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香川、清武のトップ下二人が黄信号。ハリルの決断は?

小宮良之スポーツライター・小説家
ともにボールを追う香川と清武。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

3月23,28日、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表はロシアワールドカップアジア最終予選、UAE、タイ戦に挑む。グループ2位の日本だが、勝ち点1差で4チームがひしめき合う。決戦に向けたメンバー発表は、3月16日。2試合のどちらかを落とすだけで、W杯出場に危険信号が灯る(2位までが自動的に本大会出場で、3位はプレーオフ)。

懸念されるのは、トップ下のポジションだろうか――。

トップ下にこだわるべきか?

香川真司は日本代表の「ナンバー10」として君臨してきた。そのスキルとビジョンと経験は、同じポジションで並ぶ者はいない。所属するボルシア・ドルトムントは、欧州チャンピオンズリーグでベスト8に進出した。

しかし香川自身は昨年11月以来、フル出場を果たしていなかった。3月11日のリーグ戦で久々の先発出場を果たし、敗戦も好評価を得た。ただ、試合勘を含め、体力的な問題も不安視される。練習と実戦は疲労度が異なるからだ。

一方、清武弘嗣は直近の代表戦で存在感を示していた。今シーズンの欧州サッカー界で旋風を巻き起こしているセビージャからセレッソ大阪に1月末に復帰。大いに期待が高まったが、キャンプで故障が発覚し、3月10日のリーグ戦でようやく復帰している。セビージャでも数ヶ月間、ろくに試合に出ておらず、万全ではない。

「ハリルは(トップ下を外した)2トップも考えたことはあるようだね。でも、日本人はトップ下にストロングな選手がいる。香川、清武の二人をどちらも使わない、その選択肢は論理的ではないと考えているよ」

昨年末まで代表ダイレクターだった霜田正浩氏が証言しているように、ハリルホジッチが二人の選手を戦略構想の基軸にしていることは間違いない。

ハリルの布陣は4―2―3―1とも、4―3―3とも表せるが、正しくは4-2-1-3とすべきで、特色は中盤にダブルボランチを組ませて攻守の舵を取らせ、トップに脚力のある選手、両サイドに得点力のあるアタッカーを好んで配置する点にある。そしてトップ下は巧みにボランチ、トップ、サイドと連係し、ボールを配球、決定機を生み出す。トップ下のファンタジーや閃きが攻撃を司るわけだが、その能力の点、香川、清武は突出している。

その二人に計算が立たない。

それは危険なサインと言えるだろう。

Jリーグ選抜のようなメンバー構成になった東アジアカップ3試合を除けば、ハリルホジッチは必ず二人のうち一人をトップ下に用いてきた。唯一、2トップを用いた昨年3月のアフガニスタン戦も、ダイヤモンドの中盤のトップ下に清武を起用。指揮官は、全幅の信頼を寄せているのだ。

ハリルホジッチにとってのトップ下代役候補は、小林祐希(ヘーレンフェーン)や柴崎岳(テネリフェ)になるだろうか。東アジアカップで主に用いたのは武藤雄樹(浦和レッズ)だった。個人的に、香川、清武に匹敵するファンタジーを感じるのはサガン鳥栖の鎌田大地である。大器であることは間違いない。ただ、乾坤一擲の一戦での抜擢は現実的ではないだろう。

いずれも、香川や清武と比べると見劣りする。

2トップは一つの可能性だが

やはり、戦い方の変更が求められているのかも知れない。

4ー4ー2のようにしてツートップを戦術軸に移行する案は一つだ。ハリルホジッチはサイドに得点力のある選手を起用することを好むが、サイドをボールの供給源にし、ストライカーが仕留める形にする。

サイドアタッカーに関しては、昨今の日本サッカーにおいて人材が出つつある。原口元気(ヘルタ・ベルリン)の台頭はその一つだろう。原口は突出した走力と好戦的な性格で、まさに「ハリルの申し子」となっている。

そして、日本代表を牽引できる力を持っているのが、齋藤学(横浜F・マリノス)だ。11月のオマーン戦では先発出場、サウジアラビア戦もベンチに入っている。昨季はJリーグベストイレブンを受賞し、世界標準の崩しと決定力を秘める。また、リーガエスパニョーラで日本人として史上初めてスタメンを勝ち取ったと言える乾貴士(エイバル)も、代表に選ばれて然るべき選手。そのドリブルは相手を奈落の底に突き落とすだろう。あるいは、関根貴大(浦和レッズ)も右サイドからの仕掛けやクロスに非凡さを感じさせる。

サイドにボールの供給源を作ることで、2トップは輝くはずだ。岡崎慎司(レスター)、武藤嘉紀(マインツ)、久保裕也(ヘント)、大久保嘉人(FC東京)、金崎夢生(鹿島アントラーズ)というストライカーにボールを集める。「得点力不足」が叫ばれるが、FW中心のチーム構造ではないだけに、必然だろう。他にも、大迫勇也(ケルン)、小林悠(川崎フロンターレ)、工藤壮人(サンフレッチェ広島)は誰とでも合わせられるし、豊田陽平(サガン鳥栖)は高さが有力なオプション(タイ戦はとくに)になるだろう。

最後は香川を選択か

もっとも、ハリルホジッチは奇策を用いないタイプだ。就任して2年、戦術精度を上げてきたことにも手応えを感じているだろう。サイドにはストライカー的な性格を持ち、インテンシティ(脚力や球際でのフィジカルパワー)を与えられる選手を好む。それ故に、浅野拓磨(シュツットガルト)、久保、宇佐美に期待を込め(戦闘力の高い原口を重用)、乾や齋藤のプレーに懐疑的なところがあるのだ。

結局のところ、「香川or清武、コンディションのいい方をトップ下として起用」に着地する可能性が大きいだろう。そして今回は、香川になる公算が高い。相手エリア近くでの力は、やはり卓抜としたものがある。一本のパス、あるいは体の動きだけで試合を決められるのだ。

なにより、指揮官がその技量に懸けている。

ハリルJAPANにおいて、どうしてもトップ下は欠かせない。昨年10月のオーストラリア戦は象徴的だった。プレッシングではめ込みながら、無理なら自陣でブロックを作って、そこで奪ったら、奪った選手がスピードをかけ飛び出し、カウンターでゴールを襲う。その連係において、香川をボールが経由することでプレー精度は増していた。最後の仕上げの部分で、トップ下の技巧が不可欠なのだ。

しかし、懸念は消えない。断続的にしか試合に出ていない香川、清武は、調子に大きく波が出る。もし、波の底が今回の試合に当たってしまったら――。

ハリルホジッチの手腕が注目される。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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