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なぜ、若き森保ジャパンは後手に回ったのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
U―23選手権、サウジアラビア戦で得点を決めた食野亮太郎(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 東京五輪での金メダルを目指す“森保ジャパン”が、混迷の中にある。

 AFC U―23選手権、フル代表と兼任の森保一監督が率いるU―23代表は、サウジアラビア、シリアに連敗。早々に、大会敗退が決まった。東京五輪出場をかけた大会で、日本は開催国枠で出場できるものの、もしそうでなかったら、金メダルどころか五輪出場を逃していた。海外組の主力である久保建英(スペイン、マジョルカ)、堂安律(オランダ、PSVアイントフォーヘン)、冨安健洋(イタリア、ボローニャ)を招集できなかった、というのは言い訳だろう。

 内容が良くて結果が出ずに敗れた、という2試合ではない。また、戦う気持ち云々の話でもないだろう。サッカーとしての破綻があった。

 なぜ、彼らは後手に回ったのか?

戦い方の欠陥

 森保監督は、東京五輪代表では基本的に3バックを用いて戦っている。フォーメーションでは、3-4-2-1と言えるか(5-4-1でもある)。フル代表は、4-4-2(あるいは4-2-3-1)を採用することがほとんどなだけに、この点が大きな相違点になっている。

 そして現時点で、若き森保ジャパンは3バックの戦いを有効に運用できていない。集団戦術の部分で、深刻な機能不全を起こしている。3バックのネガティブな側面が露になっている状況だ(https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20200104-00156226/)。

 例えば敗退が決まったシリア戦、前半からちぐはぐだった。

 まず、1トップと3バックの最後尾との距離が長すぎた。間延びした戦線では、(互いの距離も開いて)ボール回しもスピードが上がらない。広大なスペースを、それぞれが手探りでカバーしようとすることで隙を生み、必要以上に走らざるを得なかった。相手が完全に引いたため、パスを引っかけられるシーンは少なかったが、構造的な欠陥を抱えていた。

気持ちで負けた、わけではない

「気持ちで負けていた」

 そう振り返る選手はいたが、力を尽くしていなかったわけではない。序盤に失点した後、選手たちは前半途中から後半にかけ、相当に長い時間、足を使って攻撃に精を出している。猛攻の結果として、相馬勇紀の同点弾も決まったのだ。

 しかし集団としての運動効率が悪く、個人が非効率な動きをせざるを得なかった。必然的に、終盤になると足が止まる。実力差があるだけに押し込んでも、“無理押し”になっていた。個人が集団を無視するような攻め方になってしまったのだ。

 終了間際、カウンターから失点したシーンは象徴的だろう。

8人もの選手が攻撃に関与

 日本は敵陣のゴール近くで、8人もの選手が攻撃に関与していた。繰り返して書くが、8人、である。リスクマネジメントを、完全に無視していた。ちょっとした手違いで、決定機を与える格好だ。

 実際、日本が浴びた失点はこの形だった。

 交代出場した日本のFWがペナルティアークでボールキープできず、奪われた後だった。ボランチも裏を取られ、カウンターを起動させてしまう。日本のDFがFWに対するくさびにタックルを仕掛けるが、これをポストワークで落とされ、受けた選手の突破を許す。並走していた日本人DFの体力は尽きていた。瞬間的に置き去りにされ、ゴールに向かって2対1の状況を作られる。そしてボックスにフリーで入られ、狙いすましたシュートを打たれた。

 必然の失点で、敗北だった。

 1-1の場面で、最悪引き分けたとしても、最終戦次第で勝ち上がる可能性も残していた。その点でも、無謀なマネジメントだった。

「勝負強さ」

 森保監督は敗因をそこに求めたが、勝負強さは論理との両輪で動くものだ。

 サッカーにおいて、攻守は常に一体である。攻撃している間も、守備のポジションを取り、守備している間も攻撃のポジションを取らないといけない。お互いが補完し合うバランスの中でのみ、プレーの質は向上する。その論理性が失われていたのだ。

どんなシステムを用いるとしても、改善が急務

 強く、優れたチームは、どんなシステムを用いるとしても、選手間の距離が良い。お互いが連携するときに、パスを預けられ、背後をカバーでき、顔が見える。その安心と信頼の中で、プレーは好転するのだ。

 U―23選手権の森保ジャパンは、その論理において破綻をきたしていた。距離が悪いことで、無理なパスになり、パス回しが淀む。長い距離を何度も走らざるを得ず、足を使い、疲労で体が動かなくなる。それでも選手はほとんど本能的に前に出たが、結果、8人もの選手が攻撃にかかわる事態になった。

 なにも、3バックが悪なのではない。3-4-2-1というシステムは、サイドで幅を作ってアドバンテージを取り、高い位置で複数の選手が連携しながら深みをつけられるし、押し込まれた時には守備に枚数もかけられる。いくつも利点はあるのだ。

 しかし試合の中で修正できないようでは、東京五輪に向けて不安が募る。

 消化試合となったカタール戦は、一つの正念場だろう。森保監督がどんな戦い方を選び、選手が体現できるのか。どんなシステムを用いるにしても、改善が急務だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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