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日本はシンプルに強い。久保、田中碧、酒井宏樹の存在感。ニュージーランドは要警戒だが、切り札に上田綺世

小宮良之スポーツライター・小説家
フランス戦、久保を中心に(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

日本はシンプルに強い

 指摘し続けてきたことだが、東京五輪男子サッカー日本代表はどの国も恐れる必要はない。シンプルに強いのだ。

 グループリーグでは、南アフリカを1-0、メキシコを2-1で下し、フランスを4-0と蹴散らした。「アフリカの怖さ」「ロンドン五輪で敗れた強豪」「優勝候補」という誇張表現で煽る報道もあったが、どれも表面的だった。対戦相手はベストの布陣には程遠く、グループリーグ連勝は十分に予想できた。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20210712-00247477

 改めて日本はどこが勝っていて、どこが成長を見せているのか?

吉田、酒井はベストイレブン候補、冨安の硬質

 7月28日、横浜。日本は欧州代表フランスを前にしても格上だった。

「FIFAランキング2位!ワールドカップ優勝の現役世界王者!」

 そんな表現で煽る声もあったが、看板の建て替えも甚だしい。それはフル代表の成績で、五輪代表に関しては寄せ集めに過ぎなかった。EURO2020に出場したキリアン・エムバペなどが招集外は予想できたが、国内の有力選手もメンバー発表後に8人も派遣拒否。実像はトップリーグでの出場機会が満足に得られない選手の集まりで、オーバーエイジもメキシコからベテランを引っ張ってきたに過ぎない。

 日本は何も恐れることはなかった。事実、序盤に勢い込んできた相手を簡単にいなした。撓むようなディフェンスで攻撃を吸収すると、押し返していった。

 吉田麻也、酒井宏樹の二人は、グループリーグのベストイレブン候補だろう。吉田は周りを動かして生かす老獪なディフェンスの一方、局面では自ら勝負を制し、先手を与えなかった。酒井も右サイドで強力なアタッカーにほとんど何もさせず、その守備の安定が攻撃の循環を生み出していた。

 フランス戦は、ケガから復帰した冨安健洋も際立っていた。立ち上がり、いくらか受け身に回ったところでのインターセプトなど、場数の違いは歴然だった。南アフリカ、メキシコ戦ではと脆い印象を与えた左サイドを完全に補強していた。守備の美学のあるイタリアでの経験は、彼をディフェンスとして硬質にしたのだ。

 前線からのプレッシングも鋭かった。ボールの出所を潰しながら、アバウトに蹴ったボールを、ボランチで防衛線を張った遠藤航、田中碧が回収。セカンドボールへの反応も速かった。

「いい守備からいい攻撃」

 その”システムが起動“したと言えるだろう。

日本の武器、久保、田中は大会ベストプレーヤー候補

 守備でペースを握ることによって、日本の強さが出た。

 俊敏性と技術を融合させたコンビネーションは、相手にとって猛威だろう。想定以上の圧力を感じるはずで、東京五輪は少なくとも三本の指に入る。凄まじいスピードの中、技術精度が落ちない。

 前半27分、自陣でボールを受けた田中が攻撃のスイッチを入れるような縦パスを久保の足元に打ち込む。久保はこれに反応してすかさず前を向くと、上田綺世にパス。上田はこれを右にコントロールし、角度のないところから右足で豪快にシュートを狙い、GKが弾いたところを久保が押し込んだ。

「チームとしてしっかり守備するところにまずは関わって。得点は田中選手から良いパスが来て、上田選手に出して。こぼれるところをつめられてよかったですが、試合前からの準備で周りとコミュニケーションを図って、最後にたまたま自分が決めただけ」

 試合後、久保は淡々と振り返ったが、その連係は堂に入っていた。

 前半34分にも、再び田中を起点にしたパスが久保に入り、久保がゴール正面の旗手怜央とのワンツーからダイレクトで裏に走った上田にスルーパスを入れる。上田の左足シュートはGKに弾かれたが、こぼれを酒井が右足で押し込んだ。

 パスコースに人が入り、こぼれに人がいる時点で、ポジション的優位に立っていた。偶然、ボールが転がってきたわけではない。必然の得点だ。

 経験値の低いフランスの選手たちはなす術がなかった。

 久保の剛胆さは今や瞭然とし、田中のサッカーセンスは新時代を感じさせる。二人はボールに愛され、大会のベストプレーヤー候補だろう。彼らが蹴ったボールは道筋をつけられたようにゴールに向かう。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20210402-00227610

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20200329-00170206

切り札は上田

 そして大会の切り札候補は、開幕前のケガで調整が遅れていた上田だろう。

 フランス戦、上田はバレリーナのようなバランスでボールを扱い、動きながらも平衡感覚が狂わず、両足で強力なインパクトから枠に飛ばした。連係面でも群を抜き、フランスの世界的ストライカー、カリム・ベンゼマを思わせた。何気ない浮き球を右アウトサイドで反転したシーンひとつをとっても、規格外だ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20210109-00216450

 前半はパーフェクトに近い内容だった。

 ただ、後半に入って久保、さらに酒井を後退させた時間、日本は失点も不思議ではないほどに苦しんでいる。久保は守備でも相手のアンカーをフタする老練さを見せ、酒井は右サイドの番人になり、全体を旋回させていた。二人の存在感が改めて浮き彫りになった。

 とは言え、チームとしてどうにか凌ぎ、落ち着きは失っていない。

 後半25分、左サイドからのパスを上田が前で収めながらゴール正面の旗手へ落とし、旗手が久保に代わった三好康児へ流し、左足でミドルを叩き込んでいる。ここでも連係の良さは出ていた。それは、主力が代わっても日本の強みだ。

 3点目の後、森保一監督は遠藤、堂安、最後に田中を下げた。吉田、冨安含め、ここで下げた選手が主力と言える。1軍半でも、一人が暴力的プレーで退場したフランスの息の根を止めるのは十分で、アディショナルタイムには途中出場の前田大然が4点目を決めた。

ニュージーランドは要警戒

 日本は南アフリカ、メキシコ、フランスを立て続けに破っている。大きな成果と言えるだろう。

 しかし準々決勝で対戦するニュージーランドを侮ってはいけない。

 ニュージーランドは世界の強豪国とは言えないだろう。しかしユース年代ではここ数年、成果を上げてきたチームで、日本と同じく主力を招集できている。オーバーエイジも、FWクリス・ウッドはプレミアリーグで4年連続二けた得点の実力者。グループリーグではウッドのゴールで韓国を破って勝ち上がった。率直に言って、フランスよりも好チームだ。

 日本の不安は、酒井の出場停止。戦力ダウンは必定だろう。誰が入っても、弱体化は避けられない。

 ただ、3-4-2-1の布陣に変更することで、センターバックを3枚に右ウィングバックに橋岡大樹を起用し、”誤魔化せる”ところはある。ジャマイカ戦ではそのテストもしていた。うまくいっている4-2-3-1をそのまま使うか、迷うところだが、一つのオプションにはなるはずで…。

 いずれにせよ、日本はどこも恐れる必要はない。

「先制されると苦しくなるので、自分たちが先制して相手の戦意を失わせられるように。チームは引き続き、アグレッシブに泥臭く戦うのをベースに、大会を通じて成長していきたいです。自分の仕事はここから」

 主将である吉田の言葉は、現状が凝縮されていた。ここまでは想定内。これからが勝負だ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20210622-00244096

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【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

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スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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