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次代の日本サッカーを担う久保建英。バルサに残っていたらトップでプレーできたか?

小宮良之スポーツライター・小説家
ルヴァンカップでトップ初ゴールを決めた久保建英(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

「前を向いてボールを持つと、たくさんのアイデアを持っているし、なにかを起こす予感がある。礼儀正しさはあるけど、ピッチではふてぶてしいくらいで、誰に対しても物怖じしない。16才とは思えないくらいですね」

 FC東京の選手たちはそう言って、16才、久保建英を激賞している。

 たしかに、そのプレーはJ1でも遜色ない。フィジカルに関しても、危惧されたような劣勢はないだろう。ボールを握ったときの彼は、一際大きく見える。ロングボールを多用する展開になると、持ち味が薄れ、試合の流れから消えてしまうことはあるが、期待させるだけの存在は示している。

 では、もし久保がバルサに残っていたら、トップチームでプレーできたのだろうか?

 それは、永遠の謎である。その選択肢はすでに消えてしまったからだ。

 しかしながら、下部組織であるラ・マシアからバルサのトップでデビューし、定着するのは簡単なことではない。とりわけ、地元のカタルーニャ人選手以外に至っては、ほとんど奇跡だろう。ラ・マシアは1988年に監督に就任したヨハン・クライフが始祖的存在となっているが、以来、カタルーニャ人選手以外ではリオネル・メッシ、アンドレス・イニエスタ、ペドロの三人くらいしか、トップに定着したと言える選手はいないのだ。

イニエスタのケース

 ラ・マシアは、バルサによるバルサのための選手を育成する場所である。他のクラブ以上に、ボールスキルとコンビネーションを徹底的に叩き込まれる。そこでついてこられない選手は脱落。厳しい世界である。

 拙著「Futbol Teatro ラ・リーガ劇場」でも記しているが、選手は淘汰される環境に追い込まれる。

「特別にストイックな生活をしているわけではない。でもね、ラ・マシアでは誰もがバルサの選手としての誇りを持って暮らしていて、意識が違う」

 そう説明したのは、クレバーなプレーが光る攻撃的MF、イニエスタだ。

「ラ・マシアには世界中から逸材が集められてくるわけで、その中で鎬を削り合わなければならない。エリート意識と言っていいのか分からないけど、みんな自信を持っていて、その代わりそれだけ練習でも激しくなる。高いレベルで技術を競って成長することができる。僕自身、バルサの選手として誰にも負けないという気持ちでやって来たことで、結果的にトップでも活躍できるようになった」

 しかし、マドリードからさらに東南にあるアルバセテという町から来たイニエスタは、ラ・マシアで暮らし始めてからしばらくの間、毎晩、涙を流しながら実家に電話していたという。日々繰り返される熾烈な競争と強烈なホームシック。それを克服するのは難しい作業だった。

 トップチームにたどり着くには、いくつもの難関があるのだ。

カタルーニャ人以外がトップにたどり着く茨の道

 バルセロナはカタルーニャ州の州都であるが、地元カタルーニャ人にはカタルーニャ人同志の連帯感がある。例えば、言葉もカタルーニャ語を使い、心でわかり合える。地元育ちで観衆なども当然、カタルーニャ人は多い。バルサのクラブ関係者も、必然的にカタルーニャ人が目立ち、あからさまな「カタラニスモ」(カタルーニャ主義)が内部にはあるのだ。

 現在のトップチームには、ジェラール・ピケ、ジョルディ・アルバ、セルジ・ブスケッツ、セルジ・ロベルトなど多くのラ・マシア組がいるが、いずれもカタルーニャ人。デニス・スアレスのようにカタルーニャ人選手以外はいるものの、定位置はつかめていない。イニエスタ、メッシは世界最高の選手と言える別格であり、そのレベルでないと、バルサで栄光はつかめないということだろう。

 カメルーン代表正GKのオンドアはラ・マシア時代、ユースUEFAチャンピオンズリーグでベスト11に選ばれるほどの活躍をしたものの、ポジション争いの舞台さえ与えられなかった。他にも、メキシコ代表のジョバニ・ドスサントス、ジョナタン・ドス・サントスも、主力として定着することはできていない。ベネズエラ代表のジェフレン・スアレスやモロッコ系のムニルなども同じケースだろう。

 むしろ、期待を集めながらもトップでデビューできない選手のほうが多い。

韓国のメッシも戦力外に

 久保よりも3才年上のFW、イ・スンウは「韓国のメッシ」と期待されていた。全国ユースリーグでは、得点王にも輝いている。しかし、バルサBでデビューするのが精一杯だった。そしてバルサBでも出場機会を満足に得られず、2017年夏には「戦力外」の烙印を押され、セリエAのエラス・ヴェローナに売却されている。そしてヴェローナでも、ベンチを温める機会が多いという。

「カタルーニャ人以外にもチャンスは与えられているよ。ただ、同じ能力ならカタルーニャ人を、とはなる。なにより、トップチームでは世界中から能力の高い選手を集められるわけで、競争が凄まじいんだよ」

 カタルーニャ人記者はそう洩らしていたことがある。 

 各カテゴリーに、「メッシ二世」や「イニエスタの再来」が何人も存在する。そのほとんどは道半ばで消えてしまう。ユース年代までの賛辞は、スペインというフットボール大国では儚い幻のようなものだろう。

 もっとも、カテゴリーは違えど、ラ・マシア出身選手が生き残れているのは、徹底的に技術を鍛えたからだ。技量の高さが、アドバンテージになる。メッシのような次元を越えた選手も生まれた。

 久保はバルサで活躍できたのか?

 彼が日本サッカーを背負う可能性のある逸材であることだけは、疑いの余地がない。  

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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