柴崎岳が直面する疎外感。スペイン生活、適応する難しさとは?

スペイン挑戦に暗雲が立ちこめる柴崎岳(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

「テネリフェは柴崎を心理療法士の手に委ねる」

スペイン大手のスポーツ紙「マルカ」はそう報じている。胃腸炎を理由に練習を休んでいた柴崎岳については、ラジオ・マルカが「渡西10日で帰国を検討。適応に難あり」と伝え、これに対し、クラブは「事実ではない」と否定。ただ、「2週間で体重6kg減」とも伝えられ、これを重く見たスポーツディレクター、日本代表マネージャー、代理人が集まって話し合い、一つの結論が出された。

「不安障害の可能性が高く、心理療法士の治療が必要」

スペインで生き抜く。

そのストレスとはいかなるものか?

お犬さまにならないように

「環境に順応する」

海外挑戦では、一口に言われてしまう。しかし、適応とは細かい点にあり、簡単に解決できるものではない。練習など1日2~3時間、残り20時間余をどう生きるのか。日々のディテールの積み重ねが、ジャブのように身体に響いてくるのだ。

例えば、スペインでは食生活のタイムテーブルが日本とは大きく異なる。

昼食は15時前後、夕食は22時(昼の12時、夜の7時ではレストランもほとんど営業していない)。

体内時計をアジャストさせる。

それだけでも一苦労だろう。一度や二度の時間調整は、どうってことない。しかし、今まで生きてきた習慣を変える、というのは繊細な人ほど、心に負担がかかってしまう。肉体的にも酷使を余儀なくされるだろう。日本人の胃腸は欧米人とは違うわけだが、スペインは肉食中心で、タンパク質を分解できる胃腸を持っていないと厳しい。メニューに和食のようにあっさりしたものは少ないのだ。

また、前泊で選手一同で食事をするときには、昼から普通にワインがテーブルに出される。飲む、飲まない、は個人の裁量。しかし、それも日本とは違う光景だろう。

なんでもないように見える差が、ストイックに生きてきたものには堪えたりするはずだ。

そして、適応できない選手に対するチームメイトの反応は、思った以上に冷徹で、辛辣である。

スペイン、デポルティボ・ラ・コルーニャにルイゾンというブラジル人FWがいた。ブラジル、パルメイラスでゴールを量産し、大いに期待されてやって来たのだが、半年後にはお払い箱になった。プレー以前の問題で、スペインの生活になじめなかったのだ。

「お犬さま」

ルイゾンはチーム内でそう揶揄されていた。ロッカールームでもいつも一人、ほとんど一言も話さず自宅に戻る。ところが、散歩中の犬と饒舌に話している姿を、選手の誰かが見かけたという。それで陰で、お犬様と呼ばれるようになった。まるで、小学校レベルの話に聞こえるだろうが、「ともに戦えない選手」に対しては容赦がない。入団そのものが華やかであればあるほど、厳しい目を向けられる。早い話、嫉妬なのだ。

妬まれる側の疎外感は凄まじい。

スペイン人は会話をすることで、コミュニケーションを成立させる。日本のように、暗黙の了解という文化はない。会話ができない人間に対しては、「考えていることが分からない」という理由で、敵視に近い感情を覚える。日本人は表情の変化も乏しく、感情も見えにくい。柴崎の姿は、日本人が考えている以上に、内向的に映っているだろう。それに、本人も戸惑っているはずだ。

そして、柴崎の不安障害が重いのか、軽いのか、は別にして、危惧されるのはこうした報道でレッテルを貼られることはやむを得ない。スペインのロッカールームは無慈悲なところがあって、こうした選手を気の毒とは思っても、侮り、見下し、戦友として見なさなくなる危険性がある。お犬さま化してしまうのだ。

「2部で良かった」

柴崎のテネリフェ移籍で、そんな意見をしばしば聞いた。

しかし、とんでもない勘違いだろう。かつてスペイン2部は、家長昭博、長谷川アーリアジャスールのような日本代表クラスの選手でさえ、なんの爪痕も残せていない。こうした環境でチームメイトの一人として認められる、というのは相当の覚悟が必要になる。さもなくば、「挑戦」は「留学」に終わるだろう。

ちなみにルイゾンはスペインを去ってからブラジルで輝きを取り戻し、再びドイツのヘルタ・ベルリン、日本の名古屋グランパスに移籍しているが、こちらはやはり1年以内に帰国している。