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マリノスは「同足」を最大限に生かせるか?メッシ、久保とは違う魅力

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

サイドアタッカーの潮流

 最近のサッカー界で、サイドアタッカーは「逆足」が主流になっている。利き足と逆のサイドでプレー。例えば、リオネル・メッシ、久保建英、モハメド・サラーのような左利きは、右サイドでプレーする機会が多い。カットインして、左足でシュート、もしくは決定的なプレーをするためだ。

 これは右利き選手も同じことである。ネイマール、サディオ・マネのような右利きアタッカーは、「逆足」として左サイドを主戦場にしている。突破からの得点力は侮りがたい。相手を叩く強力な武器だ。

逆足と同足

 もっとも、「同足」と言われる選手たちも、現代にも少なからず残っている。利き足と同じサイドでプレー。それは昔、ウィングと呼ばれた職人的ポジションと言えるだろう。サイドをスピードで縦に切り裂き、クロスを折り返し、アシストをする、クラッシックなプレーヤーだ。

 例えば左利きの久保は、左サイドでのプレーでは最大限に能力を生かせないところがあり、適性がある。

 欧州では、スペイン代表のアダマ・トラオレ(ウルバーハンプトン)が、右サイドで圧倒的な存在感を見せる。ラグビーのウィング、スリークウォーターバックスのように、鍛え上げた体と脚力で切り込む。そのパワーとスピードは、プレミアリーグでも異端である。FCバルセロナの下部組織出身だが、例外的なタイプと言えるだろう。

 もう一人、レアル・ソシエダのスペイン人ウィンガー、ポルトゥはゴールに向かうインテンシティを感じさせる。体が大柄で、恐れずにゴール前に突っ込むプレーを得意とする。右足のクロスでのアシストが多いだけでなく、ファーポストからゴール前に入って得点を狙い、屈強さを誇る「同足」だ。

 また、バイエルン・ミュンヘンのフランス代表のキングスレー・コマンのように、対戦相手次第でサイドを変えるケースもある。試合中に左右のポジションを入れ替えるのも戦術の一つ。逆足から同足へ、相手ディフェンスを混乱させ、ダメージを与えられるのだ。

 そしてJリーグで最高の同足サイドアタッカーは、横浜F・マリノスの水沼宏太だろう。

水沼の才能

 水沼は右利きで、右サイドで主にプレーする。昨シーズンは、セレッソ大阪の右サイドを担い、ベストイレブンに値する活躍を見せた。今シーズンは横浜で、右サイドアタッカーだけでなく、右ウィングバックも担当。伝統的なウィングプレーを基調にしながら、モダンな印象を与える選手だ。

 水沼は際立って、味方選手と協調する能力に優れている。

 例えばボールを受け、裏抜けする選手とタイミングが合ったら、そこにスルーパスを出す。または、右サイドで幅を作りながら、インサイドを走り込ませ、攻撃の厚みを作る。そして、単純に右サイドから中との動きに合わせ、完璧なクロスを送れる。

「今でも(水沼)宏太がいればな、と思うことはありますね」

 サガン鳥栖でともにプレーした元日本代表FW豊田陽平は語っているが、そのクロスは他にはない切れ味だと言う。最高のタイミング、球質で届く。それは同足ならではだろう。

 水沼のプレーは簡潔に見える。簡単なことを難しくしない。シンプルな選択を高い技量で遂行。戦術レベルの高さが卓抜とし、コンビネーションによってプレーを広げ、右サイドでゲームを作り、試合を決定づけることもできるのだ。

 今シーズン、Jリーグでは三苫薫(川崎フロンターレ)に次ぐアシストを記録している。

 もっとも、マリノスは水沼を使い切ることができなかった。

 リーグ戦は25試合に出場も、先発出場はその半分。しかも、左サイドでの起用もあった。1107分の出場時間で、リーグ2位のアシストを記録しているのだ。

 マリノスが、水沼を戦術に取り込み、戦い方を確立することができれば――。覇権奪還も不可能ではない。

同足選手も進化する

 欧州でプレーする日本人選手では、伊東純也と原口元気が代表的な「同足」と言えるか。伊東は爆発的なスピードが売り。右サイドから仕掛け、ラインを突き破る。足を振れる選手で、ゴールセンスも高い。原口は高い戦闘力を誇り、ゴールに向かうパワーも持っている。ロシアワールドカップで証明したように、守備で持ち場を守った後に、カウンターで攻撃に出られるだけの強度を持つ。その点で、日本人サイドアタッカーとしては傑出している。

 逆足の選手が優勢だが、同足の選手も進化を遂げつつある。サイドアタッカーは、試合を決められる。敵をノックアウトする打撃をどのように用いるのか。勝負を左右することになるだろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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