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35歳のクリスティアーノ・ロナウドは、なぜゴールを量産し続けられるのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

 35歳になるクリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)だが、まるで衰えが見えない。2020-21シーズン、セリエAでは15ゴールで得点ランキングトップ。2021年の初戦となったウディネーゼ戦では、”伝家の宝刀”とも言えるカットインからの右足シュートで豪快に先制した後、スルーパスでGKと一対一になり、恐ろしいほどの冷静さで3点目を左足で流し込み、4-1の勝利に貢献した。

 大鷲が羽ばたくようなヘディングシュートはそれだけでスペクタクルで、今もゴールゲッターとして完全無欠なロナウドだ。

 しかし2017-18シーズン、スペインではある空気が流れていた。

「ロナウドの全盛期は終わった」

 レアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長は、複数年契約での年俸アップを承諾しなかった。UEFAチャンピオンズリーグでは6シーズン連続の得点王で、欧州3連覇に貢献していたが、怪我が増えていたこともあって、「年齢を考えて、巨額の投資には値しない」と判断。結局、交渉は決裂した。

 ロナウドは、自らの意志で退団を強く希望。1億ユーロ(約120億円)というセリエA史上最高額の移籍金で、ユーベへ移籍した。「自分を一番高く買うチームでプレーする」。異常なほどの勝負強さでゴールを決め、あらゆるタイトルをもたらしてきた「王者」らしい決断だった。

 そして2018-19シーズン、ロナウドはセリエAの最優秀選手賞を受賞している。2019-20シーズンは31得点で、9連覇に貢献。そして2020-21シーズンも、王のごとき進撃は続く。

 なぜロナウドは35歳になっても得点を量産し、勝利をもたらせるのか?

ロナウドの原点

 原点が、今も力になっているのは一つあるだろう。

 筆者は、ポルトガル領マデイラ島を訪れたことがある。

 マデイラは大西洋の果てに浮かぶ島。冬でも気温は20度前後で、観光客が癒しを求めてやって来て、「最果ての楽園」と言われる。マデイラワインや黒太刀魚のグリルが有名だ。

 ロナウドは、その島の片隅で生まれた。

 暮らし自体は貧しかった。すでに解体された実家は、バラック小屋。坂の途中にひっそりと建っていた。父は酒におぼれ、兄はドラッグに漬かってしまう家庭環境で、母が働きに出ていたため、ロナウドは一人になることが多かった。

当時のスポーツ誌記事。ロナウドが少年時代を過ごしたクラブのスタジアム。
当時のスポーツ誌記事。ロナウドが少年時代を過ごしたクラブのスタジアム。

高台にあったロナウドの生家。
高台にあったロナウドの生家。

 日が暮れても、少年は友人とサッカーボールを蹴っていたという。しかし一人、二人と夕食の時間で戻っていく。彼は一人になって、しかたなくサッカーボールを抱え、とぼとぼと家に戻る。共働きの両親が戻っていないことは明かりが灯っていないことでわかった。

「みんなで一緒にご飯が食べられればいいのに」

 自宅前のおじさん夫婦は、当時のロナウドのつぶやきを聞いていた。バラック小屋の中で待つのを嫌い、外に出て暗がりでリフティングを始め、坂に向かってボールを蹴り、転がってきたボールを蹴り返し、疲れると玄関に腰をかける。夫婦はその姿が不憫で、家に招いて夕食をごちそうしたらしい。

「僕がプロサッカー選手になって家族全員を楽にさせて上げるんだ。勉強はできないけど、サッカーなら誰にも負けない」

 ロナウドは誓うように言っていたという。その反骨心が彼を突き動かしたのは間違いない。

 しかし、その気持ちは35歳になって栄華を得ても続くものか――。

自尊心と誇り高さ

 ロナウドは12歳で島を出て、本土に向かった。

「ロナウドは学校には興味はなかったようで、よくさぼっていたようですね。まあ、そういう意味では優等生ではありませんした」

 スポルティング・リスボンでロナウドを指導したアウレリオは、小さく笑って言った。訛りが激しかったことで、それはコンプレックスだったという。揶揄われた時、クラスメートがその後、二度とそんな真似ができないほどに暴れたこともあった。誇りを傷つけられた時の彼は手に負えなかったという。

「チームの中ではすぐにガキ大将になっていました。選手は”うまい”だけで一目を置かれますからね。ロナウドは運動神経も抜群で、寮内にある卓球やビリヤードをやっても強く、大人が勝てないんですから。能力だけではない、圧倒的リーダーシップがありました。例えば筋トレ、走り込みも率先してやって、“一番うまいあいつが黙々と練習している”とチームメイトの気持ちを引きつけました。とにかく、何をしても存在感があったんです」

 練習の虫としてのロナウドの原点で、自尊心の強さ、誇り高さと結びつく。その点、彼は全く変わっていない。

「真のプロフェッショナル。誰よりも真剣にトレーニングし、誰よりもサッカーがうまくなりたいという思いが驚くほどに強い。尊敬されたいと思っている」

 マドリードを率いたカルロ・アンチェロッティの言葉だ。

 自尊心と誇り高さは、プロフェッショナリズムに昇華していった。図らずも、加齢による瞬発力の衰えで、それは加速したのかもしれない。

ストライカーとしての覚醒

 ロナウドのプレースタイルは、もともとサイドから中央を自由に蹂躙するものだった。その根底はフィジカル面の優位さ。相手を跳ね飛ばすパワーと追いつかせないスプリント力で、奔放にゴールへ迫った。

 しかし加齢で後者に陰りが見られた。2017年前後には、無理するとケガも多くなった。それを見切ったのがジダンだ。

「ストライカーとして得点だけに専念を」

 その達しで、ゴール前でパワーを貯め込んだ状態のロナウドは無敵だった。一人で守備陣をこじ開ける力を持っていた。ストライカーとして、第二の春を謳歌するようになったのだ。

 ロナウドはプロ選手として裕福になっても、少しも甘えがない。もし優雅な生活を送ることだけがエネルギーだったら、とっくの昔に彼のプレーは枯れていただろう。成功すればするほどナルシシズムは増し、同時に努力を怠っていない。それは異能だ。

<一人のプロフェッショナルとして振る舞い、尊敬を受ける>

 それはロナウドの本質だが、ストライカーというポジションにたどり着いたことによって、一つの結実を迎えようとしているのだ。

「人生は犠牲がなければ、何も得ることなどできない。常にリスクを負うべきなんだ」

 ロナウドは言う。一種の自己陶酔なのか。ゴールに向かうエネルギーは、不世出である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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