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刮目せよ、ハリル!スペインで奮闘する日本人DF。3億円オファーを蹴っても。

小宮良之スポーツライター・小説家
チームメイトと笑顔を見せる鈴木大輔(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 3月23、27日、ハリルJAPANはロシアワールドカップに向け、マリ、ウクライナと最後の海外遠征を戦う。今回のメンバーに加え、ケガの情報のある吉田麻也や酒井宏樹などはメンバー入りが確定的。これから新顔が入る可能性は低い。

 しかしスペインで闘う日本人ディフェンダーは、日の丸を背負うに値する日々を送っている。

スペインで成長する鈴木

「スペインに来て、めっちゃいい経験ができていますね。成長できてる、という手応えがありますよ」

 そう語るのは、ラ・リーガ2部、ジムナスティック・タラゴナ(以下ナスティック)に所属する鈴木大輔(28才)だ。

 鈴木は星稜高校卒業後にアルビレックス新潟、柏レイソルでプレー。ロンドン五輪では吉田とセンターバックとしてコンビを組み、スペインを撃破する金星を挙げ、準決勝進出に貢献している。アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ監督からもディフェンス力が高い評価を受け、代表選手としてプレー。大胆で勇敢な能動的な守りはトレードマークだが、特筆すべきは学習能力の高さだろう。

「失敗することでうまくなる」

 その割り切りが、対応力を高めてきた。

 言い換えれば、試練を糧にできた経験が、サッカー世界最高峰スペインに渡る決意を促したのかも知れない。

鈴木とハリルJAPAN

 鈴木のラ・リーガ挑戦は、2016年1月から3シーズン目になる。今年2月に上梓した「ラ・リーガ劇場」(東邦出版)で、鈴木のスペイン奮闘を描いているが、長所だった高さや激しさはさらに磨かれ、短所として指摘されていたスピードの対応やビルドアップの技術は格段に上がっている。地元紙では「皇帝(ベッケンバウアー)」と紹介されたほどだ。

 昨年末、鈴木はスペインへ視察に訪れた代表のフランス人コーチとコンタクトしている。ハリルホジッチ政権でも、代表候補に入っているのは間違いない。しかし、現状は未招集だ。

 鈴木の挑戦を正当に評価するなら、代表で試すだけの価値はあるだろう。

スペイン2部の難しさ

 日本代表の井手口陽介がスペインの2部に挑戦し、ほとんど出場機会を得られないことで、批判的な風潮も出ているという。

「どうしてそんな場所に!」。しかし、井手口が悪い選手と言うわけではない。スペインの2部が高いレベルにあるだけの話だ。

 スペイン2部のレベルはベルギー、オランダの1部にも匹敵する。鈴木の属するナスティックだけでも、カメルーン、ナイジェリア、チリ、マケドニア、ジョージアなどの代表選手が揃い、競争は厳しく、日々ふるいにかけられる。今年1月には、9人の選手が退団を余儀なくされ、7人が新たに入団している。生き残るだけでも、至難の業だ。

試練を乗り越える鈴木

 現在の鈴木はシーズンを通せば、「先発選手」という立場だが、監督が代わるたび、試練を受けている。

 例えば2年で5人目(シーズン二人目)となる監督は戦術マニアだった。鈴木は先発を外され、練習後は個人トレーニングを受けている。まるで、ユースの選手のような扱いだった。それでも、鈴木はネガティブにはなっていない。

「そこまで自分に教えようとするのは、それだけ期待しているから。ノビシロだと思うんですよ」

 そう言っていた鈴木は、数試合後、先発を取り戻し、完封勝利に貢献すると、そこからはスタメンを続けている。

 しかしその後、チームが成績不振で今年1月末に再び、5人目の監督が更迭で、6人目が就任。鈴木は再び、先発を外れることになった。それまでレギュラーだった選手は、新体制では責任をとらされる形でしばしば入れ替えの対象になる。

 不条理な状況だが、鈴木は前に向かって挑むだけ、と弁えている。 

「(約2年間で)5度目の監督交代で新しい試練を楽しんでいます!」

 鈴木はそう言って、愚痴っていない。取り返した先発の座をここ数試合は明け渡しているが、明るく真摯に挑戦に向き合っている。現地で日本人選手として評価され、勇ましく挑む姿は眩しい。

「自分が楽観的過ぎかも知れません。でも、考えてるだけというのは無駄なので。ここを耐えていれば、次にチャンスが来る、って楽しめるようになりましたね」

UAEからのオファーは手取りで3億円

 昨年はUAEのクラブから、金銭的には魅力的なオファーもあった。年俸300万ドル(約3億1500万円)、しかも手取り。今の給料の20倍を超え、お金だけを考えたら、飛びついてもおかしくない。

「お金は大事ですよ。でも、このタイミングじゃない。新しい自分に出会えるか、を楽しみにこの国に来ましたから」

 そう語る鈴木は、男としての気概を豊富に感じさせる。

「悔しいのはしょっちゅうだし、首をかしげることもありますよ。今まで教えられたのとは、まったく逆のこともあるんですよ。例えば日本では『(ボールを持っている選手に)ケツを見せるな』って教わります。でも、こっちではそういう原則よりも、ボールを奪う、ゴールを割らせない、という目的が大事で。そこから逆算し、裏をケアするのにケツを向けて背後の選手をつかまえるべきときもあるという考え方なんですよ」

 今まで積み重ねてきた技術を、完全に否定されることだってある。しかし鈴木は変化を受け入れ、成長する触媒にしている。新しい自分に会えるのが楽しみなのだ。

「代表でプレーしたい、というのはもちろんあります。各年代で日の丸を背負うのは特別でした。でも同時に、それに執着しちゃいけない、というのもあるんです。今は成長を続けることで、代表という道も必ず通るはずだって」

 鈴木は臆さず、朗らかに言う。

<鈴木を代表に!>

 それは敢然とした彼の戦いを考えたら、了見の狭い主張なのかもしれない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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