抜き、ディフェンスも分厚くなった。

 無論、ティラスポリに敗れたのは失態だし、次のエスパニョール戦に連敗したのも、新チームのボロが出た。しかし、序盤戦としては及第点が付けられるだろう。

 アトレティコも、ディエゴ・シメオネ監督の戦い方が浸透している。高い士気で挑み、最後は攻守で敵を凌駕する。90分、1シーズンで戦える陣容も揃った。

 1-2と逆転勝利を収めたACミラン戦は象徴的だろう。相手の攻撃に押されながらも、粘り強いプレーを見せ、前半で退場者を誘発すると、後半は徐々に相手を押し込んでいる。そして終盤、交代出場のアントワーヌ・グリーズマンが左サイドからのヘディングでの折り返しをディフェンスの前にボレーで得点。さらにアディショナルタイム、エリア内に攻め寄せると、焦った相手のハンドを誘い、それで得たPKをルイス・スアレスが冷静に沈めた。

 アトレティコは、今も変わらぬしぶとさを持っている。

ロナウド・メッシ時代の次の主役

 スペインサッカーは、時代の敗者などではない。スーパースターがいた時代はあったし、そのうつろいの中で、生き抜いてきた。メッシ、ロナウドは一つの時代の主役だったに過ぎない。

 スペインサッカー全体では、今もプレミアリーグ、ブンデスリーガに比肩する。

 その論拠の一つして、ビジャレアルはヨーロッパリーグ(EL)王者としてCLに出場している。5チームもCLに出場している国は、他にはない。ちなみにセビージャは一昨シーズンのEL優勝チームで、2013-14シーズンから3連覇している。

 CLというトップリーグではやや劣勢も、ELでは覇権を失っていない。昨シーズンはレアル・ソシエダ、グラナダが決勝トーナメントに揃って勝ち上がり、どちらもマンチェスター・ユナイテッドに敗れたが、決勝ではビジャレアルが勝利した。

 これでも、スペイン勢は時代の敗者だというのか?

 今シーズンも、ベティスは連勝スタートで、レアル・ソシエダは国内で首位争いを演じる一方、負けていない。アスレティック・ビルバオ、バレンシアも比肩する実力は持つ。1部昇格の勢いを駆るラージョも、国内ではバルサ以上の順位だ。

 下剋上の様相すら呈している。

ペドリという希望

 国内リーグには、スペイン人で有望な若手が出てきた。

 不振にあえぐバルサだが、ガビ、ニコ・ゴンサレス、アンス・ファティという3人の十代ルーキーは、今後のリーグの主役になってもおかしくない。下部組織ラ・マシアの正当性の証明だろう。監督次第では、リキ・プッチの台頭にも期待だ。

 そしてペドリは、すでに世界的MFの一人に仲間入りしている。EURO2020でもルーキーとして一番、輝いていた。アンドレス・イニエスタの再来という表現が大げさではない。周りを輝かせ、自らも輝くプレーは、サッカーそのもの。東京五輪の消耗で、今シーズンは出足で遅れているが、4年間の契約を更新。違約金が10億ユーロ(約1300億円)に設定され、存在の大きさを示している。

 他にも、ウナイ・シモン(アスレティック・ビルバオ)、マルティン・スビメンディ、ミケル・オジャルサバル(レアル・ソシエダ)、エリク・ガルシア(バルサ)、パウ・トーレス(ビジャレアル)はいずれも東京五輪代表で、今後のリーガエスパニョーラ、スペイン代表を担う存在と言えるだろう。

 個人的にはアトレティコのポルトガル代表FWジョアン・フェリックスに期待したい。圧倒的な華がある。見事に相手の裏を取るプレーはスペクタクルだ。

 もう一人は、やはりマジョルカの久保建英だろう。日本人として、どこまでやれるのか。膝のケガが心配だが、リーガエスパニョーラの顔の一つになれるのでは…。 

 メッシ・ロナウド時代は強烈だった。しかしスペイン・リーガエスパニョーラは群雄割拠の時代を経て、生まれ変わる。今はその過渡期にある。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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