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ハリルJAPANはブラジルに完敗。弱者の兵法の限界か?

小宮良之スポーツライター・小説家
ネイマール擁するブラジルの攻撃を潰そうと日本DFは必死だったが・・・。(写真:ロイター/アフロ)

 日本代表は"弱者の兵法"の限界を示した。

 フランス、リールでのブラジル戦はそんな一戦になった。

「相手が強い方が、効果的な戦いになる」

 代表関係者が一貫してきた目論見は、脆くも崩れた。

弱者の兵法の限界

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の戦術ベースは、ボールを持っていないとき、にある。プレッシング、リトリート、カウンター、そしてデュエルまでも、相手に好きにさせない、嫌いなことをする、球際で負けない、というボールを持っていないときが出発点である。

 その意図はブラジル戦で、トップ下に守備力の高い井手口陽介を起用した点でも明白に出ていた。井手口は何度かボールを突きだし、球際を制し、ボールを持っていない、という状態から貢献を示している。その点では、一つの可能性だった。

 しかし、得点の匂いはさせていない。井手口はあくまで、ボールを持っていない、という場面で活躍が期待できる選手であって、攻撃の閃きや精度は足りないのである。いくつかあったカウンターのチャンスで、トップ下の彼のパスは悉くずれていた。また、ゴール前に入ったときも、攻撃で相手の裏を掻くようなアイデアはない。その点、香川真司のような本職のトップ下選手とは比ぶべくもないのである。

 ハリルJAPANの攻め手は乏しかった。その結果、ビデオ判定のPKで先制点を失って以降、後手に回らざるを得ず、前半だけで3失点。じりじりと失点を重ねるだけになった。ボールを持っているとき、相手ゴール前にまではどうにかボールを運べた。後半にコーナーキックから一矢を報いたが、セットプレーからの得点が精一杯だった。弱者の兵法が破綻したのである。

「ブラジルは別格。後半は健闘した」

 それがハリルホジッチの視点で、的外れではない。しかし受け身の戦術で挑み、破綻し、為す術なく3点を奪われた。それで勝負は決まった。

 後半のブラジルは、日本をスパーリングパートナーとしてしか見ていない。

ハリルJAPANの戦いはどこで破綻したのか?

 では、受け身の戦術はどこで綻びを生じさせたのか?

 ハリルホジッチ監督はプレッシング、リトリートを併用。ブラジルの攻撃を分断する試みを見せている。ボールを持っていないときは4―2―3―1,持っているときは4―1―4―1で、長谷部誠がダブルボランチ、アンカーとして攻守の軸となってポジションを動かし、チームの舵を取ろうとした。それ自体、一つのやり方だろう。

 しかしプレッシングは前の選手が突出しすぎ(あるいはタイミングが合わず)、バックラインが上げられなかったり、連動性に乏しかった。結局、ラインが間延びし、オープンスペースをブラジルに使われた。とりわけ、井手口のプレスは無邪気すぎ、それに仕方なく長谷部が背後をカバーすると、その後ろのスペースは誰も埋められなかった。さらにプレッシングで脚を使いすぎると、その数分後に必ずペースダウンを引き起こし、相手につけ込まれた。

 そこでリトリートし、守りきろうとしたが、のらりくらりとボールを回されてしまった。リードされているために、またプレッシングに切り替え、ボールを奪いに行くと、疲労は増した。結局、ギアを上げる余力は残っていなかった。3人しか交代枠がなかったら、もっとひどい試合になっていただろう。

ボールを持っているときが脆さになっている

 深刻なのは、ボールを持っていないとき、ではなく、ボールを持っているとき、に問題がある点だろう。繰り返すが、ハリルホジッチの戦術は前者に特化している。それによって、後者のときに極端にアイデアが限られてしまう。むしろ、ボールを持っているとき、を相手に利用されているのだ。

 2失点目の契機になるPKにつながったシーンがあった。実はその直前、日本は敵中奥深くまでボールを持ち込んでいる。しかし、スローインからのボールを酒井宏樹がカゼミーロの守備を前に失い、そこから長谷部、長友佑都、槙野智章が全員1対1で敗れ、最後はエリア内で後手に回った山口蛍が後ろから足を出し、PKになっている。これは川島がストップしたものの、その流れで与えたCKで井手口がクリアを中央に蹴る判断ミスで、マルセロに叩き込まれた。カウンター、ショートカウンターの両面で屈したのだ。

 日本はボールを持っているときが、一番脆かった。

 3失点目も、日本は右サイドから久保裕也が中央に切り込むも、パスコースを見つけられない。これを中央でカゼミーロに突かれ、カウンターを発動されている。日本はずるずる下がるだけで、攻撃を断ち切れない。教科書のようなカウンターを、最後は右から数的優位を作られ、クロスをファーサイドに走ったガブリエル・ジェズスに押し込まれた。

 ブラジルは、ボールを持っていないとき、で明らかに上回っていたが、同時に、ボールを持っていないとき、でも大きく上回っていた。日本が、ボールを持っていないとき、のみに活路を見いだそうとしても、勝てるわけはない。はてしない力の差があった。

 局面を切り取れば、日本人選手も健闘している。槙野のヘディングゴールは、セットプレーをゾーンディフェンスで守るブラジルの弱い部分を利していた。長谷部のポジショニングはチームに欠かせなかった。川島永嗣は2本目のPKで読み勝ちした。交代で出てきた乾貴士、杉本健勇の動きは悪くなかった。しかし、チームとしては完敗だったと言わざるを得ない。

 ハリルJAPANは「弱者の兵法の限界」を突きつけらた。ベルギー戦は4日後に迫る。はたして、その可能性を見いだせるのか――。 

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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