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「惜敗」というハリルJAPANの憂鬱。槙野ら守備陣は健闘も、90分を戦えるのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
攻撃の切り札として期待される乾貴士(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 11月14日、ブルージュ。サッカー日本代表はベルギーに挑み、0―1で敗れている。

「このチームに可能性を感じた」

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のコメントには、手応えがあったことが読み取れる。

 日本が格上を相手(少なくともFIFAランキングでは)に健闘したのは間違いない。しかし「惜敗」と安堵するべきか――。

ブラジル戦から戦術的に改善

 前半の日本は、序盤から相手の鼻先に一発を食らわせるように、ハイプレスで主導権を握っている。山口蛍をアンカーに置いた4―1―4―1は過去の布陣の中では、最もバランスが良かった。3バックの相手に対し、右サイドでスピードのある浅野拓磨が突出する形も狙い通りだっただろう。激しい守備からビルドアップでミスを誘発させ、カウンターで何度か、浅野はゴール前に迫っている。

 しかし、シュートはなかなか枠を捉えない。技術の乏しさか。フィニッシュの部分で精度を欠いた。

 すると、ベルギーがじわじわと盛り返す。脚を使った日本の守備の強度が低下したこともあるだろう。ロメル・ルカクの高さは圧倒的で、彼が落としたボールを持ち上がってケビン・デブルイネがシュートまで持って行くなど、ベルギーは個人の力が際立った。

 ただ、日本の守備陣は集中していた。センターバックの槙野智章は浦和レッズでたまに見せる軽さがなく、"階級が上の"FWとも"殴り合えた"。同じセンターバックの吉田麻也、GK川島永嗣も含め、最後の牙城を落とさせない。

 それが後半、時間が経つにつれ、疲れと技術差によって中盤でスペースが空きだしてしまう。これでハリルホジッチ監督は次々に交代カードを切る。F1カーをピットインさせ、タイヤを交換させるような作業で、最後まで走り抜く準備だった。

 ところが、これは裏目に出てしまう。

乱れた攻守のバランス

 代表デビュー戦とは思えない落ち着きで攻守に貢献していた長澤和輝に代え、森岡亮太を投入。右インサイドハーフの交換だった。森岡は本来トップ下の選手だけに、バックラインの前に入ったときは目を瞠るプレーを見せる。この日も、わずかな隙間を見つけ、左足で質の高いシュートを放っている。同じく浅野と交代で入った久保裕也と連動し、チーム全体の攻撃に火が付く予感があった。

 もっとも、守備のバランスは崩れていた。

 後半27分だった。久保が左から中に切り込んだシャドリにあっさりと入れ替わられてしまう。この時点で、バックラインにも中盤にも人は揃っていたが、カバーに入るはずの森岡は下がるよりも前に一歩動いて、わずかだが空白を与えてしまった。これで加速したシャドリを、山口は呆然と見送り、吉田はスピードに対処できず、抜ききられたところでファーポストまで折り返され、ルカクにヘディングで決められた。肉を切らせて骨を断つはずだったが、骨を断たれたというべきか。

 その後、日本は反撃を試みている。相手のミスから交代で入った杉本健勇が一人で抜け出し、左足でシュートを放つも、GKに止められた。健闘しながら、1―0で敗れることになった。

 負けない可能性はあった試合で、その点で惜敗とも言えるが、それは勝てる見込みを感じさせた表現だけに、どこか違和感がある。

 得点の予感は乏しかった。

攻め手の薄さは不安

「トップレベルのゲームは最後の15分間程度で激しく動く」

 世界では一つの常識だが、そこで大きな差が出た。結果だけを見れば、それだけの試合だった。

 たしかにプレッシングで相手を追い込み、そのマネジメントに関しては、一つの正解を示した。ブラジル戦よりも、守備の距離感は調和が取れ、無闇にスペースを与えることはなかった。しかし世界で勝ち抜くには、あまりに攻め手が薄い。乾貴士、久保、森岡、杉本を投入することによって、攻撃のテンポは上がったものの、今度は守備の強度が低下した。

 90分をどう戦うか――。その現実が浮き彫りになった。

 2006年のドイツワールドカップ、2014年のブラジルワールドカップで、日本代表は"最悪の惜敗"で失意に沈んでいる。どちらも開幕戦、オーストラリア、コートジボアールに終盤までリードしながら、終盤に極端にペースダウンし、ケーヒル、ドログバというエースに撃ち抜かれ、逆転で敗れている。ボールを持てない時間が続いて、ラインが下げられてしまったとき、守り抜くだけの力がない。それは体力的な問題もあるが、心理的な要素も含まれる。この点、日本はボールを持つ時間を増やすしかないのだが・・・。

 そしてベルギー戦、日本は惜敗にすら手が届かなかった。

 もっとも、ブラジル戦から守備は改善が見られている。カウンターも何度か発動。チームとして構造部分では修正があった。その中で、GK川島が安定感を見せ、槙野、長澤は及第点のプレーを示した。乾、森岡、杉本は終盤のジョーカーとして新境地。乾に関しては、先発の座が与えられてもおかしくない。

 これを収穫と見るのか。ロシアワールドカップまで7ヶ月。90分の勝負を制するには、修正だけでなく上積みも必要になる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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