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年間1兆ドルが動くサッカー闇賭博。バルサBの歴史的試合で明るみに。

小宮良之スポーツライター・小説家
バルサBの試合風景。(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

プロサッカーは夢のある世界だ。

それ故、そこにつけ込んでくる輩もいる。選手たちの弱みを握り、身動きできないようにし、夢を食い物にする。そして、八百長試合を吹っかけてくるのだ。

「貧すれば鈍する」というのか。下部リーグの選手は月収10万円弱で、決して裕福ではない。1試合6万ユーロ(約720万円)という収入に目が眩む者もいる。

「これくらいなら」

油断した一歩で、大きな落とし穴に落ちるのだ。

年間1兆ドルが動くサッカー闇賭博

4月1日に行われたリーガエスパニョーラ、バルセロナB対エルデンセという2部B(実質3部リーグ)で八百長試合の疑惑が持たれている。この試合、前半8-0,最終スコア12-0でバルサBが勝利し、同リーグ史上最多得点試合になった。

しかし、スコアはすべて仕組まれたものだった。

エルデンセというクラブの選手が、それを告発している。

「バルサの選手は得点を決めるだけだった。試合で泣いていた選手の中にも、八百長に関わっていた選手がいた」

その告発によって、実態が明らかになっている。12-0の試合には4選手が関わっていたと言われ、それぞれが15万ユーロ(1800万ユーロ)を稼いだと言われる。

暗躍していたのは、イタリアマフィアと中国マフィア。いわゆる、サッカー闇賭博だ。これは深刻な問題で、世界で年間1兆ドル(100兆円)近くもの大金が動いていると言われる。

エルデンセは今年1月、イタリアの投資グループが買収。同時に、イタリア人監督が新たに就任することになった。すでに、この監督はライセンスも持たない、八百長をコントロールするための監督だった、として逮捕されている。そして、選手も八百長に手を染めていったのだ。

もっとも、サッカーにおける八百長は簡単ではない。例えば今回は、ハーフタイムと最終スコアを当てるのが原則だったが、スコアを調整するのは至難の業。しかも、選手全員を買収できているわけではない。八百長の調整にしくじることもしばしばだった。

3月の試合では、マフィアが選手を恫喝している。

「おい、4-1の約束だったよな? おまえらはクソ野郎だ。これだけ損させて、どうしてくれるんだよ?」

マフィアは「4-0で負け」に賭けていたため、大損をしたのだという。それを取り返すために、次の試合は「ハーフタイムまで0-0,終了時に0-1で負け」と賭けられていたのだが、ハーフタイムで0-1になってしまった。これでマフィアの怒りは頂点に達し、件のバルサBとの試合に至っている。

マフィアの関与は、すでに調査が入っていたこともあって、これが決定的になった。告発者も出た。すでに選手も逮捕されている。

一方、同じチームでもマフィアの圧力に屈せず、毅然として告発した選手もいる。サッカー自体が闇ではない、と言うべきだろう。告発した選手は相当に勇気がいったことだろう。一歩間違えたら、マフィアに家族を狙われるかもしれない。

「心配ないよ。パパは間違ったことをしていない。真実と共に生きていくんだ」

告発した選手は息子に安否を問われ、そう返したと言うが、勇敢さを称えるべきだろう。そして、保護も必要になる。今のところ、脅迫はされていないらしいが・・・。

反社会的勢力が入って、八百長を持ちかける。

それはあり得ないことのように思えるが、常に起こりえる。これはスペインに限ったことではない。トップリーグは常に人の目に晒されているが、注目度の低い下部リーグは事件の温床になる危険があるのだ。

2部Bでは、筆者が取材する中でも、八百長に合意した選手と反対した選手がロッカールームで乱闘同然になり、凄絶な試合になった、という話も聞いた。手を抜く選手とどうにか八百長を成立させまいとする奮闘する選手のコントラストは、どこか狂気じみている。そして、切ないものだ。

ちなみにバルサBとの一戦では、中国マフィアが大金を得たという。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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